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クマさんと鬼ごっこ  作者: 有北真那
Chapter-1 立チ上ガル光
2/25

2匹目 会議 - 集いし戦士達-

 

 6月20日

 警視庁4階・会議室───


 重たい空気が流れる一室、口を開く者はいない。ただ沈黙を続ける他なかった。

(ガチャ)

 私は扉を開き、唯一の空席に腰を下ろす。思っていた通り、苦しい程の雰囲気と白い目が向けられた。

「それではこれより[全国児童襲撃事件対策本部]会議を行います」

 私は意を決して口を開いた。

「いったいどういうことか、始めから説明していただこうか」

 1人が私に向かって抗議した。彼に続いて野次が飛ぶ。

「……分かりました、簡潔に説明します。まず、全国で小学生が襲われる事件が多発しているのはご存知かと思います」

 私は皆の顔を見渡した。

「そこで我々警視庁が全ての事件を比べたところ一致する点が非常に多いことから、このような対策本部を開かせて頂きました」

「ではなぜ6人しかいない? 全国から集めたんじゃないのか?」

「全国と言っても事件が起きてるのは限られた場所です。丁度いい機会ですので皆さんの紹介も含めて私から説明しましょう。まずは東京から、今回の指揮を取らせて頂く私[田沼和也]警視正と[四名本武弘]警視、被害件数は28。神奈川から[西川里奈]警視長、被害件数は27。山形から[高羽賢多]警視、被害件数は23。京都から[林田明太]警視正、被害件数は24。鹿児島から[山埼司]警視長、被害件数は27です」

 6人は互いに顔を見合せた。

「……1ついいですか?」

 高羽が手を挙げた。

「何ですか?」

 私はなるべく優しい口調で対応する。

「対策本部の設置やこの面々が集まる理由は分かりましたが………その、階級からいったら普通……指揮を取るのは西川警視長か山埼警視長なのでは……」

 高羽の言葉は語尾が弱まっていく。それもそのはず、普通はこんなこと触れてはいけない話題だ。

「警視総監が私を指揮監に指名したからです」

"警視総監"という一言で場の空気はさらに重くなった。

「私からもいいですか?」

 今度は西川が手を挙げた。

「先ほど一致する点が非常に多いと仰られましたが、詳しく伺えますか?」

 西川は私の返事を待たずに一気に話し終えた。

「もちろんです。こちらをご覧になって下さい」

 私は四名本に目で合図を送った。

 彼は部屋の明かりを落としてプロジェクターを起動させた。

「まず犯行時間ですが、午後5時から午後9時までの4時間の間にほぼ全ての犯行が行われています。場所は人気のない住宅街や公園、海辺等です。被害者の年齢は6歳から12歳までの小学生。被害者が会話できないことから詳しい犯行内容は分かりませんが、性的暴行が殆どと思われます。そして……」

 私は言葉を濁した。

「そして?」

 西川は続きを促した。

「被害者は全員………男の子なんです」

 私の言葉に部屋は一瞬騒ついた。

「では、犯人は女性グループということに?」

 林田が口を開く。

「そうとも限りませんよ」

 山埼が立ち上がった。彼は部屋の扉を開けた。すると外から1人の女性が入ってきた。

「先日まで仕事でアメリカにいたのですが、向こうの遺伝子研究所で出会った[Rily Reagan]教授です」

 山埼は彼女の肩に手を乗せた。セクハラだ。

「ハジメマシテ」

 Rilyはお辞儀しながら片言の日本語で挨拶した。

「それで、犯人が女性じゃないという根拠は?」

 私は話の続きが気になった。

「彼女のお父さんが人工衛星の管理の仕事をしていることから、貴重な資料を頂いたんですよ」

 Rilyは手に持っていた大きな茶封筒から写真のコピーを数枚取り出し、山埼に渡した。

「これは鹿児島での犯人と思われます」

 山埼は1人ひとりに写真のコピーを渡した。

「こ、これは!?」

 高羽が驚きの声を上げた。

「これは……確かな情報なんですか?」

 西川も驚きを隠しきれなかったようだ。

「もちろん、確かです」

 山埼は席に戻った。

 Rilyは山埼の後方の壁に寄りかかった。

「つまり………犯人は…男、ですか……」

 私は写真を見ながら言った。写真に写る男は耳が獣のように尖り、瞳に正気はなく目は吊り上がり、坊主頭には血管が浮き上がっている。190㎝を超える筋肉質の身体はもはや人間離れしている。

 重い空気はさらに悪化したようだった。さあ、どうやって次の話を切り出そうか……。

「それで田沼指揮監、私達はこれからどうすればいいのかしら?」

 再び西川が話を進める。噂通り、この人はそうとうできるタイプだ。じゃなきゃ警視長になんてなれやしないが。

「会議終了後、皆さん方にはすぐにそれぞれの署に戻って頂きます。そうしたらまずは手の空いている警官を2人1組でパトロールさせて下さい。時間や場所は先程のものを参考にして決めて下さい。そして一番大切なこと!」

 私は思わず身を乗り出した。

「犯人と思われる人物を発見しても、声をかけず応援を要請して尾行して下さい!」

「どうしてですか?」

 高羽がまた手を挙げた。この人はどうやって警視にまでなれたのだろうか……。

「尾行してグループまとめて逮捕できたら一件落着でしょう? それにいくら銃を持っていてもこんな熊みたいなのが相手じゃ……」

 西川は写真の男を横目に鼻で笑った。

「田沼警視正、頼みなんですが……」

 山埼が腕を組ながら言う。

「何でしょうか?」

 私は落ち着きを取り戻していた。

「Rily教授をこちらの本部に残していいかな? 彼女はパソコンの腕にも長けている。犯人の身元確認など、きっと事件解決の力になってくれるだろう」

 山埼はいたって真面目な顔で言葉を続けた。

「……分かりました、いいでしょう」

 私はRilyに向かって笑顔を見せた。

 彼女も笑顔で答えた。

「それでは、会議は終了でいいですかな?」

 林田が席を立とうとした。

「事件の情報は全て本部に連絡して下さい、どんな些細なことも全てです。それでは解散とします」

 私の言葉で四名本とRily以外の刑事が部屋を後にした。


「熊………か…」

 私は西川の言葉を思い出した。写真の男はたしかに熊そのかもしれない。

「クマさんと鬼ごっこ……ってところですかね」

 四名本は笑いながら言葉を残し、Rilyを別室に案内するために部屋を出た。

 彼女は私に一礼して彼についていった。

「面倒な事件になりそうだ……」

 私は椅子の背もたれに寄りかかり深い溜息をした。



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