16匹目 星屑 -散る刻は一瞬に-
タワー・入り口―――
「……来たわよ」
梢はエレベーターの前で銃を構えた。
「何も出てくんなよ……!」
拳次も祈りながら銃を向けた。
………。
「よし、行くか」
中に怪しいモノが無いことを確認してから一向は上へ向かった。
空―――
「どうした! 威勢がいいのは最初だけか!?」
田沼は中村の攻撃を紙一重でかわし続けていた。
「それは俺に銃弾の一発でも入れてから言うんだな」
田沼は機体を急旋回させて一瞬で中村の背後に回り込んだ。
「何ぃ!?」
叙々に口調が荒くなる中村は間一髪、田沼からのグレネード弾を回避した。
「貴様、ただの警官じゃないな!?」
「……あぁ」
「何者だ!?」
2機は空中で静止し、無線を通して話し始めた
「俺は………お前らと"同類"だよ」
「同類……だと?」
「正確にはお前以外のお前ら、と言ったほうがいいかな」
「……そうか、そういうことか! で、そんな貴様の狙いは何だ? まさか本当に警視総監様を助けたいだけなんて言わないだろうな?」
「俺はまだ動く気はない。お前らが暴れたいなら暴れればいい。だがな、これだけは言っておく……中矢を殺るのはこの俺だ!!」
「はっはっは! やっぱりそういうことか! だがまあ、それなら俺達がここで殺し合う意味はもう無いだろう」
「そうだな」
「なら俺は行くぜ。っつっても俺の仕事はもう終わっちまったがな!」
中村が方向転換をして背後を見せた時だった。
(カチッ)
「なっ!? 貴様……!!」
田沼はグレネード弾の発射スイッチを押し、打ち出された弾は中村の愛機を粉々に粉砕した。
「殺し合う理由は無いが、俺がお前を殺す理由はあるんだよ。俺は警察官だからな」
中村の機体の破片は白煙を纏いながら落下していった。
タワー・前―――
「あなたを死なせはしませんよ!」
林田の両脇には屈強な男が2人、サブマシンガンを構えて立っていた。
周囲にいた熊達は一瞬で崩れてしまった。
「すまない、助かった」
林田は男から銃を受け取りながらお礼をした。
「あなただけ置いていかれたのですか?」
SATの隊長、畑山が言った。
「あえて残ったんですよ」
「置いていかれたんだろ?」
機動隊の隊長、芳川が言った。
「相変わらず冷たいですね、芳川先輩」
「隊長と呼べ」
「話しはそこまでだ、来るぞ!」
畑山は襲い来る熊達の額を正確に貫いていった。
「腕は落ちてないだろうな!?」
芳川も畑山同様に熊を倒していく。
「ケルベロスの名前をくれたその目は今じゃ節穴ですか?」
林田は2人よりもさらに正確に、さらに素早く熊を消していった。
「やりますね、警視正殿」
畑山は熊の集団に手榴弾を投げ込みながら言った。
「そんないいものあるなら最初から……」
林田の声は爆音にかき消されてしまった。
「この調子で殲滅するぞ!」
芳川も手榴弾を投げていた。
「……っ!! 上!!」
林田が爆音が別にもしたのに気づいた時には、中村の機体の破片は既に近くまで来ていた。
「くそがぁ!!」
畑山は手榴弾を降って来る破片のほうへ投げ、それを腰にさしていた拳銃で打ち抜いた。
「ぐあっ!?」
爆風で林田と芳川は数メートル転がった。
「くっ、無茶しやがって……畑山隊長、大丈夫ですか!?」
芳川はすぐに起き上がって畑山を探した。
(パン! パン!)
「ぐあぁぁぁーーー!!」
銃声の直後、畑山の悲鳴が辺りに響いた。
「畑山隊長!?」
吉川と次いで起き上がった林田は声がしたほうへ急いだ。
爆煙が晴れると、胸から2箇所、血を流して横たわる畑山の遺体があった。
「そんな……一体誰が!?」
「私ですよ」
芳川の問いに答えるように犯人が姿を現した。
「……山埼!!」
林田は躊躇なく引き金を引いた。
「そう慌てるなって」
黒いマントを羽織る山埼は軽々とサブマシンガンの雨をかわした。
「私が生きていたことには驚かないんだな」
「お前が簡単に死ぬような奴かよ! まぁ、他の奴なら驚いただろうよ」
「やはり油断できない男だね、君は……。だからこそ私が君を殺りに来た」
山埼の左手には、林田にも芳川にも見覚えの無い銃が握られていた。
「試し撃ちは済んでる。どこからでもきたまえ」
山先は両手を広げて挑発した。
「調子に乗るなよ!」
「無闇に突っ込むな!!」
興奮した林田を抑えたのは芳川だった。
「状況はどうあれ畑山隊長を倒した実力だぞ、それにあの謎の銃だ」
「……そうですね」
2人は素早く距離を取ってヘリの残骸に身を潜めた。
「そんなとこへ逃げても無駄ですよ」
(パン!)
さっきと同じ乾いた安物の銃声。でもその弾道だけはおかしかった。
「ぐっ!?」
「先輩!?」
銃弾は残骸を貫通して芳川の左肩を貫いた。
「この銃は私達がアメリカで開発した特別製でね。厚さ30cmの防弾ガラスを軽く突き抜ける威力を持っているんですよ。だからそんなところに隠れたって……」
山埼は近づいてきながら言った。
「無駄なんだよ!」
(パン! パン!)
「くそっ!」
林田は芳川を抱えながら走った。
「まったくつまらないな……」
(パン! ……ダァァァン!!)
5発目に放たれた弾丸は2人の足元で炸裂した。
「ぐあぁぁぁ!?」
痛みと爆風で倒れる2人。
(ズガガガガ!!)
林田は倒れたまま引き金を引いた。
しかしやはり山埼は難なくかわしてしまった。
「詰みだ、林田警視正」
山埼は狙いを林田の額に向けた。
(パン!)
「まだだ!」
林田は芳川に突き飛ばされて銃弾を免れたが、代わりに芳川の右腹部が貫かれた。
「芳川先輩!?」
「林田……後は任せたぞ」
その言葉を残して芳川は山埼へと走り出した。
「仕方ないですね、あなたから殺してあげますよ!」
「なめるな!」
手負いのはずの芳川だが、山埼からの銃弾を走る速度を落とさずに避けていた。
「これが……機動隊隊長の覚悟だ!!」
山埼に抱きついた芳川の懐には栓の外された手榴弾があった。
「くそがぁぁぁーーーーー!!」
「せんぱぁぁぁーーーーい!!」
(ドゴォォォーーーーン!!!!)
「ハァ、ハァ……この私が、こんなところで……死ぬものか!!」
爆煙の中で山埼はまだ生きていた。
しかし全身を火傷が襲い、左腕はどこかへ吹き飛んでしまった。
「ヤマサキィィィーーーーー!!!!」
ふらつく山埼の目の前には瞳から涙を流しながら銃を向ける林田がいた。
(ズガガガガガガガガガガ!!!!)
銃口からは無数の銃弾が溢れ出し、その全てが山埼の身体を突き抜けていった。
「撃たれたから撃って……撃ったから撃たれて………俺達がしていることは、戦争じゃないか………」
林田は自分の非力さに打ちひしがれ、座り込んだ。
タワー・大展望台1階―――
「真っ暗ですね」
聖夜は辺りに警戒しながら静かに先頭を歩いた。
「ここには誰もいなさそうね」
梢は2階への階段に向かっていた。彼女も1人の母親、やはり息子の優太が心配なのだ。
「………」
「高羽警視?」
怖い顔でフロアの奥を見つめる高羽に拳次が声をかけた。
「すまない、先に行っててくれるか?」
「……はい、分かりました」
聖夜達は足音を立てないように2階へと上って行った。
「………それで隠れているつもりか?」
「さすがね、これでも気配は消していたんだけどね」
高羽の視線の先の暗闇から女の声がした。アイルに似た声なのは、彼女の妹だからだ。
「私はフィリス。よろしくね、ファントムさん」
姿を現したフィリスは腰までいく長い黒髪を真っ直ぐに下ろし、全身を黒いバトルスーツで包まれていた。
「俺は女でも容赦しないぜ」
高羽はデザートイーグルの銃口を彼女に向けた。
「そんなオモチャじゃ私は殺せないわよ」
フィリスは右手を前に出して人差し指を横に数回振った。
「試してみる?」
フィリスは意地悪そうに微笑んだ。
「試されてやるよ」
高羽は躊躇い無く引き金を引いた。
(ズガンッ!!)