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クマさんと鬼ごっこ  作者: 有北真那
Chapter-3 広ガル闇ト燃エ上ガル鼓動
17/25

14匹目 惨劇 - 飼い主を追って-


 警視庁・会議室───


「本庁付近に多数の熊が出現! ここを目指して迫ってきています!」

「市民の避難、間に合いません!」

「上空に謎のヘリを確認! 数は1!」

「くっ……とにかく市民の安全確保が第一だ!!」

 熊の突然の出現により会議室は大騒ぎになっている。

 とそんな時、西川警視長が席を立った。

「どちらに!?」

「警視総監に発砲と熊の射殺許可を貰ってくる!」

「私も……!」

「指揮官は持ち場を離れてはなりませんよ」

 男顔負けの勇ましい笑顔を見せ、彼女は部屋を出ていった。

 それと同時にヘリが1機、ガラス張りの本庁の外壁を急上昇していった。

「西川警視長……」

 しばらく考えた後、会議室を大杉警視に任せて私は彼女の後を追った。




 警視総監室───


「田沼は何をやってるんだ!? 早く騒ぎを収拾させるように急かしてこい!」

 中矢警視総監は高級な座椅子に踏ん反り返りながら警視総監補佐の男に怒鳴り散らした。

(………バババババ!)

 微弱なヘリの回転翼の音が次第に大きくなり、巨大なガラス越しにその姿を現した。

(ズガガガガ!!)

 ヘリの扉は開いており、女が重機関銃を連射した。

 轟音と共に傾れ込む銃弾の横槍が一瞬でガラスを粉々にし、補佐官の男は蜂の巣になり原形を留めることなく床に散らばった。

 恐怖に支配された中矢の体は1㎜も動こうとせず、その間に黒いスーツを着た女が2人、ヘリから飛び出してきた。

 床に着地するとその勢いのまま前転をし、1人は廊下へと続く扉の鍵を閉めてそのままそこでサブマシンガンを構えたまま立ち、もう1人は机を挟んで中矢の正面に立ち、ワルサーP22の銃口を彼に向けている。

「大人しく従ってもらおうか」

(パァァン!)

 渇いた銃声の直後、いや、ほぼ同時に銃弾は中矢の右胸に着弾した。

 彼は痛みを感じる暇もなく意識を失い、机の上に眠った。

「さすがドクター特製の麻酔弾、凄い効き目の速さですね」

 フィリスは感心したような顔で眠りに落ちた男を見た。

「さっさとヘリに運んで退却よ」

 アイルは銃を腰のホルスターに仕舞い、中矢を軽々と担いでヘリから降ろされた縄梯子に向かった。

(ドンドンドン!)

「警視総監、今の銃声は何ですか!? 扉を開けて下さい!!」

 鍵のかかった扉を外側から叩く女性の声が聞こえた。

「フィリス」

 アイルは縄梯子にしっかり捕まってから妹を呼んだ。

「分かってるわ」

 フィリスは扉に向かってサブマシンガンの引き金を引きながら、開け放たれた窓の方へ後退る。

 残弾が尽きる前に引き金から指を離し、ポケットから取り出した紙切れを床に落とし、縄梯子に掴まった。

 茶色い扉には無数の穴が開き、そこからはかすかな白煙が昇っていた。

 扉の向こう側からしていた声は、今はもう聞こえない。

(ピイィィィィ!)

「司!!」

 熊を誘導する笛を吹いた後、フィリスが機体に向かって叫ぶとヘリは建物から離れ、やがて煙幕弾を放ち、回転翼の音だけを残して姿を眩ました。


 エレベーターを待っていられなかった私は階段を1段飛ばしで駆け登っていく。

 その途中、あと少しで警視総監室というところで銃声が鳴り響いた。

 連続した3秒間程の轟音、機関銃の何かだろう。

「ハァ、ハァ……っ!! 西川警視長!?」

 扉とその正面の壁、それを繋げる床には無数の弾痕。

 微小なコンクリート片が行き場を知らずに彷徨って、辺りを白く曇らせていた。

 壁に沿って静かに近寄った私は、銃弾によって開けられた扉の穴の1つから部屋の中の様子を伺った。が、姿どころか人の気配すらなかった。

 あるのは小さくなっていくヘリの音と、床に寝る白い紙切れだけだ。

「西川警視長、大丈夫ですか!?」

 彼女が倒れている場所はボロボロになった床の脇だ。

 おそろく扉の正面にいたのだろうが反射的に横へ移動したおかげで、大量の銃弾をもろに受けずに済んだのだろう。

 私は彼女を抱き起こす。が、掌に生暖かい液体を感じた。それを見たとき、私の顔から血の気が引いた。

 黒々とした赤で染まった手。そう、彼女の血だ。




 会議室───


「大杉警視、我々も上に行きましょう!」

「今の銃声はただ事じゃないはずです!」

「西川警視長と田沼警視正が向かったんだぞ。大丈夫だ、2人を信じろ! 今は熊をなんとかして、市民の安全の確保だ!」

 最後の銃声の直後、会議室にいた刑事達が大杉警視に詰め寄って来ていた。

 しかしここで彼らを上に行かせるわけにはいかない。

 なぜなら……。

(ある日~、森の中~)

 携帯の着信音が鳴る。刑事達はしぶしぶ仕事に戻り、この音には気付いていないようだ。

 画面を確認すると田沼警視正の名前が表示されている。が、大杉がその着信に出ることはなかった。

 椅子に腰掛け、机に肘をついて組んだ両手を額につける。腕の隙間から見えるのは、かすかに口角の上がった彼の口元だった……。




 7月7日・18時

 警視庁・小会議室───


 狭い部屋には目に見えない何かが覆いかぶさるように沈んだ空気が流れていた。

 縦長の部屋には長机が綺麗に"0"を型取り、一番奥に田沼警視正兼指揮官が。その横に腰を下ろしているのは大杉警視。向かって右側には奥からケルベロスこと林田警視正、ファントムこと高羽警視。左側には井川巡査長、聖夜巡査長、そしてフェニックスこと元SATの梢。さらに現SATの隊長や機動隊の隊長等々、戦力となりうる隊の隊長がいる。

「……というわけで、小口巡査長の息子さんがヘリでさらわれ、20時に東京タワーに来いと言ってました」

 要塞ジャスティスでのことを林田が報告した。

「河浦巡査長は病院で意識が戻りました」

 何のかは分からないが、大杉は書類を捲りながら言った。

 聖夜はその言葉に少し安心を覚えた。

警視庁ここではヘリで直接警視総監室に乗り込んだ犯人グループが矢中警視総監を誘拐。さらに駆け付けた西川警視長が銃弾を4発受ける重傷を負い、運び込まれた病院での緊急手術の末、一命は取り留めたものの未だ昏睡状態のようです」

 田沼の拳は喋るにつれてより強く握られていった。

「あの、ところでそちらは……?」

 大杉が疑いの目で見たのは余所行きの服を着た短髪の女性だ。

「元警視庁特殊部隊狙撃支援二班の隊長をやっていました、小口の妻の梢と言います」

 梢は自ら自己紹介をした。すぐ後に高羽の、自分の先輩です、という声が聞こえた。

「それで、退職された人が今更……」

「分かりました、このまま会議にご出席下さい」

 大杉の言葉を遮ったのは指揮官、田沼だった。

 大杉は一瞬だけ不満な表情を見せたが、すぐに平静を装った。

「それで、これから私達はどうすれば……?」

 会議ではファントムの面影がない高羽が言った。

「行くしかないだろ、東京タワーに。例えどんな罠があろうと、犯人やつらを一網打尽にできる最初で最後のチャンスだ」

 田沼はゆっくり、しっかりした声で言い放った。

 そして続けてこう言った。

「まず、近辺の警察署にいる手の空いている警官に市民の避難をしてもらう。

その後、SATと機動隊で目標の周囲と上空を戦圧。

内部に侵入するのは……」

「私達が行きます!」

 いくつかの声が重なった。聖夜、梢、高羽だ。

「……やつらがどんな状況で待ち構えているか分からない。詳しいことは着いてからもう一度決めよう」


 席を立った戦士達は、それぞれの想いを抱えながら最後の戦いに備えた。




 東京タワー・前───


 時間は確実に22時に向かい、それに比例するように準備は進んでいった。

「市民の避難、完了しました!」

 大杉はタワーを見つめる田沼の背中に言った。

「SAT、機動隊共に配置に着きました。ヘリもいつでも飛べる準備が出来ています」

 大杉に続いて2人の隊長が駆け寄った。

「こっちもいつでも行けますよ!」

 戦士達は横一列に並び、田沼の指令を待った。

「今日で全国児童襲撃事件を終わらせ、その犯人を捕まえる。……行くぞ!」

 時刻は21時30分。

 終わりへの針は進み始めた。



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