13匹目 再会 - 包帯男と三獣神-
「………梢」
私ははっとした。名前を呼ばれたからじゃない。その声にだ。
「ありがとう、梢」
例えどれだけの間離れていても忘れない、忘れらるわけがない、愛する人の呼び声だ。
「お帰り……なさい!」
私はとめどなく溢れる涙を気にせずに聖夜に抱きついた。
(ギィィィィィ……)
扉の開く音が響いてくる。
「何だ!?」
俺は一旦抱き付くのをやめた。
「グォォォーーー!!」
すぐに熊の叫び声が続き、足音と共にそれは近づいて来る。
「まずいな」
「……あっ、河浦さん!」
梢は気付いたように瓦礫の上に倒れる男に駆け付けた。
「竜一!?」
意識がないようだ。
俺は竜一の手から銃を奪った。コルトだ。残弾数は5/6発。
「私に貸して」
そのコルトを梢がさらに奪った。竜一のポケットから予備の弾もくすねている。
「でも……!」
「私を誰だと思ってるの? 元警視庁特殊部隊狙撃支援二班の梢隊長よ! 元SATの私に任せなさいって!」
銃を持った彼女の目は人が変わったように輝いていた。
「さすがフェニックス。どんな死線も潜り抜けてきたんだもんな……分かった、任せるよ」
「夫婦でいちゃついてるなよな」
不意に声がした。
俺と梢は同時に竜一を見たが気絶したままだ。
「聖夜、お前は竜一と一緒に引っ込んでいろ」
空き部屋だと思っていた部屋の奥から全身を包帯に包まれた男(?)が現れた。
手には散弾銃の[レミントンM870]が握られている。
「なぜ俺の名を……!?」
「来たよ!」
俺の質問は答えを貰う前に消えた。
この薄暗い中でも梢には遠くが見えていた。
(パァン! パァン!)
俺は言われた通りに竜一を担いで部屋の中に隠れた。
「このままここにいても銃弾が尽きたらお仕舞いだ。出口を目指すぞ」
包帯男がショットガンを構えながら先頭をきった。
「私が後ろから出口までを指示します!」
銃の性能から梢は先頭を包帯男に任せ、後方支援に回った。
俺は竜一を背負ったまま2人の間に位置した。
(ドォゥン!!)
この場所での散弾銃はかなり効率が良いようだ。
都内・街中───
「はぁ……はぁ……!」
港からどれだけ進んだのだろう? 町には熊が溢れ返っていた。
(ズダンッ!! ズダンッ!!)
「やはり歳か?」
デザートイーグルをぶっ放す高羽と私とでは歳の差は2つしかないのだが、やはり40を越えているのといないのとでは違うな。
正直かなりキツい。
「………あれは……」
私は一際周辺に熊が多い建物を見た。
「高羽、あそこに行くぞ!」
私は息を吹き返して走り出した。
「まさか……ジャスティスなのか!?」
だとしたらヤバイ。中には熊となった人達が大勢いる。なんとしてでも食い止めなければ!
「そろそろソレも使う時期かもな」
私は高羽の切り札、黒き幻を見ながら言った。
「お前がくたばりそうな時になら使ってやるよ」
憎まれ口は相変わらずだな。
私達は熊の群れの中に突っ込んだ。
「ウォォォーーー!!」
(ズカッ! ドスッ!)
「ハァァァーーー!!」
(ズダンッ!! ズダンッ!!)
ヘリ・1号機───
「……そろそろだ」
運転席の司が呟く。
「とりあえず近くで一度着陸して熊達を放つ。再度離陸して一気に目的のフロアに侵入するわ」
私は今までの空気を一変させ、張り詰めた緊張感を出した。
「まさか本当に警視庁に攻め込むなんて思いませんでしたよ」
妹は表情を崩さずに言う。機内に同じ顔が2つあるというのはなかなか妙なものだ。
「今回の私達のミッションは警視総監の拉致よ。確保できしだい、すぐに退却する」
「熊達はどうするんだ?」
司が体を傾けるとヘリが同じ方向に進路を変えた。
「例の場所に戻るように笛を鳴らすわ。司は上空で待機、打ち落とされないでよ?」
「私がそんなヘマをすると思っているのか?」
ヘリは高度を一気に下げ、警視庁近くの空き地に着陸した。
(ピィィィィ!)
「目標地点は警視庁、警視総監室。……さぁ、行くわよ」
ヘリは再び大空へと飛び出した。
ジャスティス・内部───
(ドゥン!!)
「道はこっちで合ってるんだな?」
包帯男は熊を確実に散弾銃で仕留めていく。さらに後方からの梢の援護が絶妙なタイミングで入る。
こいつがSATにいたことなんてすっかり忘れていた。
「そこを左! そしたら階段が………!!」
梢は気付いた。
「ゆ、優太が……いない!?」
息子の姿がどこにもない。熊に襲われた2人の刑事は裸で倒れているが、優太はどこにもいない。
「優太も来てるのか!?」
俺も辺りに目をやるがそれらしき姿は見当たらない。
「……とにかく一度地上に出る! ここに留まっていたんじゃ俺達が死ぬ!」
包帯男は散弾銃を連射して階段を駆け上がる。俺と梢は後ろ髪を引かれながらも包帯男を追った。
「……おかしい、急に熊の数が減ったぞ?」
包帯男の散弾銃は火を噴くのを止めた。
「上に仲間でも来てるのか?」
俺は梢の顔を見た。
「唯一知ってそうな人はあなたの背中で気絶してるわ」
その言葉で急に竜一の重さが増した気がした。登りの階段はつらい。
「……地上だ!」
包帯男は散弾銃をしっかりと構えながら階段を登りきった。
俺達もそれに続いて1階に到着。
「こ、これは……!?」
俺は言葉が出なかった。何体もの熊が息絶えていた。
そしてエントランスの中央に男が2人いる。
「高羽君! 林田さん!」
最初に声をかけたのは何と梢だった。
向こうは驚いた顔で彼女を迎えた。
「梢隊長、何でこんなところに!?」
高羽と呼ばれた男はヘコヘコしながら驚きを隠せずにいる。
「もう隊長じゃないわよ。夫を救けに行ってたの、ふふ」
梢が俺に視線を送り、2人もこっちを見てきたのでとりあえずお辞儀をしておいた。
「神奈川県警の小口聖夜巡査長です」
梢の知り合いでしかも隊長と呼んでいるということは同業者で間違いないだろう。
「山形の高羽警視だ、昔は梢さんの班にいたんだ」
「この子の銃の腕は私並よ! 銃神・ファントムなんて呼ばれていたんだから!」
どうりで梢に頭が上がらないわけだ。ってか警視って偉! なのにその黒ずくめの怪しい格好は何だ?
「京都府警の林田警視正です」
「この人は警視庁の第一機動隊にいたんだけど一緒に事件に当たったことがあるの。昔はイケメンで強くてケルベロスなんてあだ名だったのよ!」
こ、今度は警視正!? そんな方々が何でこんなところに!? ってか俺だけ場違いでしょ、ケルベロスにファントムにフェニックスって………生きる三獣神?
「そういえば包帯男は……?」
俺は辺りを見回した。すると玄関の方に歩いていた。
「おーい、包帯男!」
俺が駆け寄よると同時に外でヘリの音がした。
俺達は急いで外に出るとヘリから垂れ下がる縄梯子に捕まるいかにもな科学者がいた。
その腕には1人の子供………まさか!?
「優太ーーー!!」
梢は必死に声を張り上げる。しかし声は届かない。
優太は俯いたままだ。恐らく気絶しているだろう。
「この坊やを帰してほしくば今夜10時に東京タワーの特別展望台に来たまえ」
その言葉を最後にヘリはビルの陰に消えた。
「(優太……必ず助けるからな!)」
俺は心の中で自分自身に誓いを立てた。
「聖夜」
包帯男はその包帯を外し始めた。いったいこの男は何者なのか……、その謎はすぐに吹き飛んだ。
「お前………生きてたのかよ……………井川!!」
包帯の中から現れたのは井ノ部と心中したと思っていた井川拳次だった。
俺は涙目になりながら思わず抱きついた。
「やめろ気色悪い!」
井川は笑いながら俺を引き剥がす。
「でも何で生きてて、何でこんなとこに?」
あの時、確かに首に噛みつかれて頸動脈をやられたはずだ。生きてる可能性なんて万に一つもないと思っていた。
「実はあのバカ、俺の首じゃなくて自分の手に噛み付きやがったんだ。そんで耳元で言ったのが「俺を殺してくれ」だ。そしたら後から来た刑事共に熊と勘違いされて気絶させられて、気付いたらあそこにいたわけだ。散弾銃を何で持ってたのかは分からないけどな」
こんなことがあるのか? コンビが生んだ奇跡とでも言うのか。
「私は信じるよ、そんな奇跡みたいな話でも」
梢がニコニコしながら俺を見ている。何か良い事でもあったのだろうか?
「まあ、お前が生きてるってことはそうなんだろうな」
俺はもう一度井川に抱きついた。
「再会を喜ぶのはそこまでにして、とりあえず本庁に戻って作戦会議だ。フェニックス専用銃もまだ置いてありますよ」
場をまとめたのは林田警視正だ。さすがは警視正だな、うん。
「まずは戻って一息つきたいぜ、重傷者もいるいるみたいだし」
高羽警視は皆を見回してボロボロだな、と笑い出した。
「あ、竜一……」
そして俺達はこれから戻るんだ、たった今警視庁が襲撃されているとも知らずにそこへ。
ジャスティス・内部
聖夜
梢
拳次
竜一(気絶)
林田警視正
高羽警視
ジャスティス・外
Dr.Yamazaki
優太(拉致)
中村中佐(操縦)
警視庁・内部
田沼警視正(指揮監)
西川警視長
中矢警視総監
警視庁・周辺
アイル
フィリス
司(操縦)