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クマさんと鬼ごっこ  作者: 有北真那
Chapter-2 悪夢ヘノ回廊
10/25

9匹目 七夕 - 運ばれる闇-


 7月6日

 警視庁───


「け、警視正ーー!!」

 大杉が大慌てで走ってきた。

「た、たたた大変です!!」

 梅雨のじめじめ感もあり、彼の汗は異常な量だった。

「そんなに慌ててどうした?」

 その焦り様に私は少し恐怖を感じた。

「鹿児島発、東京行きの便が……飛行中黒煙を上げながら高度を下げ、海面に衝突し爆破しました! これがその時の乗客リストです!」

 皆がいっせいにデスクに集まった。

 リストの中にはマーカーで目立たされた名前がある。

「……山埼司、牟田晴美」

 私は読み上げた。

 沈黙と重い空気がこの場を支配した。

「ただの事故とは思えない、すぐに調べてくれ」

 私は椅子に戻りながら言った。

 部下達は小さな返事をして重い足取りで持ち場に戻った。




 同日───


「乾杯、ドクター」

 私は赤ワインを一口飲んだ。

「これが最後の晩餐にならないことを祈るばかりだな」

 彼も同じものを飲み、いつものように明るく言った。

「それにしてもどうやってこんな客船のチケットを?」

 タイタニックを彷彿させるかのような豪華客船に、凶悪事件の犯人の私達がどうして乗れたのだろう?

「何、簡単さ。チケットを持っている人が熊に襲われ、そのチケットをくすねただけだよ」

 彼は普段の白衣とは真逆の黒いスーツを着こなしている。

「ずいぶん酷いことするわね、私達」

 赤いドレスに身を包み、髪は束ねず自然と後ろに流している。

「今日は僕らだけじゃなくて、皆集まっているよ」

 彼は私の後ろに目をやった。振り返ると男女が1人ずついた。

「アイル姉さん!」

 黄色いドレスを着た女の方が私に抱きついてきた。

「来てたのね[フィリス]」

 私は妹の頭を撫でた。

「それと、山埼警視長」

 私は嫌らしい笑みを浮かべて男を見た。

「おいおい、その呼び方は止めてくれよ」

 山埼はタキシードを着ている。

「4人が揃うのは久々ね」

 私達はもう一度乾杯した。

「司は大丈夫なの? こんなとこにいて」

 私は尋ねた。

「ああ、私は飛行機が墜落して死んだことになっているからね」

「あらあら、ずいぶんとお仲間を悲しませるのね」

「そんなことより、熊達はちゃんと向かっているの?」

 フィリスが心配そうな顔をしている。

「大丈夫だよ。だって熊達もこの船に乗っているんだからね」

 Yamazakiはワインを飲み干してから言った。

 だが待て、今何と?

「乗ってるの……? この船に!?」

 フィリスは目が点になっている。私もこれは初耳で驚いた。

「そろそろ起きるかもしれないから、避難しとこう」

 司がワイングラスを回しながら歩きだした。私達はその後に着いていく。

 船の上で避難ってどこにだろう……?


「これは………!?」

 ただの廊下の壁だと思っていたところが実は部屋の扉だった。

ドクターは知っていたようだが、私達3人は目を丸くしている。

「……何か声が聞こえる」

 妹が耳元で手を広げる。彼女の特殊能力で、常人には聞き取れない遠くの音や小さな音が聞こえるのだ。

「きっと熊達のパーティーが始まったんだろう」

 司の口元が緩む。よくこんなん性格で刑事になれたものだ。

「ところで、熊達は性欲を満たしたら次に何をするか、知っているかい?」

 Yamazakiは椅子に腰かけ、足を組んだ。

 ワイングラスはテーブルに静かに置かれた。

「いいえ、知らないわ」

 私と妹は同時に答えた。

「次は食欲を満たすんだよ。……フフフ」

 船は確実に東京に向かって進んでいる。月明かりの下、静かな海を。

 この先の悲劇を知ってか知らずか、波の音は規則正しく奏でられていた。




 7月7日2時───


 日付を越え、真夜中というのに寝付けない私はソファーに座り水を一口飲んだ。

 熊事件は解決しないどころか刑事の命が失われていく。どうにかならないものか……。

「私はお前の分まで生きられているか?」

 テレビの横に置かれた写真に向かって呟いた。

「警視総監の[中矢温志]は……娘のことが忘れられ……寝よう」

 私は[美帆]に別れを告げ、今度こそ寝るぞと意気込んだ。

 その結果、寝つくまで20分はかかってしまった。




 同日4時───


 ふと目が覚めてしまった。

 空の漆黒は力を弱め、目覚めの時を待っていた。

「5月22日にあの子がいなくなって今日が7月7日……七夕なのに、あなたはどこにいるの?」

 ベランダの笹の葉には短冊が吊されている。

"拓哉が早く帰ってきますように"

「あなたも拓哉がいなくなったこと、知ってるわよね……温志さん」




 同日6時───


 雀の鳴き声で目が覚めた。

 私はリビングで河浦さんに渡された地図に目をやり、もう一度考えてから覚悟を決めた。

「会いに行くわ、聖夜」

 私は優太を起こしに寝室に向かった。




 同日7時───


 雲1つない青空がどこまでも広がる。いつもと同じ1日が、いつもと同じように始まり、いつもと同じように過去になっていく。誰もがそれを疑わない。

 この世に永遠がないことを知りながらそれを認めようとはしない。始まりがあるものに終わりは必ずくるのに……。

「西に飛べば夜は来ない」

 そう思って翼を広げたあの鳥も、60億のワタシ達も、この星にさえも、終わりはきてしまうんだ。

 大切なことは終わりを延ばすことじゃない。終わりを迎えたとき、どう思えるか。どう思えるように過ごすかだ。

「死んだ後はどうなるのか」

 そんなこと考えるのは早過ぎる。まずは"人間"を生きなければいけない。


 終わりはくる。その事に変わりはない。ワタシ達が生まれたその瞬間から、終わりは始まっている。



参考

UVERworld/コロナ

RADWIMPS/ヒキコモリロリン


from.ルキ



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