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クマさんと鬼ごっこ  作者: 有北真那
Chapter-1 立チ上ガル光
1/25

1匹目 初動 - 戦禍の火種-


この物語は「街のクマさん」を参考に書かれているため、多数の類似点、共通点が存在することを予めご了承下さい。




挿絵(By みてみん)


絵:夢見月空音

作者:有北真那




 神奈川県・某所───


「…続いてのニュースです。神奈川県内の公立高校に通う熊田拓也さん18歳が、5日前から行方が分からず連絡も取れないということで昨日27日に両親から失踪届けが出されました。これについて警察は誘拐の可能性も視野に入れて捜索する模様です」

 ブラウン管の中で綺麗なアナウンサーが淡々と話している。

「最近こんなニュースばっかりね」

 台所で人参を切っているお母さんが呟く。

「そうなの?」

 僕はゲームを一時中断して耳を傾ける。

 画面の中では主人公が熊に襲われる直前だった。

「今月に入って8人目よ。それも全部神奈川で。優君も気をつけてね」


 僕は小口優太小学2年生。皆と変わらない普通の子供。でもいつか超能力が使えるようになるって信じてます。

 お母さんは梢約30歳。優しいけど怒ると怖い。リビングの壁にへこんでる部分があるけど、訳あってお母さんが殴った場所です。

 お父さんは僕が生まれてすぐに蒸発したらしい。


「優君、そろそろ寝なさい」

 お母さんが優しい口調で言った。今のうちに言うことを聞いておかないと後が怖い。

「はーい」

 僕は主人公が熊にヤられる前に電源を切った。

 果たしてあの人参は何に使われるのだろう…?




 アメリカ・遺伝子研究所───


[KEEP OFF]と書かれた紙が貼られた扉を慎重に開ける男がいた。

「What is it?」

 男は中にいた女に声をかける。

「This is Japanese man」

 女は白衣を身にまとい、黒く長い髪を後ろに束ねている。

 男は後ろから見える女の首筋にしばし目を奪われた。

「Man…? Isn't he bear?」

 男は鼻で笑いながら聞いた。

「………He is…」

 女は男に振り向いた。

「He is those who suit」

 女は眼鏡を胸ポケットに入れ実験室を後にした。その顔は何かを達成した満足感で溢れていたが、瞳は冷たいままだった。

 男は実験体に近づいた。190㎝を越えるガタイの男は意識がないまま表情は苦痛で歪んでいた。鼻や腕には無数の管が刺さっている。

 薄暗い実験室をよく見ると壁や床、機材は血まみれだ。奧に目を凝らすと肉片が転がっていた。

 男は頬に汗が伝うのを感じた。表情を固めたまま男は実験室を後にする。




 神奈川県・川崎市───


「また明日ー!」

「ばいばーい!」

 日が暮れ始めた頃、僕らはそれぞれに別れを言って家路につく。

 そうして家について食事、テレビ、風呂、ゲーム、就寝………翌日の朝日を拝み、学校に行く。

 何ら変わりない日常がこれからも続くと思っていた。

(タッタッタッ)

 僕は言い知れぬ不安を抱えて駆け足で家に急いだ。

「そこの僕……」

 不意に物影から声がした。僕は足を止めて声がする方に意識を向ける。

「僕は小学生?」

 低い小さい声だ。

「そ、そうだよ」

 僕は一歩後退りながら答える。

「名前は何かな?」

「……駆」

「駆君か……美味しそうだな」

 僕は耳を疑った。"美味しい"という言葉を食べ物以外に向けて発せられるのを初めて聞いたからだ。

 だが次の瞬間、僕の思考は完全に停止した。

 声の主は姿を現すと僕の服を引き裂いた。190㎝の巨体を前に、僕は悲鳴すらあげられなかった。


「グルゥゥゥ……」

 欲求を満たした男は獣のような声を出しながら闇に落ちていく街に溶けていった。

 僕は薄れゆく意識の中、恐怖と痛み、そして変わらぬ日常が音を立てて崩れ落ちたのを覚えた。




 小口家───


「…続いてのニュースです。昨日14日の18時頃、神奈川県川崎市に住む花井駆君9歳が何者かに襲われる事件がありました。駆君は命に別状はなかったものの深いショックからか未だ会話ができない状態のようです。小学生を狙った事件は今月に入ってから多発していて、都内で16人、神奈川12人、山形8人、京都11人、鹿児島9人と国内全域で起きていてその数は増える一方です」

「小学生のお子さんを持つ保護者の方は一層の対策をお願いします」

 横のアナウンサーが続けて言い、CMに入った。


「やだ、怖いわね」

 お母さんが今日は大根を切りながら呟く。

「別に大丈夫だよ」

 僕は他人事のように言った。

「被害に遭った子だって皆そう思ってたはずよ…。優君だって狙われるかもしれないんだから夜は遅くなっちゃダメよ、絶対に」

 お母さんは切った大根をタッパに詰めた。どうやら漬物を作っているらしい。

「分かってるって」

 ゲームの画面では主人公が熊に食べられた。それを期に僕は電源を切ってゲーム機を放り投げた。

「僕は…大丈夫だよ」

自分に言い聞かせるように繰り返し呟いた。




 熊田の失踪届け提出から3日後

 アメリカ・遺伝子研究所───


(ガラガラガラ)

 実験体を乗せたストレッチャーは別の部屋に運ばれている。

「Is he…bear?」

 以前とは別の男が女に聞いた。

「He is Japanese man. I received the same question from "Reno"」

 女は実験体を見つめながら答える。

「How will this man become it in the future?」

 男も実験体を見つめた。

「………」

 女は不適な笑顔を浮かべて何かを呟いた。

 男はその言葉の全ては聞き取れなかったが、唯一聞き取れた言葉を続けて呟いた。

「………Clone?」


 ストレッチャーはとある一室に入った。この部屋の扉にも[KEEP OUT]と書かれた紙が張ってある。

「Dr."Yamazaki"」

 女は中の男に声をかけた。

「Hi,"Rily"」

 Yamazakiは明るく女に手を振った。もう一方の手には注射器がある。

 Rilyともう1人の男はストレッチャーを手早く奧に移動させた。

 部屋の中は液体が入った大小の試験管や、何台ものパソコンが並んでいる。

 真ん中から奧半分は厚い鏡で仕切られている。そっち側には大の男が余裕で入れるくらい巨大なガラス製容器が4つあった。

「Dr.Rily,How does he become it?」

「Dr."Jane"……」

 Rilyは右手に隠し持っていたメスでJaneの腹を刺した。

 Janeは悲鳴を上げながら床に倒れた。刺された箇所を必死に押さえるが溢れる血は止まらない。

「"Tim"」

 Yamazakiは特に驚いた様子を見せずに助手を呼んだ。

 Timは他の助手数名と共に部屋に入ってきてJaneを担いでどこかに行った。

 助手の1人が床に広がった血痕を拭き取る。

 助手達はすぐに別の入口から鏡の向こう側に直接入り、Janeを容器の1つに入れた。

 よく見ると他の3つには既に先客がいた。

 助手達は慌てることなく、計画されていたかのように素早く行動している。

「アトハマカセタワ」

 Rilyは片言の日本語でYamazakiに声をかけ、部屋を後にした。

「任せてくれ」

 Yamazakiは閉まった扉に向けて呟く。その表情はさっきまでの陽気な男とは別人だった。



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