第八話〜不倫と托卵と制裁~
私は黒猫である。名前はまだない。私は時々ここに来る。
最近ではレトロと言われる、昔ながらの喫茶店だ。
普通、猫である私は店に入る事はできない。だが、ここのマスターは、何も言わず私を迎え入れ餌までくれる。
私は餌をもらい、少しの時間ここでくつろいでいく。
「すいません、こんな所でお話を聞く事になってしまって」
「いえ、こちらこそすいません。わざわざ仕事場の近くまで来ていただいて」
数人の男達がテーブルに座って話していた。どうやら、話の内容から男のうち二人は刑事のようであった。
「あの、これを見ていただきたいのですが」
そう言って、刑事の一人が男に写真を手渡した。
「この女性に見覚えはありますか?」
写真は、女性の顔をアップにしたもののようだった。動画の一部分を切り抜いた画像のようである。男は、写真を見て驚いた顔をしていた。
「この女性がどうかしたんですか?」
男は動揺しながら刑事に質問をした。
「この女性があなたの奥さんを殺した犯人です」
男はさらに動揺していた。
「この人が殺した?」
男が呟く。
「この女性を知っているのですか?」
男の様子から知り合いなのだろうと判断した刑事が聞く。
「はい!知っています」
「この女性は誰なんですか?」
刑事は、男に詰め寄った。
「何故、この人は彼女を?」
「捜索上の事ですので、詳しくお話しする事はできません」
刑事が事務的に答えた。
「教えて下さい!そうでなければ、この人について教えません」
刑事は、男にそう言われて困っていた。もう一人の刑事と相談しだす。
「わかりました!本来、お話しする事はできないのですが、今回だけ特別です」
「お願いします」
何度かの問答の末、刑事達は男に事件の内容を話す事にした。
「今回の事は聞かなかった事にして下さい!そして、たぶんショックを受けられる内容だと思います」
「わかりました!覚悟して聞かせていただきます」
男は刑事達を真っ直ぐ見つめた。覚悟をした顔であった。
「この女性は、あなたの奥さんと、あなたの上司の方の二人を殺しています」
男は黙って、刑事の話を聞いていた。
「馬乗りになり、刃物で何度も刺しています」
それを聞いた男は息を呑む。
「何故そんな事を?」
「奥さんと上司の方は不倫関係にあったようです」
男の疑問に刑事が答える。
「浮気?」
「知らなかったのですね」
刑事が言いにくそうにしていた。
「奥さんは妊娠されていましたよね」
「はい…」
男は動揺した状態て答えた。
「ある人の証言では、奥さんのお腹の中の子は、上司の方の子供だと聞いたそうです」
「托卵…」
男が力なく呟く。
「最近ではそう言うそうですね」
刑事が言った。
「じゃあ、二人を殺した理由って…」
男が呟いた。
「はい!おそらくそれが理由ではないかと考えています」
「だから、私のところに…」
「はい!」
刑事は静に答えた。
「この女性は、あなたの関係者てすよね?そうでなければ、こんな事はしません」
刑事はさらに畳み掛けるように言う。
「彼女は、あなたの恨みを代わりにはらそうとしたんじゃないですか?」
口調が尋問のように変わり初めていた。刑事はそれに気付き、口調をあらためる。
「その人は、私の姉です」
男が静に答えた。
「お姉さんですか?お姉さんの連絡先を教えていただけますか?」
刑事が男に聞いた。
「姉は、一年前に死にました」
「は?」
刑事が間抜けな声を出す。男は、もう一度写真を見ていた。その画像には、般若のような顔で、半狂乱になっている女性の顔が写っていた。