第六話〜男の独り言~
私は黒猫である。名前はまだない。私達猫は基本的には夜行性である。
私も夜中に活動している。人間が全くいなくなった夜中に、私は工事現場に来ていた。
この場所には、隠れる所や高い場所などが複数あって、居心地がいい。私は、高く積まれた資材の上でくつろぎはじめた。
「オレの昇進が気にくわなかったんだろ!」
工事現場の端には、仮設の事務所がある。事務所として使っている小屋の前に、一人の男が座っていた。
酔っ払っているのか、一人で話している。
「だから、嫌がらせをしてたんだろ!」
それ程大きな声ではない。
「オレが担当するお客を取ったのも、嫌がらせだろ!」
男は、語気をあらげる。
「会社内に変な噂を流したのもオマエだろ」
誰かに話しかけているようにも聞こえる。
「オレが目障りだったのか!だから、オレが付き合ってた彼女まで奪ったのか!」
男は、事務所を背にして座っている。
「彼女が、喫茶店でオレに説教しだしたのには驚いたよ!」
目線は定まっていないように思う。
「彼女にも、ある事ない事吹き込んだんだな!」
男は、怒りからか拳を握っていた。
「どんなに弁明しても聞き入れてくれなかったよ!」
目が泳ぐ。
「最後には水をかけられるしまつだ」
男は天を仰ぐ。
「あの日、オレはオマエを見かけたんだよ」
話しが変わったようだ。
「オレの家が火事になった日だよ」
声が震えはじめる。
「家が火事になった時、オレは知り合いと近くの居酒屋にいた」
男は、ため息をつく。
「火事で死んだのは、母さんだけだよ」
少し沈黙が流れた。
「オマエだろ!オレの家に火をつけたのは!ちゃんと調べたよ」
最後は力が抜けたような話し方だった。
「君もオレの母さんとは仲が良かったじゃないか!君もグルだったのか?」
ため息をつく音が聞こえた。
「もう、どっちでもいい!」
男は立ち上がり、近くに置いてあったポリタンクを持ち上げた。フタを開けて、中の液体を事務所にかけ始めた。
私の鼻は、強い匂いを嗅いでいた。これはガソリンだ。
「二人で仲良くな!」
男は力なく言いながら火をつけた。事務所は、すぐに火に包まれた。
「ハァ〜」
男はため息をつきながら、フラフラと歩き始めた。
私の耳には聞こえていた。事務所の中の男女のうめき声が。




