第五話〜黒い服の女2~
あの夜以来、私はこの町にかよっていた。この町が何処なのかは、まだ教えるわけにはいかない。
ただ、東京都の23区外とだけ言っておこう。
私は、仕事の空き時間を利用して、この町について調べ始めた。
私はあの時の事が、どうしても頭から離れなくなっていたからだ。
あの夜、音が鳴り響くエレベーター。その前で立ち尽くす私達。そしてその私達を見つめる黒猫。
私は本気であの猫とこの町を調べるつもりでいた。
SNSなどのネットの情報を駆使して、この町で起きた事件を調べる。
そして、その関係者から事情を聞く。あるいは、現場の近くに住む人などに話を聞いてまわっていた。
そうして解った事がある。この町は異常だ。遥香が言っていたように、事件が多すぎる。
「あの黒猫と関係があるのかしら」
私は一人で呟いていた。この町でおきた事件を一つ一つ調べていけば、何か解るかもしれない。
そうして、私はこの町に関わり始めた。
今日会うのは女子高生だ。少し前に、須藤明里という女子高生が行方不明になった。
彼女は、その須藤明里の同級生だ。
「はじめまして、山寺美里と言います」
そう言いながら、私は彼女に名刺を手渡した。
「あ!私、川西麗奈と言います。明里の同級生です」
そんな風にして、私達は自己紹介を終えて話しを始めた。
「私達、いつもこの道を通って帰ってたんです。」
川西麗奈は、そう言いながら公園の前を通る道を案内してくれた。
「須藤さんとは、この道で会ったのが最後なのよね」
「はい!学校の帰りにここで待ち合わせて」
川西麗奈が、辺りを見渡しながらそう言った。
「その時、須藤さんに変わった事はなかった?」
私は、川西麗奈の様子を見ながら尋ねた。どうやら、何か言いたそうな素振りをしていたからだ。
「明里、行方不明になる少し前から、ちょっと変な事を言い出したんです」
「変な事?」
川西麗奈が話し出した。
「少し前から、そこの公園に黒い服の女性が立ってるって言い出して」
「黒い服の女性?」
「はい!私は見た事ないんですけど、長い黒髪に黒い服の女性が、立ってるって言ってて」
川西麗奈は首をかしげながら話していた。
「あなたは見た事ないんだ?」
私が尋ねる。
「はい!それで、なんか変な事がおきるようになったらしくて」
「変な事?」
私は、須藤明里におきたという内容が気になっていた。
「なんか、この公園の前を避けて違う道を通ろうとしてるのに、この道に来ちゃうようになったらしいんです」
「どういう事?」
私は、さらに尋ねていた。どうやら、須藤明里は、この公園で黒い服の女性をたびたび目撃するようになったらしい。
気味悪く思った須藤明里は、この公園の前の道を避けて帰ろうとした。
しかし、どうしてもこの道に来てしまうようになったのだという。
「それで、その黒い服の女性に話しかけられるようになったらしいんです」
「話しかけられたの?なんて?」
私は、勢いよく聞き返していた。あまりにも好奇心にかられたからだ。
「なんか、どうでもいい事ばっかりだったみたいです」
「どんな?」
「今日は一人なの?とか、髪が傷んでるよ、とか」
たしかにどうでもいい事だった。私は拍子抜けしてしまっていた。
「ただ、すごい離れた距離なのに、耳元で囁かれたみたいだって言ってて」
「耳元で?その女性って公園の中にいるのよね?」
私は少し疑問に思ってしまった。公園の中から、この道までは距離がある。話しかけるためには、そこそこ大きな声でなければならない。
「そうなんです!おかしいですよね?」
川西麗奈が少し引きつった表情をしていた。
「それで、あの日!明里と最後に会った日なんですけど…」
「何かあったの?」
私は、身を乗り出すようにして聞いた。
「明里、朝からずっとイライラしてて!」
「イライラ?」
「イライラというか、怒ってる感じだったんですよ」
須藤明里は、その日いつもと様子が違ったようだ。でも、怒ってるとは、何に対してだろう。
私は引っかかっていた。もしかしたら、その黒い服の女性になのだろうか。
「それで、その日の帰りに怒りながら、言ってたんです!今日で決着をつけてやる!って」
「決着?」
「はい!」
須藤明里は、何と決着をつけるつもりだったのだろう。黒い服の女性とだろうか。
彼女は、その黒い服の女性と何か揉めていたのだろうか。
「それでどうしたの?」
私は、川西麗奈に話の続きを促した。
「放課後、この道で待ち合わせをしてたんですけど」
「彼女の様子はどうだったの?」
「普通でした!」
「怒ってなかったの?」
「はい!」
須藤明里は、その日何かと決着をつけようとしていた。
やっぱり、黒い服の女性と何かあったとしか考えられない。
「その後はどうしたの?」
「普通です!普通に一緒に帰って、家の途中で別れました」
「それだけ?」
最後は拍子抜けする感じだった。でも、その後、須藤明里の行方はわかっていない。
そう、川西麗奈と別れてから行方不明になっているのだ。
この後、少し話しをしたが、彼女からこれ以上の話は聞けなかった。
「そう言えば、この辺りで猫を見なかった?」
別れ際、私は川西麗奈に聞いてみた。ダメ元のつもりの質問でしかなかった。
「この道を通る時、よく見ますよ!黒い猫なら」
彼女は、そう言ったのだ。




