第四十六話〜黒猫~
「これを見て下さい」
遥香は、そう言いながら会議室の机に、大きな紙を広げた。
「これって、あの街の地図」
「はい、そうです」
私の質問に、遥香は短く答えた。
「地図を見て下さい」
「印がいろんな所に付いてるわね」
私は、遥香が促すのに合わせて地図を見た。
地図には、小さなバツ印がいたるところに付けられていた。
バツ印は、黒いペンで付けられているものと、赤いペンで付けられているものがある。
「これって、もしかして怪異や事件があった場所」
「そうです」
遥香が答える。
「じゃあ、この赤い印と黒い印は何」
「それなんです」
そう言って遥香は、私が少し前まで見ていた資料を指さした。
「私が後に渡した、事件が赤い印でつけてあります」
そう言われて、私は地図を見返した。そして資料の住所と照らし合わせる。
赤い印が付いている場所は、遥香が私に渡した、
戸山正広の事件(第二十一話〜火柱~を参照)、
櫻井浩子の事件(第二十話〜元妻の日記~を参照)、
石崎晋也の事件(第二十二話〜不倫と托卵と制裁(続)~を参照)だった。
「残りの二つの赤い印は何の事件」
私は、資料の三つの事件以外に、二カ所の印があるのを見て質問した。
「こっちは、タクシー事故の山下耕平(第十三話〜タクシー~を参照)です。
もう一つは、石崎晋也と不倫していた川崎由香里の事件(第五話〜不倫と托卵と制裁~を参照)です」
私は、それらの事件を思い出しながら、場所を確認していた。
「何か気づきませんか」
遥香が、私を見つめながら言った。私は、地図を見返す。
「黒い印の事件は街の東側に多いわね。反対に赤い印の事件は街の西側に集中しているかしら」
不倫していた川崎由香里の事件(第五話〜不倫と托卵と制裁~を参照)の現場は、街の中央だったが、やや西側に位置していた。
「こっちの地図を見てみて下さい」
そう言って、遥香は別の街の地図を机に広げた。
「この地図は、あの街の西側にある隣町の地図です」
私は、その地図を見て目を見開いていた。その地図の東側に赤い印が大量に付いていたからだ。
「これって、もしかして」
「盲点でした。猫に私達人間が引いた街の境なんて関係ないですからね」
「じゃあ、この印って黒猫が関わってる事件」
遥香は、黙って頷いた。私は目を疑った。
黒猫の呪いが隣町にまで拡がっていると思ったからだ。
地図に記された事が本当ならば、赤い印の事件は、あの街の西側から隣町の東側にかけて広がっている。
「美里さん。どう思います」
「どう思うって、どういう事」
私は、そう質問したが、遥香は私をじっと見るだけだった。
私は、地図と資料を見返す。そして、思いついた事があった。
まだ、はっきりとしていない、言語化しきれていない考えだった。
「あの街の西側でおきている事件って、直接黒猫が関わっているような事件が多いわよね。被害者や加害者と直接接触してるみたいだし」
「はい」
遥香は、話の続きを促すように相槌をついた。
「そして、どちらかというと、凄惨な事件や陰湿な事件が多い」
「はい」
「前に私達が、毛色が違うと言っていた事件ね」
遥香はゆっくり頷いた。
「もしかして、西側と東側では事件や怪異の質が違う」
私は、そんな声をだした。そして、それは一つの結論を私に突きつけているようだった。
「私は結論が出ています。美里さんも同じ結論に至るのかを知りたかったんです」
遥香が真剣な顔でそう言った。
「まさか……」
「後、一つ聞いた話があります」
困惑している私の顔を見ながら、遥香はさらに続けて話し出した。
「専門家に聞いたのですが、野良猫の行動範囲ってそんなに広くないらしいんです。街全体を徘徊するような事はないそうなんです」
その言葉は決め手になっていた。もう、私の中の結論は、これ以外ないと言えた。
「もしかして、そんな……」
私が、声をもらす。
「私も最初は自分の考えを疑いました。でもそれしか考えられないんです」
遥香が、私を見つめながら震えた声で言った。
そして、意を決して私達は、それを言葉にした。
私達は同じ言葉を同時に発していた。
「黒猫は二匹いる……」




