第四十四話〜不倫と托卵と制裁(続)~
最近の私は、彼女と一緒に歩いている事が多い。
しかし、周りの人間には、黒猫である私しか見えていないようだ。
「最近、変な女をよく見るんだ」
四十代くらいの年齢の男が、目の前の女に言った。
カフェで向かいあって座る二人は、いかにも仲が良さそうに見えた。
「何、それ?もしかしてストーカー」
女が、そう答えた。女は三十歳くらいだろうか。派手な服で着飾っていた。
「ストーカーとかじゃないと思うけど、同じ女だと思う」
「なんか、怖くない」
女が、少し気味悪そうに言っていた。
「あ!ほら、あそこに立っている女!」
男は、そう言いながら窓を指さした。
そこは、もう日が落ちて暗くなった道路の一角だった。女は驚いて、男が指さした方を見た。
「誰もいないわよ」
「あれ?おかしいな」
男は、そんな事を言っていた。
「疲れてるんじゃない?」
女が、少し心配するように言った。
「もう、しっかりしてよ。もうすぐパパになるんだから」
そう言いながら、女は自分のお腹に触れた。
「ああ、そうだな。それより旦那にはバレてないのか」
男は、女にそう聞いていた。
「大丈夫よ、アイツ鈍感だから」
女は、吐き捨てるようにそう言った。
「托卵ってやつだな」
男は、ニヤニヤしながら女の手を握っていた。
「さあ、そろそろ行きましょ」
女は、そう言って席を立った。男もそれにならった。
「じゃあ、また連絡するから」
そう言いながら女は男と別れて歩きだした。
「女は怖いな」
男は、ボソリと呟いていた。そうして男は帰路についた。
「誰だ!」
男は怒鳴っていた。女と別れて電車に乗り、やっと最寄り駅に着いた所で変な気配を感じた。
最初は気の所為かと思ったが、そうではないようだ。
「聞いてるのか!」
男は、また叫んだ。駅からは少し離れた住宅街の細い路だった。
「ぐはっ!」
その時、男はそんな声を出していた。
後ろから、凄い力で首を掴まれて、背中から地面に叩きつけられたからだ。
「なんだ?」
男は、力なく呟いた。
すでに、あのストーカー女が、自分の上に馬乗りになっていたからだ。
「ギャーー!」
ストーカー女は、男の腹の辺りに包丁を突き立てていた。
そして、男の耳元でなにかを呟いた。
「待ってくれ!すまなかった!許してくれ!」
男は、そう言った瞬間、ストーカー女は笑いながら男の胸や腹をめった刺しにしていた。
もう一人も、同じ運命をたどっているだろう。
私は、もう動かなくなった男の横を歩きながら、まだ包丁を振りかざしている女を見ていた。




