第四十三話〜火柱2~
私は、遥香から受け取った資料に目を通しはじめた。
さっきの事件にしても、どうやって調べたのかはわからないが、詳細な内容だった。
そして、この資料も特別な調べ方をしたように思えた。
遥香も、それだけ必死だという事だろう。
20××年2月3日、当時研修医であった戸山正広の部屋が火事になった。それは、火事というよりも爆発に近いもので、目撃者によれば、大きな火柱が立っていたと証言している程だった。当時、戸山正広は病院の寮に住んでいた。寮と言っても、病院が契約している物件の一室である。その日、戸山正広が帰宅すると、鈍器のような物で殴られ、気を失ったという。目が覚めると椅子に手足を縛り付けられ、身動きができない状況だった。
当時、戸山正広が付き合っていた前田美桜の犯行である。前田美桜は、そのまま室内にガソリンをまき、火をつけて心中をしようとしたらしい。当時、二人には別れ話が出ており、それが原因と思われる。運良く、戸山正広を縛っていたロープが緩んでおり、戸山正広自身は大火傷を負ったが、逃げる事ができたという。また、現場には、前田美桜の死体だけでなく、複数の焼死体が発見された。鑑識の解剖の結果、前田美桜の母親と姉の焼死体と断定された。
「何、この事件」
私は、遥香に向かってそう言った。無理心中なら理解できるが、前田美桜は母親と姉まで連れていた。
「なんでも、母親は病気で働く事ができず、姉の方は障害があったみたいです」
「確か、被害者の戸山正広は研修医だったわね」
私は、遥香に確認する。
「そうです。たぶん、彼の収入をあてにしていたのだと思います」
「そんな、勝手な……」
私は、思わずそう言っていた。
「前田美桜は、高校を卒業してから、母親と姉を養うために、色々なバイトや派遣での仕事をしています」
「医者になる戸山正広と結婚すれば、そんな生活から抜け出せるって考えたのね」
私は、前田美桜が苦労して家族を支えていたのだと想像していた。
たぶん、戸山正広に協力してもらいたかったのだろう。でも、別れ話をされた。
「別れ話をされて、彼女の中の何かが切れたのかもしれないわね」
私は、なんとなくそんな事を言っていた。
たぶん、前田美桜の中で限界に達したのだろう。そして、無理心中という方法をとった。
「母親と姉も一緒だったのは、この世に残していけないって思ったのかしら」
私は、また無意識にそう呟いていた。
「そうかもしれません」
遥香が、小さな声で答えた。
「そう言えば、これも黒猫と関係あるの」
私は、思い出したように聞いた。
「戸山正広の証言では、前田美桜は現場に黒猫を連れて来ていたそうなんです」
私は、それを聞いて驚いていた。
「前田美桜の飼猫ではないのよね」
「はい」
私の質問に遥香が、短く答えた。
「調べて見ると、事件の少し前から黒猫と一緒にいたみたいなんです」
「それって、黒猫が……」
遥香は、静かに頷きながら更に資料を手渡してきた。
「とりあえず、この資料も見て下さい。美里さんも知ってる事件です」
「知ってる事件」
私は、そう聞き返すように呟きながら、資料に目を通しはじめた。




