第二十七話〜記録~
私の名前は、山寺美里。フリーライターだ。現在、私は都市伝説を取材している。
オカルト専門のライターでもない私が、都市伝説を取材しているのは、後輩の片桐遥香から話を聞いたからである。
この都市伝説は、ある街の怪異についてだ。その街では、怪異と言える事件が多発している。
そして、その怪異がおこる時、必ず黒い猫が現れるという。
すでに、十数件の事件を調べたが、全てにその黒猫が関わっていた。
また、私自身もその黒猫に遭遇している。
私が最初に関わったのは、遥香の住むマンションのエレベーターホールの音だった。始めわたしは半信半疑だった。しかし、あの日、エレベーターホールからは、ドンドンという音が鳴り響き、さらに黒猫が現れた。あの後、マンションについて調べたが、これといった事件などは無かった。ただ、あのマンションは、この地域の地主の屋敷があったという。その、地主の中に屋敷で首を吊った人間がいた。これが原因なのだろうか。
次に私が調べたのは、女子高生の行方不明事件だった。彼女は、姿を消す前に不可解な事を言っていた。黒い服の女だ。公園に黒い服の女が立っていて、話しかけられたという。近隣の住人に聞いてみたが、黒い服の女の目撃情報はなかった。
あの、工事現場で男女二人を焼死させた事件についても調べた。男が同僚と元恋人を小屋に閉じ込めて火を放った事件だ。犯人の住居や勤務先は、東京23区内だった。中心地から離れた、この街を何故選んだのかは不明だ。本人は、なんとなく呼ばれたと供述しているらしい。
今までで、一番理解できない事件は、あの事件だろう。不倫をしていた男女が殺された事件だ。犯人は女の夫の姉らしい。ただ、不可解な事が多過ぎて、警察も捜査を打ち切っている。
一時期、ネットをザワつかせた事件も調べた。あのAEDの事件だ。路上で倒れたインフルエンサーを介抱した男性のAEDでの治療拒否の事件だ。この事件は、これから裁判などに発展するかもしれない。少なくとも、ネット上では今でも騒いでいるようだ。
また、ネットで騒がれた事件の一つでもある。マンションの事件も不可解だった。玄関の鉄の扉が、引き剥がされたように外れていた事件だ。人知を超えるような力が働いたようだった。一部では、メリーさんという都市伝説が関わっているという証言もある。
父親が娘を惨殺した事件も調べた。父親は、娘を殺害した後、マンションのベランダから飛び降りて自殺している。一部では、父親の再婚相手が二人を惨殺したのではないか、とも言われている。詳細は不明だが、再婚相手の日記が存在するらしい。調査中である。
丘の上にある、自殺の名所となっている団地での調査もした。最近は行われなくなっていた自殺がおきた事件だ。団地の主婦が、夫を殺害した後、団地の屋上から飛び降り、自殺したのだ。ここの調査の時に、私は黒猫と遭遇している。おそらく、噂の猫だと思われる。
よくわからない事件も調査した。異世界転移をしたと言っている、二人の高校生が亡くなった事件だ。二人は、顔を合わせた瞬間に悲鳴をあげ、心不全で亡くなった。原因は今も不明である。
駅前でおきた、無差別殺人についても調査した。犯人は、駅前にいた人間を無作為に包丁で切りつけた。内一人が死亡している。犯人の女性は、犯行の数日前に、中央公園にて、生首が飛んでいるのを見たという。そして、喋りかけられたと供述している。異常に他人の顔に恐怖していたという。
この街で、唯一の病院についても調査した。この病院の庭園には、看護師の幽霊が出るという。この調査に関しては、オカルトの域を出ない。よくある怪談話のようであった。ただ、目撃者があまりにも多いようである。
そして、この間、遥香が言っていたタクシー事故だ。事故で死んだタクシー運転手は、連続殺人の犯人だった。まるで、制裁をくだされたように彼は死んだ。
これらの事件や事故、怪異には、全てにおいて、何らかの形で黒猫が関わっていた。その黒猫が引き起こしているのか、このような事件や事故、怪異のあるところに引き寄せられて、黒猫が現れるのかは不明である。これだけの現場に居合わせている事から、偶然とは考えられない。なお、最後のタクシーの事件においては、黒猫が積極的に関わっているように感じられた。この事件が、黒猫の真意を探る手掛かりになるのではないかと考えている。
私は、ここまでの事件を記録したところで、パソコンの画面から目を離した。
固まっている身体をほぐすために、軽く伸びをする。
「そう言えば」
私は、誰もいない部屋で独り言を呟いた。思い出した事があったからだ。
私は、時々こうやって声を出す事で、頭の中の情報を整理していた。
「ついでだし調べちゃおう」
私は、また独り言を言う。そうして、パソコンで検索作業を開始した。
今までは、あの街でおきている事件や事故を調べてきた。怪談話なども検索した。
しかし、今まで検索しなかったものがある。
「なんで、初めに検索しなかったんだろう」
私は、そう呟きながら自問自答した。
そして、何故か検索しなかった単語をパソコンに打ち込む。
「黒猫」
もちろん、あの街の名前も同時に打ち込んだ。
「あれ、おかしいな」
私は、また一人で呟いた。それは、黒猫の検索結果が出なかったからだ。
「あれ、なんで」
今度は、さらに都市伝説というワードも打ち込む。
「どういう事」
検索結果が全く出なかった。
「黒猫の都市伝説は有名なんじゃないの」
私は、また独り言を言った。まるで、そんな都市伝説などないかのように、検索に引っ掛からない。
その後も、いろんなワードで検索したが、黒猫についての結果が出なかった。
「どうして」
私は、また呟く。考えてみれば、私は黒猫の都市伝説を聞いた事がない。
遥香から聞いただけだ。遥香から聞いて、あの街には黒猫の都市伝説があるのだと、勝手に考えていた。
「まさか、そんな都市伝説なんて存在しないの」
私は混乱していた。遥香がそんな嘘をつくとは思えない。
実際、黒猫は存在している。そして、多くの現場で目撃されている。
「なのに、なんで情報が全くないの?」
確かに、遥香以外から黒猫の都市伝説について聞いた事がない。
もちろん、黒猫の証言はあった。それも、全ての現場でだ。
なのに、黒猫の情報がネットに全くない。この時代に全く情報が出ないなんて考えられない。
「まさか、壮大なドッキリじゃないわよね」
私は、そんな事まで考えていた。でも、考えられない。実際に事件や事故はおきている。
怪異の噂は存在する。そして、現場では黒猫の情報がある。なのに、ネットでは騒がれていない。
「遥香は、誰から黒猫の都市伝説を聞いたの」
私は、また独り言を言っていた。そして、スマホを手に取った。
もちろん、遥香に連絡するためだ。
「なんで出ないの」
私は、苛立ちながら電話をきった。その後、何度かけても遥香とは連絡がつかなかった。
「どういう事なの」
私は、呆然としながら独り言を呟いていた。




