第二十三話〜ナースコール~
私が住むこの町は、勾配が多い地形だった。丘のように高い地域もあれば、谷のように低い地域もある。
ひときわ高い場所に、その病院はあった。大学が併設されているわけではないが、設備の整った大きな病院である。
この病院には庭園がある。入院患者が散歩をしている事が多い。
リハビリを兼ねているのであろう。私は、時々この庭園でくつろいでいる。
何故なら、私は黒猫だからである。名前はまだない。
「君、よくこの辺で見るわね」
女がそう言いながら近づいてきた。白い服を着ている。たしか看護師とかいうヤツらだ。
「おいで!」
私は、看護師に近づいていった。看護師は、そばにあるベンチに座った。私も隣でまるまった。
「昨日ね、夜中にナースコールがあったの」
看護師は、私に話し出した。
「近くにいたナースと一緒に部屋に行ったんだけど」
看護師は、私に視線をおろした。
「ナースコールがあった個室ね、使われてなかったの」
看護師が私の身体をなではじめた。
「その後も何度もナースコールがあって、私怖くなって、もうあの部屋に行くのは嫌だって言ったの」
私を撫でていた手が止まる。
「そしたらね、一緒にいたナースが一人で見に行っちゃったの」
看護師は、私を撫でるのをやめた。
「それから、そのナース帰ってこなくて!」
私は、身体をおこして看護師を見た。
「朝ね、聞いちゃったの!私が一緒にいたナースなんていなかったの」
看護師は震えている。
「そんなナース、存在しないの!じゃあ、私は誰と話してたの?」
看護師は私に視線を向ける。
「私、怖くなっちゃって!でも、誰にも言えないから!ごめんね、聞いてくれて…」
看護師は、誰かに聞いて欲しかったのだろう。そう言って病棟に戻っていった。
あの女は気付いているのだろうか。もう、すでに自分がこの世の者ではなくなっている事に…




