第二十二話〜顔2~
私は、駅前に来ていた。駅前を通る人々を横目で見ながら、スマホの画面を見る。
スマホには、同じ駅の駅前が映っている。
スマホに映る動画が、撮影されたと思われる場所に私は立っていた。
半歩横に移動してみる。しっくりくる位置にきた。
少し高さが足らないが、それは撮影者と私の身長差だろう。
おそらく、撮影者は男性なのだろう。私とは目線の位置が違う。
今、私が見ている動画は、一年以上前に撮影された映像だ。
動画サイトで何度も消された動画だが、探せば今でも見つける事ができた。
この動画は、駅前でおきた通り魔事件の映像だ。
偶然居合わせた撮影者が、事件の一部始終を撮影した映像である。
20XX年4月26日の昼頃、駅前で事件はおきた。加納美久、当時二十六歳が、駅前で待ち合わせのため立っていた女性の顔を切りつけた。凶器は、何処にでもある包丁だった。加納美久は、女性を切りつけた後、包丁を振り回し、周りにいる人間を切りつけた。十人以上が怪我をし、その内二人が重傷。一人が死亡した。加納美久は、主に被害者達の顔を包丁で切りつけていたという。死亡者は、切りつけられた包丁が、首筋に当たり、頸動脈を損傷。周りに血が噴き出て、血の海になっていたという。
これがこの事件の概要だ。動画は、一部始終を撮影している。しかし、遠くから撮影しているらしく、ハッキリと加納美久が事件をおこしているところが映っているわけではない。ただ、事件当時に駅前を逃げ惑う人々を映し出していた。
「はじめまして、山寺さんでしょうか」
「はじめまして、山寺美里と申します」
駅前で待ち合わせていた人物に、私は自己紹介をしながら名刺を渡した。
彼女は、事件当日にこの駅前にいたという。
私達は、近くにあった喫茶店に移動して話を始めた。
「早速なのですが、事件当時の事をお聞かせいただけますか」
私は彼女に質問した。
「あの日、私は友達と待ち合わせしてたんです」
彼女は、小さく頷いた後ゆっくり話しはじめた。
「駅前で立ってたら、遠くが騒がしくなって、悲鳴とかも聞こえて」
彼女は、その時の事を思い出したのか、両腕を抱きかかえるようにしていた。
「それで、あなたはどうされたのですか」
「私が見た時には、何人かが切りつけられた後みたいで…」
彼女は当時の事を思い出しながら、震えていた。
「犯人の女性は、血だらけで包丁を振り回していたんです」
おそらく、死亡した被害者を切りつけた直後たったのだろう。
「その後、すぐに警察が来て、取り押さえられていました」
「ずっと、見てらしたのですか」
私は、彼女に質問してみた。
「いえ、走って逃げたんです。ある程度離れた場所に来た時に振り返ったら、ちょうど犯人が警察に取り押さえられているところでした。」
「そうですか。犯行現場を見られた時に、何か変わった事とかはありませんでしたか」
私は、また質問していた。
「変わった事ですか。そういえば、犯人が顔が来る、顔が来るって言ってました」
「顔が来る」
私は、彼女の言葉を復唱していた。
「顔が、とか、顔を向けるな、とか言ってました」
加納美久は、逮捕後も他人の顔に異常な程怯えていたという。
それが、犯行の動機なのだろうか。他人の顔に恐怖し、攻撃する行動をおこしたという事なのだろうか。
「本日は、ありがとうございました」
私は、そう言いながら彼女を見送った。
この事件は、ネットなどでは頭が可怪しくなった女性がおこした事件として、話題になっていた。
確かに、普通なら可怪しくなった人間の通り魔事件でしかない。
ただ、事件をおこした加納美久は、数日前までは正常だったようである。
事件の数日前から仕事を無断欠勤しているが、それ以前におかしなところはなかったと、同僚の女性が証言している。
同僚の女性が、加納美久と最後に会ったのは、会社の飲み会だった。
彼女は、大分酔っ払った状態で帰宅したという。
私が彼女について興味を持ったのは、その飲み会の次の日の朝である。
彼女は、この町の中央公園のベンチで寝ていたという。
早朝、警官がベンチで寝ている加納美久を起こしたという。
おそらく、酔っ払って公園で寝てしまったのだろう。
彼女はその時、「女性の生首が顔を近づけてきた」と言っていたそうである。
私が一番興味を持った理由は、加納美久がベンチで起こされた時、膝の上で黒猫が寝ていたという話を聞いたからだ。




