表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/47

第二十話〜異世界転移3~

何度目だろうか、このカフェに来るのは。私は、この町に来ると、このカフェによく来る。




別に気にいっているわけではない。それ程特別なカフェという訳でもない。




あえて言うなら、この町では珍しく屋外にも客席がある事だろうか。




最初に、このカフェに来たのは偶然だった。荒木誠司という知り合いのライターと待ち合わせに使った。




二度目に来た時は、取材の一環だった。伊藤彩というインフルエンサーが、AEDによる治療を拒否された事件で来たのだ。




彼女が最後にいたのがこの店だったのだ。そして、今私が取材をしている事件も、このカフェに関係がある。




被害者と言っていいかわからないが、その一人が最後に友達と会っていたのが、このカフェであった。




私は、ブラックのコーヒーを一口飲みながら、この事件を整理していた。







20XX年3月14日16時頃、二人の高校生が同時に心不全で死亡した。二人は、道路上で顔を合わせた瞬間に悲鳴を上げたという。どちらか一方ではなく、二人同時に悲鳴をあげ同時に倒れた。そのまま二人は帰らぬ人となった。原因は不明である。また、不可解な点が二人にはあった。亡くなった男子高校生の森下亮一には、腹部に無数の刺傷があったという。ただし、事件の日よりも前に刺されたと思われ、すでに完治していた。奇妙な事に、その刺傷は致命傷と言える傷で、この傷が完治し、生きて生活できるとは思えないと医療関係者は語ったという。




もう一人の女子高校生、村田美和にも同様に古傷と思われる傷があったという。傷は背中に大きな刃物によるものだと思われる。右首筋から左脇腹にかけて、刀のような刃物で切り裂かれたような傷だったようである。この傷に関しても、致命傷といえる傷で、完治はおろか生きている事が不思議だと医療関係者は言っている。また、双方の両親にも、この傷が何処で、どのようにして負ったものなのかわからないそうである。そもそも、双方の両親は、傷があった事すら知らなかったようであった。







「ご連絡いただいた山寺さんですか?」




私は、今回の事件の資料を読むのに夢中になっていて、彼女が近づいてくるのに気付いていなかった。




「あ!ごめんなさい、えっと、堀内亜紀さんですね?」




私は、慌てて彼女に答えた。




「はい、よろしくお願いします」




堀内亜紀は、そう言って私の前の席に座った。私は、彼女に名刺を渡し、自己紹介をして席についた。




「早速なのですが、村田美和さんが亡くなられた時の事をお聞かせいただけますか?」




私は、堀内亜紀に聞いた。彼女は、心不全で亡くなった女子校生の村田美和と最後に会っていた人間だ。




堀内亜紀は、村田美和が心不全で倒れた時にも、現場にいた人間でもある。




「はい、私達、学校の帰りに、ちょうどこの店でお喋りしてたんです」




「お聞きしました。このカフェにいたと」




堀内亜紀は、私の言葉に頷いた。




「その後、二人で店を出て帰る途中で、あの男子と会って…」




「美和さんと同じように、心不全をおこされた男子高校生ですね?」




私は、資料に書いていた内容を思い出しながら聞いた。




「はい、あの男子と目が合った瞬間、美和が悲鳴をあげて倒れたんです」




資料では、男子高校生の方も、同時に悲鳴をあげて倒れたとある。




「あの男子高校生とは面識があったのですか?」




「いえ、私は知りません。たぶん、美和も知らないと思います」




つまり、村田美和は通りすがりの人間の顔を見て、悲鳴をあげ、心不全になり亡くなったという事になる。ハッキリ言って意味がわからない。




「その日の美和さんに変わった事はありませんでしたか?」




私は、原因を知るために質問をしてみた。




「そういえば…」




「何かあったのですか?」




私は、少し前のめりになるように聞いていた。




「あの日、美和が変な事を言っていたんです」




「変な事ですか?」




私は、その話に興味が出ていた。




「はい、なんか美和が異世界転移をしたって言っていて」




「異世界転移?」




私は、話の続きを促す。




「なんか異世界に行って、ひどい目にあったって言ってて…」




話をまとめると、村田美和は異世界転移をしたらしい。




ただ、物語などでは英雄になったり無双する事が多いが、村田美和の転移はそうではなかった。




現地人に捕まり、ひどい目にあって、最後は剣で斬られて殺されるらしい。




もし、本当に異世界転移があったとするならば、現実的にはそんなものだろう。




他の世界に行ったからといって都合良く、いい生活ができるわけではないという事だろう。




「美和さんの背中には、刀傷があったと聞いています」




「はい、美和が亡くなる前に見せてもらいました。異世界でつけられたって言ってました」




普通ならば、異世界転移の話なんて、ウソや夢などと思うところだ。




しかし、彼女の背中には実際に刀傷があった。それも、本当なら致命傷になる傷だ。




これは、どういう事なのだろう。私は理解できないでいた。




「今日は、本当にありがとうございました」




私は、堀内亜紀に取材のお礼を言った。まだ、腑に落ちない部分は多いが、一応の話は聞けたと言える。




そして、今回の事件とは関係ないと思いながらも、一応聞いてみる事にした。




「あの、ちょっとお聞きしたいのですが、最近猫を見ませんでしたか?黒い猫なんですが」




「見ましたよ、このカフェで。そう言えば、あの日も黒猫がいました。そこの塀の上に」




堀内亜紀は、私が座っている席の少し後ろにある塀を指さした。







私は混乱しながら歩いていた。堀内亜紀と別れて、次の取材相手に会うためだ。




本当なら、少し頭を冷やしたいところだった。




何故なら、私が何度も訪れているカフェに、私が探し求めている黒猫がいたと聞いたからだ。




私は冷静になろうとしていた。もう、約束の時間が近かったからだ。




「丸山良明さんでしょうか?」




私は、心を落ち着けようとしながら、公園のベンチに座る、男子高校生に声をかけた。




そう、彼は村田美和と同時に心不全になった森下亮一の同級生である。




「はい、そうです」




「はじめまして、山寺美里と申します」




私は、そう言って目の前の高校生に名刺を渡した。




「早速なのですが、亡くなられた森下亮一さんについて、お聞かせ頂けるでしょうか」




私は、丸山良明に事件の日の状況を聞いた。




「あの日もいつも通りだったんですよ」




彼はそう言って話しだした。




「学校が午前中だけだったので、この公園で森下と話してたんですよ」




どうやら三月のこの時期の高校は、春休みに入っていたり、午前中のみの通学があったりと不規則な時間割のようだ。




高校によって、日程に違いがあるらしい。




「それで、帰りに本屋とゲーセンに寄って、あとコンビニにも寄りました。それで、少し二人で歩いた時、いきなり悲鳴をあげて倒れたんです」




「同時に女生徒も倒れていますよね?」




私は、村田美和についても聞いてみた。




「そうなんですけど、僕はよそ見をしていて、いきなり森下の悲鳴が聞こえて、森下を見たら倒れたんです」




「女生徒については見ていないという事ですか?」




丸山良明が、当時の事を思い出すような仕草をしていた。




「悲鳴に驚いて振り返ったら、森下が倒れたので、女子の事は目に入ってましたけど、それどころではなくって」




確かに、知人がいきなり倒れたらそうなるだろう。




「その女子高校生の事は、知っていましたか?」




「いえ、僕は知りません。たぶん、森下も知らないと思います」




堀内亜紀の証言と同じ事を言っている。




「では、その日の森下さんに変わった事はありませんでしたか?」




「ありました!この公園で話してた時、アイツ変な事を言ってて」




私は、この時、何か胸騒ぎのようなものを感じていた。




「変な事とは?」




私は、丸山良明に恐る恐る質問した。




「森下のヤツ、異世界転移したって言ってて」




「異世界転移?」




私は、鼓動が速くなるのを感じていた。




「なんか異世界に行ったとか言って、その時の話をしてたんです」




森下亮一が話した異世界転移の話は、短いものだった。




転移してすぐに、魔物らしいものに襲われて殺された、という内容だった。




村田美和が話した異世界転移も、物語のようにいかず、悲惨なものだった。




仮に異世界転移をしたのが本当ならば、二人が同時期に悲惨な転移をしたのは、偶然なのだろうか。




もっとも、本当に二人が言っている異世界転移が、おきたとするならば、だが。




「その転移の話を聞いて、どう思いましたか?」




私は、少し丸山良明の意見を聞いてみる事にした。




「最初はウソだと思いました。ただ、森下の身体に異世界で刺された傷があったので…」




「信じた、という事ですか?」




「いや、流した感じですね」




流したとは、信じもせず話自体の結論を出さず先送りにして、放置したといった意味のようだ。




実際、彼等は何も無かったように、公園で話した後、本屋とゲームセンター、コンビニに寄るという、普通の行動をとっている。




「森下さんの腹部の傷については、その時初めて見たのですか?」




「はい、でも一週間くらい前の体育の授業の時は、そんな傷無かったはずなんですけど」




森下亮一の話が本当ならば、その一週間の間に異世界転移をした事になる。




「それ以外に、森下さんに変わった事はありませんでしたか?」




「う〜ん、無かったと思いますよ。公園で話した後は普通でしたし」




おそらく、彼の言っている事は本当だろう。二人が心不全で亡くなったのは偶然なのだろうか。




いや、彼等二人は異世界転移をしたという、同じ証言をしている。




心不全になる人間は、異世界の夢を見る、なんて事は聞いた事がない。




「本日は、ありがとうございました」




私は、丸山良明と一緒に公園を後にしながら言った。そして、一応聞いてみる。




「ちょっとお聞きしたいのですが、最近猫を見ませんでしたか?黒い猫なのですが」




「見ましたよ、そういえば森下と最後に話した時、この公園のあのベンチで昼寝していました」




丸山良明は、公園の中のベンチを指さしながら言った。




私は、少し目眩を感じていた。そうである、ここにもあの黒猫がいたのだ。








丸山良明と別れた後、私は考え込んでいた。




この高校生の突然死事件では、二人の共通点が多い。




二人が同じ心不全で、同じ時間、同じ場所で悲鳴をあげながら亡くなっている事。




二人が異世界転移をしたと言っている事。




二人には致命傷となる古傷があった事。




そして、黒猫だ。




「時系列で考えてみよう」




私は、独り言のように言って、考えはじめた。




まず、男子高校生の二人、丸山良明と森下亮一は公園で話をしていた。




その時黒猫は公園のベンチにいたという。時間は昼過ぎくらいだったらしい。




その後、二人は本屋やゲームセンター、コンビニに寄っている。




一方、女子高校生二人、堀内亜紀と村田美和は、二人で買い物をした後、15時くらいから例のカフェにいた。




その時も黒猫は、カフェ近くの塀にいたという。




公園とカフェは、それ程遠い距離ではない。時間も三時間程のひらきがある。




黒猫は、その間に移動したのだろうか。時間と距離だけで考えるなら可能だろう。




そして、その後16時に二人は、カフェの近くの路上で出会い、心不全で亡くなっている。




もしかして、黒猫が二人を引き合わせたのだろうか。




仮に、引き合わせたとして、何故二人は、悲鳴をあげ心不全をおこしたのか。




全く理解ができなかった。




それも黒猫がおこしたという事なのだろうか。そう考えた時、私は寒気を覚えた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ