第十八話〜異世界転移~
私は、公園のベンチで昼寝をしていた。私は黒猫である。名前はまだない。
少し離れた所にブランコがある。そのブランコを椅子代わりにしながら、二人の男が話していた。高校生らしい。
「異世界転移ってあるだろ!」
「ああ、小説とかマンガでよくあるやつだろ!」
二人は、そんな会話をしだした。
「オレ、こないだ異世界転移をしたんだ」
「そんな事、現実であるわけないだろ!」
高校生の一人が笑うように言っていた。
「本当なんだ!」
「まあいいや、聞いてやるよ!それでどうしたんだ?勇者になったか?」
高校生の一人が嘲笑するような言い方をする。
「最初、暗闇の中を浮いていたんだ」
「女神様とかは出てこなかったのか?」
「いなかった!でも、その暗闇の中で理解した!」
「なにを?」
笑っていた高校生は、話に引き込まれ始めたようだった。
「オレが、すごい魔法を使えるようになったって!」
「どれくらいすごいんだ!」
「小さな町なら、全てを一瞬で火の海にできるくらいだ!」
異世界転移したと言っている高校生は、少し震えていた。
「チートじゃん!それ」
「オレもそう思ったんだ」
話す勢いが弱くなっていった。
「なんだよ」
「オレが、降り立った場所は、夜の森の中だった」
思い出しながら話しているようだ。
「少し進んだ時に現れたんだ!」
「なにが?」
震えながら話を続ける。
「夜の闇の中、目がギラギラした牙を生やしたやつに」
声が震えだす。
「オレよりは背が低かったけど、変な笑い方をして、血だらけの刃物を持っていた」
「なんだよ!それ?」
「オレは逃げた!」
その時の恐怖を思い出して、身体は小さく丸まっている。
「魔法はどうしたんだよ!」
「オレ達部活で筋トレをしたりするよな?」
「なんだよ、いきなり!」
「でも、ヤンキーに絡まれたら何もできない」
「だからなんだよ」
「筋トレしてるオレ達なら勝てるかもしれないし、なんとかなるかもしれない」
「何がいいたいんだ」
「自分に力があっても、恐怖したら戦えないんだ!」
最後は叫んでいた。
「でも、魔法を打てばなんとかなるんじゃないのか?」
「山の中でクマに襲われて、猟銃を持ってたからって、咄嗟に応戦できると思うか?」
「なんだよ?それ」
「同じなんだよ、魔法って武器があっても素人には咄嗟に使えないんだよ」
力なくそう言った。
「それでどうしたんだ」
「オレは、逃げた!でも捕まった!そんなヤツが何匹もいたんだ」
また、震えだす。
「それで?」
「馬乗りにされて、刃物でめった刺しにされた」
二人は沈黙していた。
「見てくれ」
異世界転移した高校生は、服を手繰り上げて上半身を見せた。
そこには、無数についた刃物の傷跡があった。