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第十七話〜音2~

私は、坂道を登っている。少し小高い丘の上にそれはあった。




そう、この丘の上の団地だ。建設当初は、駅からも近く施設なども充実していたようである。




実際、少し前まではスーパーなどの商業施設などが近くにあった。




今では少し寂れてはいるが、駅前には店舗が残っている。




70年代には、最新の住宅環境で、当時は高層建築の部類に数えられていた。




ただ、この団地は、いわく付きな部分がある。




団地には、幾つかの棟があるのだが、その一つの棟で自殺が多発したのである。




その団地の棟の屋上からの飛び降り自殺である。




何度施錠しても、屋上への通路はこじ開けられ、そこから飛び降りるという事がおきた。




90年代に入って、その人数は少なくなったが、今でも稀にあるらしい。




団地自体は古さを感じるが、現在は内装をリノベーションして若い層に安く借り出している。




そんな団地で、また飛び降り自殺がおきた。この団地に最近引っ越してきた若い夫婦だそうである。




下記が、事件の概要である。







20XX年6月28日深夜1時頃、団地の一室に住む斎藤美紀が、団地の屋上から飛び降りた。その夜、斎藤美紀は遅くまで家に帰らなかったそうである。夫の斎藤達也が、近所に美紀の行方を聞いてまわっていたらしい。普段、美紀が夜遅くまで家を空ける事はなかったそうである。まして、連絡もなく夜遅くまで家に帰らないという事は考えられないと、当時の達也は言っていたという。




その夜中、斎藤夫妻の部屋から、男性と女性の悲鳴が聞こえた。隣に住む住人が、不審に思い自宅のドアを開けると、斎藤美紀が血だらけで走って行くところが見えた。すぐに、警察に通報し、警察が斎藤美紀を探したところ、団地の屋上から飛び降りたであろう死体が、例の棟のわきで発見された。なお、同時刻に斎藤宅を捜索した警察は、自宅で死んでいる、夫の達也を発見した。複数回、腹部を刺された後があった。このような状況から、美紀が達也を刺した後、団地の屋上から飛び降りて自殺したと結論づけられた。








「では、事件の昼までは、美紀さんに変わったところはなかったという事ですか?」




私は、中年の女性に質問をしていた。彼女は、斎藤美紀が亡くなる当日の昼間に話をした人間の一人だ。




よくある、井戸端会議をしていたらしい。そのメンバーの中に斎藤美紀も入っていた。




「ええ、いつもと変わりないようでしたよ」




女性は、少し困ったような表情で言っていた。




「こちらで皆さんがお話しされた後、美紀さんも家に帰られたのですか?」




「たぶん、そのはずですけど」




私の質問に女性は答えた。




「住んでいる棟が違うので、ちゃんと確認したわけではないですし…」




さらに、女性は付け加えた。




「皆さんと別れた後、何かがあったかもしれない、という事ですか?」




「すいません!わかりません!」




私の質問に、女性は申し訳なさそうに答えた。




「では、皆さんで集まっている時、直前まで話していた内容は、覚えていらっしゃいますか?」




私は、あまり期待していなかったが、話の内容を聞いてみた。




だいたい井戸端会議で話す内容なんて、たいした話ではない。よくある噂話などだろうと思っていた。




「他愛のない話ばかりですよ!そう言えば、音についての話をしました」




「音、ですか?」




女性は、思い出したようにそう言った。私は、思わず復唱していた。




「ええ、あの美紀さんが亡くなられた棟の辺りで音がするんです」




「それは、どんな音ですか?」




私は、少し興味を持ち初めていた。




「ドサ!とか、ドン!みたいな音が時々するんです」




「それは何の音ですか?」




私は、質問してみた。




「それが、何の音なのかわからないんです。昔からずっとしている音なので…」




「昔からですか?」




私は、女性に話の続きを促す。




「はい、たぶんこの団地ができて、すぐくらいからだと思います」




「そんな昔からしている音なのに、原因がわからないという事ですね」




「はい」




女性は、不安気な表情でそう答えた。




「昔、原因を知ってるような事を言ってる方がいて、聞いたのですが教えてくれなくて…」




「原因を知ってる方がいたのですか?」




私は、期待した顔で聞き返した。




「はい、でも原因は知らない方がいい、って言って教えてくれなかったんです」




「その方の連絡先とかわかりますか?」




私は期待を膨らませていた。




「すいません、その方もう亡くなられていて…」




「そうですか」




私は失望したように、力無く答えた。




「そう言えば、その話をしている時、美紀さんも興味を持ったみたいでした」




「美紀さんが、ですか?」




女性は、そう聞き返した私に頷いて答えた。




「もしかしたら、その音がなる辺りを見に行ったのかもしれません」




「その音がする場所ってどの辺りですか?」




私は、その音がなる場所について聞いてみた。




「それが、美紀さんが飛び降りた場所辺りなんです」




私は、その言葉を聞いて驚愕していた。話を詳しく聞くと、その音がする場所は美紀さんが亡くなられた場所でもあった。




そして、この団地で自殺をする人間が必ず向かう棟でもあった。




私は、話しをしてくれた女性にその場所を聞き、行ってみる事にした。




「ここが、美紀さんが亡くなった場所。そして、音がする場所」




私は、現場に来て静かに呟いていた。私が現場に来た時には、音は聞こえてはこなかった。




「確か、夕方くらいの時間に音がなるらしいけど」




私は、そう独り言を言いながら、考えをまとめていた。




少し薄気味悪く感じて、恐怖を紛らわそうとしていただけかもしれない。




そうして、小一時間程の時間がたった。辺りは少し暗くなっていた。




夕方になって暗くなったからだ。いや、それだけではない。




例の自殺者が集まる団地の棟が、夕日を遮っているのだ。




私がいる美紀さんが亡くなられた現場は、暗く影になっていた。




「ドサッ!」




そんな時、その音は鳴り響いた。まるで何かが落ちてくるような音だった。




「この音って!」




私は、独り言のように呟いた。たぶん、私はこの音が何の音なのか理解している。




いや、あの女性から話を聞いた時点で気付いていた。




そう、この現場に来る前から、この音が何の音なのか予測していたのだ。




「ドサッ!」




また、音が聞こえた。周りに変化はない。音がする原因は見つからない。




でも、私はこの音がする理由がわかっていた。




「ドサッ!」




また、音がした。そう、大きな物体が高いところから落ちたような音。




「ドサッ!」




また、音がした。何かが高いところから落ちて潰れる音。




「ドサッ!」




また、音がした。何かが落ちてひしゃげる音。




「そうだ!これは、人が高いところから落ちて、地面にぶつかる音だ」




私は、小さな声で呟いた。その途端、音はしなくなった。全くの無音の状態になった。




辺りから一切の音が無くなった。静寂の時間が流れた。その時、声が聞こえた。




「ニャー!」




猫の鳴き声だ。私は驚いて辺りを見渡した。そして、私は見つけた。




草むらの奥に立つ黒い猫を。私と目があった黒猫は、じっと私を見ていた。




私達は目があっている。見つめ合っている。目が離せなかった。




「ドサッ!」




そんな時、またあの音がした。それを聞いた黒猫は、私に背を向けて走って行ってしまった。




私は、あの不気味な音を聞きながら、黒猫が去って行った草むらを見つめる事しかできなかった。








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