第十六話〜音~
「ドサッ!」
この辺りでは、よくそんな音が聞こえる。私はよくこの場所で昼寝をしていた。
ここは、団地という人間達が集まって暮らす場所だ。できてから数十年が経過し、くたびれた状態だと言える。
因みに、私は黒猫である。名前はまだない。
「なんですか?今の音」
そう言ったのは、若い女だった。
「時々、するのよ!なんの音かわからないの」
中年の女が、若い女に説明していた。どうやら、若い女はこの団地に来て、日が浅いらしい。
「なんの音かわからないんですか?」
「昔からね、ずっと聞こえるんだけど、原因がわからないの」
若い女は、周りを見回していた。
「そう言えば、昔住んでいた人が、音の正体は知らない方がいいって言ってたわね」
「その方は、音の原因を知ってたって事ですよね」
「たぶんね。でも、教えてくれなかったの」
そんな話をしていると
「ドサッ!」
という音がした。若い女は、音の方向に視線を移した。しかし、そこには何もなかった。
「なんか、気味悪ですね」
若い女は、そう言った。
女達の井戸端会議が終わったのか、若い女は団地の階段の方に歩きだした。
少し日が傾きかけて暗くなりはじめた。辺りは少し不気味な雰囲気を醸し出していた。
それは、さっきの音の話を聞いたからかもしれなかった。
「ドサッ!」
またあの音がした。若い女は、何となくその音の方に歩いていった。
「ドサッ!」
また、音がした。若い女は音のした場所に行ってみた。
「ドサッ!」
またあの音がする。若い女は、音がした場所に立った。
その途端、あの音がしなくなった。若い女はなんとなく上を向いた。
その時、若い女の視線の先に、すごい速さで近づいてくる女の顔があった。
若い女の真上から人が顔から落ちてきたのだ。
「キャッ!」
若い女は叫びながら座り込む。
そして、目を開けるとそこには何もなかった。
若い女は、恐怖にかられ逃げ出した。その後ろで
「ドサッ!」
また、同じ何かが落ちたような音がした。