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第十五話〜日記2~

「生!おかわりくださ〜い!」




「ちょっと!飲み過ぎないでよ!まだ、事件の話してないんだから!」




私は遥香に注意していた。




「大丈夫ですよ!まだ二杯目じゃないですか〜!まだまだ、頭は働いてますよ!」




遥香が、口を尖らせながら言った。私達は、いつもの居酒屋に来ていた。




今日、私が遥香と会っているのは、いつものように飲むためではない。ある事件について聞くためだ。




「美里さん、やっぱり黒猫の事、調べてくれてるんですね〜!」




「あんな事があったら調べたくなるわよ!」




あんな事とは、遥香の住むマンションでの不可解な出来事の事だ。




マンションのエレベーターホールで、奇っ怪な音が鳴り響くという事だ。




実際に私も体験した。そして、その音が鳴り響いた時、私達は目撃した。噂になっている黒猫を。




「私も、できる範囲では調べてるんですけど、なかなか時間が取れなくて!すいません!」




「何?フリーで時間がある私への当てつけ?」




そう言った遥香に、少し意地悪がしたくなった私は、そんな事を言った。




「違いますよ〜!意地悪言わないで下さいよ〜」




私達は、そんな調子で話しを進めていた。




「それで、調べてくれた?あの事件の事」




「ええ、でもこの事件、何か関係があるんですか?」




遥香が、運ばれてきた生ビールを受け取りながら聞いてきた。




「ええ!それで、事件の概要を教えて!」




「わかりました!事件の概要は…」




そう言いながら、遥香は話し出した。







20XX年5月8日、中川美加のところに一本の電話がかかってくる。相手は小宮山瑞希。旧姓、中川瑞希。中川美加の姉からの電話である。電話の向こうの小宮山瑞希は、ひどく取り乱しており、話の要領が得ない状況だったという。心配した中川美加が、瑞希のマンションに駆けつけたところ、血塗れの娘の小宮山杏奈を抱き抱えた瑞希を発見した。




美加はすぐに警察に通報した。後の警察の捜査から、瑞希の夫である小宮山一樹が、娘の杏奈をめった刺しにして、マンションのベランダから飛び降り自殺したと断定した。瑞希は仕事からの帰宅後、血塗れで死んでいる杏奈を発見、さらに目の前で夫の一樹が飛び降りるところを目撃したという。







「これが、この事件の概要です!」




そう言って、遥香は生ビールを一口飲んだ。




「この殺された娘は、小宮山一樹の連れ子だったのね」




私は、遥香から手渡された資料を見ながら言った。




「はい、そうみたいですね。小宮山一樹は再婚だったみたいですね」




「自分の娘を殺して、再婚した奥さんの目の前で飛び降りたって事?」




「一応、警察の見解ではそうなってますね」




遥香が答えた。




「なんか、引っかかるのよね」




「美里さんもですか?」




遥香が珍しく私に同意した。




「私も、ちょっと気になって調べたところ、どうやら小宮山一樹は、妻の瑞希に暴力をふるってたみたいなんです」




「DVって事?それは娘さんにも、暴力を振るってたの?」




私は、遥香に聞いた。




「えっと、小宮山一樹の前の奥さんにも話を聞いたんですけど、やっぱり彼女もDVを受けていたみたいなんです」




「前の奥さんもなの?」




私は、遥香の説明に相槌をうっていた。




「はい!娘さんについては、少なくとも前妻の頃には、暴力を振るったりとかはなかったみたいです」




遥香の説明を聞いて、私は考え込んでしまった。




「娘さんへの暴力がエスカレートして殺人を犯し、我に返った小宮山一樹は自殺した」




そして、そう言葉にしたが、しっくりこなかった。




「あの、知り合いの警察関係者に聞いたんですけど」




「何?他に何か情報があるの?」




私には、遥香が少しためらっているように見えた。




「警察関係者の中には、妻の瑞希が夫の一樹と娘の杏奈を殺害したと、考えている人がいたみたいなんです」




「どういう事?」




確かに、可能性としては考えられる事だ。いや、むしろ個人的にはそっちの方がしっくりくる。




「妻の瑞希は、一樹と杏奈の両方からDVを受けていた可能性があるみたいなんです」




「それって、証言があったって事?」




「はい、一応その証言はあったみたいなんですが、あまり信憑性のない証言として無視されたみたいです」




何故、信憑性がないと判断されたのか、私にはわからなかった。




「証言したのが、近所の老人で、少し心許ない状態だったらしくて」




なるほど理解した。遥香はハッキリとは明言しなかったが、その老人はそういう事なのだろう。




「逆に言えば、そんな老人の前だったから娘は、構わず暴力を振るったとも考えられるわね」




「それは、ちょっと飛躍し過ぎじゃないですか?」




遥香が言った。確かにその通りだと思う。




「そうね!でも、もし両方からDVを受けていたなら、色々辻褄が合うわ!」




「辻褄ですか?」




遥香が、疑問の声を出した。




「事件の後、瑞希は精神科に通い、最後は自殺している!」




「そう言えば、病院の近くの雑居ビルの屋上から飛び降りたんですよね」




遥香の言う通りだ。




「もし、二人を殺したのが妻の瑞希だったとすれば、罪の重さに耐えかねてって事も考えられる」




そう言った私は、やはり話が飛躍し過ぎだと思い直した。




「どうしたの?」




そんな事を考えていた私は、遥香の反応がいつもと違っているように感じて声をかけた。




「さっきの警察関係者から聞いた事なんですけど、夫の一樹に付着していた返り血が少なかったらしいんです」




「返り血が?」




私は、遥香の言った内容に鳥肌が立っていた。




「つまり、娘を殺したのは一樹ではないって事?」




「あくまで仮説ですけど」




そう前置きして、遥香は話し始めた。




「妻の瑞希が娘を刺して殺した。その後、一樹をマンションのベランダから突き落とした。そして、娘の返り血を隠す為に抱き抱え、電話で呼んだ妹を待った」




私は、遥香を見つめていた。たぶん、遥香は、この結論にすでに行き着いていたのだろう。




だから、酔った状態になりたかったのだ。




「美里さんは、どうしてこの事件を調べてるんですか?黒猫の事を調べてたんじゃないんですか?」




遥香が、ビールを一気に煽りながら言った。私はそれに、こう答えた。




「近所の人が見てたらしいの。妹の美加が黒い猫を抱きながら、日記らしき物を読んでたらしいの。他の人の証言から、たぶんその日記は、姉の瑞希の日記だと思う」




遥香は、黒い猫を抱いていたと聞いて、驚愕の表情をしていた。





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