第十四話〜日記~
私は黒猫である。名前はまだない。私はいつものように公園のベンチで昼寝をしていた。
「こんなところでお昼寝?」
女が私に話しかけてきた。よくある事である。
「おいで」
女は私を抱き上げる。そして、自分がベンチに座り、私を膝の上に乗せた。
「おとなしいのね」
女はそう言った。私は女の膝の上でまるまりながら、くつろぎはじめた。女はそんな私を撫ではじめる。
「こないだね、姉が死んだの」
女はそんな事を呟いた。時々人間は、私達猫に身の上話をする。この女も同じだろうと思った。
「一年前、姉が結婚したの。相手はバツイチで娘さんがいたの」
女は構わず話していた。誰かに聞いて欲しいのだろう。
「姉が結婚してしばらくしてランチに行ったの」
女の声が強張っていた。
「姉は見るからにやつれていたわ」
女は遠い目をして、何処かを眺めていた。
「治りかけていたんだと思うけど、顔が少し腫れているように見えたわ。その頃姉は旦那からDVを受けてたみたい」
女の手が震える。
「少し気にはなったけど、いつもの姉だったから何も言わなかった」
そして、女はため息をつく。
「少ししてね、姉から電話があった。すぐに駆けつけたら、姉の住むマンションのリビングは血の海だった」
女の目は焦点があっていない。
「姉は血だらけでグッタリしてる旦那の連れ子を、抱きしめて座り込んでいた」
我に帰ったのか、女は私の身体を優しく撫ではじめた。
「警察の調べでは、旦那さんが娘を包丁でめった刺しにして、マンションのベランダから飛び降りたの」
私を撫でていた手が止まる。
「精神的に病んでしまった姉は入退院を繰り返していたわ」
女は泣き出していた。
「そして、どうやって入ったかわからないけど、病院の近くの雑居ビルの屋上から飛び降りた」
私は女の顔を見上げた。
「遺品を整理している時にね、日記を見つけたの。そこにはね、こう書かれていた」
女は恐怖に顔を歪めて震えていた。
「憎い!憎い!憎い!憎い!死ね!死ね!死ね!死ね!旦那が死ねばいい!娘も死ねばいい!旦那がいなくなればいい!娘がいなくなればいい!血!血!血!血!殺してやる!殺してやる!殺してやる!死ね!死ね!死ね!」