第一話〜都市伝説~
「ねぇ〜!聞いて下さいよ美里さん」
私の名前は、山寺美里という。私を美里さんと呼んだのは、片桐遥香だ。
遥香は私の後輩だった。過去形なのは、一緒に働いていた雑誌社をすでに私が退職しているからだ。
今、私はフリーライターとして働いている。
「どうしたの?」
私は、行きつけの居酒屋でビールを美味しそうに飲んでいる遥香に聞いた。
「私、最近引っ越したって言ったじゃないですか〜!」
「そう言えば、言ってたわね」
少し前に電話でそんな話をした事を思い出した。
「その引っ越した町に、変な噂があるんですよ〜」
酔いが回り始めたのか、話し方が変な風になりはじめた遥香が言う。
「変な噂って?」
「猫なんです!」
説明になってなさ過ぎて、意味がわからなかった。
「猫?」
「なんか、黒猫らしいんですけど」
私は話の先を促す。
「その黒猫が現れると、事故とか事件とか、変な事がおきるそうなんです!」
「どういう事?」
私は、少し遥香の話に興味を持っていた。それは、最近オカルト雑誌の記事を担当したからだ。
担当したと言っても、手伝ったというのが正しい。
「なんか、私の住む町の都市伝説みたいなものなんですけど」
そう言って、遥香は話しだしだ。
「私の住む町では、事件とか事故がやたら多いみたいなんです」
遥香は、そう言ってジョッキに残ったビールを飲み干して、おかわりを注文した。
「ほら!少し前に、工事現場で男女二人を焼死させた事件があったじゃないですか〜!」
「ああ、ニュースとかで一時騒がれてた事件ね」
男が同僚と元恋人を小屋に閉じ込めて火を放った事件だ。
「あの事件も、今私が住んでる町でおきたんです」
「へ〜!そうなんだ」
気のない返事を私はしていた。でも、私は興味が強まっていっていた。
そして、ちょっと調べてみようかと考えはじめている。
「事件を招く黒猫か〜!」
「ちょっと面白そうじゃありませんか?」
遥香は、私の顔を見ながらニコニコしていた。
「なによ!その顔」
「だって美里さん興味が湧いてきてるでしょ!顔に出てますよ〜」
遥香が少し茶化すように言った。
「本当はですね~、私が調べたかったんですけど、ちょっと難しいじゃないですか〜」
たしかに、遥香が働いている雑誌社では扱わない内容だ。
それは、前に働いていた私にもわかった。
「代わりに取材して欲しいって事?」
「今の美里さんなら、オカルト雑誌にも繋がりがあるみたいですし、どうかな〜と思って」
たしかに、遥香が取材をしても今の雑誌社では使ってもらえないだろう。
「う〜ん、上手くすれば記事になりそうだし、調べてもいいけど、ホントは他に目的があるんでしょ!」
「へへ!目的というか、私が引っ越したマンションでも変な噂があって!」
やっぱり、何か裏があるんだと思った。前々から、この子にはこんなところがある。
「変な噂って?」
「変な音が夜に聞こえるんです!」
何か話の方向が変わってきたような気がする。
「音?」
「夜中に、マンションのエレベーターホールで、ドンドンって音がするらしいんです」
よくある怪談話になってきた。
「エレベーターの機械音じゃないの?」
「そうかもしれないですけど、例の猫が音がなってる時に現れるらしいんです」
なんか、取材対象が変わってきたような気がしてきた。
「つまり、猫との関連を知りたいのね」
「それもなんですけど、ウチのマンションを調べて欲しいんです」
「自分で調べたらいいでしよ!」
「美里さん!手伝って下さいよ〜!」
つまり、一人で調べるのが怖いという事だろう。
「怖いんだったら引っ越せばいいじゃない!」
「今のマンション、家賃も安いし仕事場にも近いし、理想的なんです!」
つまりは、マンションを引っ越したくないけど、怖いから原因を知りたい。
猫との関連性も知りたいって事らしい。
「どちらかというと、黒猫よりマンションの方を調べて欲しいんでしよ?」
「黒猫も気になってますよ!ホントに!」
黒猫は、私を釣るための話のようだった。ただ、黒猫の都市伝説は本当にあるようだった。
まあ、時間がある時に取材をしてみて、使えそうならば記事にすればいい。
この時の私は、そんな程度に考えていた。