8 マナの泉
これから、問題の六合目に入る。
ここまでは、軽く来られたが、皆にマスクを配り、使い方を説明している。
フランは、不安だ。もし、マスクが旨く働かなければ、エステバルやフランは、気を失って悪くすれば死ぬかも知れない。ココやワチキではフラン達を担いで山を下りることは出来ないだろう。
試験はしたけれど、実際の環境での実験は出来なかった。
「ココ、ワチキ、息は苦しくないか?」
「クウ!」
「空気は吸えてる。マスクがなくても何故か平気みたい。」
やはり、ココやワチキは、精霊樹が作った生きものだ。フラン達とは種属が違うから身体の仕組みも違うようだ。
「足もよく動くし、なんだか力が湧いてくる。」
スクロールを使わなくても体力が付いている。どうやら、マナが影響しているようだ。
地上よりもマナが段々濃くなっている。気温はかなり低くなってきた。
皆のマントには、孤児院で着ていたマントと同じ加工を施した。
これは良い。もっと早く作れば良かった。今まで気候が穏やかな、サミア王国にいたので、必要性が感じられなかったが、これは、暑さも寒さも防いでくれる優れものだ。
これも若しかしたら売れるかも知れない。もっと工夫して使いやすくしてみよう。
フランは一人考え事をしながら黙々と山を登ってゆく。
エステバルは、ワチキが、別人になった様に元気になったのを驚いて見ていた。
ココは皆よりも一歩先に進み、空から地形を見て、落石がありそうな場所を知らせてくれている。
当初考えていた懸念は何だったのか。六合目から上の方が格段にスピードアップしていた。
とうとう頂上に着きそうだ。
ワチキは飛ぶような勢いで山頂から火口の中に飛び込んで行って仕舞った。
「ワチキ!辞めろ危ない!帰ってこい。」
エステバルが焦って火口まで一生懸命登ってゆく。
フランを心配しながら飛んでいたココも、何故かハイになってしまったようだ。
フランを置いて行って仕舞った。
エステバルとフランが漸く火口の縁に辿り着いたときには、ココとワチキは湖の中で泳いでいるところだった。
「なんだこれは、湖が火口の中にある。」
「こういうのは偶にあるんだ。カルデラ湖って言うんだ。」
「何故?本で読んだのか?」
フランはぎくりとした。そうだった、この世界では知られていない知識だった。
『カルデラ』という言葉はないかも知れない。
山頂に湖があるという場所は、フラン達の大陸では見たことがなかった。
「そうだ、・・図書館で知った知識さ。」
「そうか。勉強しないと、やはりだめだな。俺もその内図書館へ行くよ。」
暫くフランとエステバルは、そこからココとワチキを眺めていた。
楽しそうに生き生きとしていた二人が突然光り輝きだした。
余りのまぶしさに目を両手で押さえて蹲ったフランとエステバル。
輝きが収まった頃に手を下ろすと、そこには姿が変わってしまった、ワチキとココがいた。
ココは巨大な白いフクロウになっていた。変わっていないのは赤いくちばしと黄色の目だけだ。
ワチキは少し身長が伸び身体は豊満になり、髪の毛が真っ赤な色に変わっていた。
『ワチキ、どうしてしまったんだ。まるで別人だ。』
エステバルは、狼狽えている。よく知っていた可愛い女の子が、知らない大人の女に変わってしまった。
フランも狼狽えていた。
『あんなに大きくなってしまって。これからどうやって肩に乗る?』
訳の分らない心配をしていた。