5 獣人族の仲間
この宿には獣人の商人が多く滞在している。
この国では商人がとても豊かな暮らしをしているようだ。
商業と魔道具がこの国の主産業なのだろう。豊かな土壌で、さして努力なく農産物がどの島でも採れるので、珍しい食物以外は、島の中で足りてしまう。
だから、食物のやりとりは島同士では滅多にやらないようだ。
手作業で作った物が需要がある。酒類、加工食品、絹の反物、工芸商品、芸術的な細工を施した家具、繊細なビードロ、金属製品、薬、武器、防具などが取引されているようだ。
一番高値が付くのは、やはり魔道具だ。この国でも魔道具を作るのは高度な知識が必要とされ、余り多くの魔術師はいないようだ。
この話を聞いて俄然やる気が出たフランは、自分の作った物を、宿に滞在している商人に売り込んでみた。
「これはこちらでは一般的な通信システムですね。この国には光属性持ちが沢山いますので、量産しております。価格も抑えられて、皆持っている魔道具です。」
と言われてしまった。
苦労して作った物が、すでに知られていた技術だったことに愕然としてしまった。
では、仕方がないと通信の魔道具を魔法袋にしまおうとすると、
「これは魔法袋ですか。こんなに小さな魔法袋は初めて見ました。これなら高値で取引できます。」
それを聞いたフランは、やはりがっかりした。これはこの国では作る事が出来ない。闇リスはこの国にはいないだろう。その事を伝えると商人は、
「では、貴方が国へお帰りになって作って持ってきてくれれば、幾らでも買い取ります。どうですか?」
「済みません。まだ旅の途中でして、未だ国へは帰らないです。」
「そうですか。残念です。ではこれで商談は終わりですね。」
そう言って商人は行ってしまった。
悄然として、そこで暫くお茶を飲んでいたら、隣の席で寛いでいた獣人達が声を掛けてきた。
「ちょいと、あんた。若しかしてこの間の狩人じゃないかい。」
そちらに顔を向けると、狩人等のパーティーが座っていた。4にんのチームで、一人は犬、一人は熊、あと二人は猫だった。猫と言っても大型で、ヒョウの模様がある獣人と、トラ模様の獣人達だ。
男一人に女三人。ハーレムか。
「そうですが何か?」
「あんた、商人なんてヤめっちまいな。買いたたかれて酷い目に遭うよ。折角良い腕持っているんだから。狩人が一番稼げる仕事だ。なあ、みんな、」
まわりの獣人達も口々に、そうだそうだという。
この国では稼げる仕事は、狩人もだったな。しょんぼりして部屋に帰ったフランだった。
フランは、別に狩人が嫌なわけではないが、魔道具を作る事が自分の以前からの希望なのだ。
だけどこの国では自分の技術よりもずっと進んでいる。
もっとこの国の技術を学びたいが、図書館員にも言われたが、魔道具の技術は、門外不出なのだとか。
当たり前だ。国の基幹産業を態々他国の魔術師に教えるはずもない。
サミア国と交流があっても、魔道具の取引はしていなかったのだから。
一人悶々としていると、エステバルが帰ってきた。
狩りをしてきたのだろうと思っていたら、仲間を3人連れていた。獣人の仲間だ。
いつの間に知り合いになったのだろう。
「よう、フラン。売れたか?」
「だめだった。すでに知られていた技術で売っている物だってさ。」
「そうか、残念だったな。これから、明日の狩りの予定を立てるけど、フランはどうする?」
「僕も行く。」
明日は遠出をしてマナ山へ行くことになった。
マナ山とは、龍がいると言う一番高い山だ。フランは一気に元気が出た。
「そうだ、龍を見て見たかったんだ。」
マナ山まではかなり日にちが掛かるそうだ。近く見えていたが、どうやら大きな山なので、そう見えていただけのようだ。ココとワチキもつれてゆく。二人とも喜んでいたが、ワチキはあそこまで、歩けるだろうか?心配だ。
そうだ、この間読んだ魔法の本に、この国では無属性が有ると書いてあった。そして無属性とはどうやらスキルを発現する属性のようだ。
この国では無属性に関してのメカニズムがよく研究されていて、魔方陣まで載っていた。
運良く簡単な物は覚えていた。
スキルは、簡単な物なら、スクロールに興す事が出来る。耐久とか健脚は出来そうだ。作ってワチキに使って貰おう。やる気が出てきた。魔道具でなくても、未だフランには出来ることがあった。
次の日、案の定ワチキはへたばったので、スクロールを渡して使って貰った。見違えるように健脚になり皆と一緒に歩けるようになった。ワチキは感激してフランに何度もお礼を言った。
一緒に来ていた獣人族の仲間が驚いて、
「無属性の魔法がいとも簡単に使えるなんて。あんた、何物だい?」
「只の錬金術師ですよ。僕らの国ではスクロールを作る技術があります。良かったら欲しいスキルを教えてください。作れるかも知れません。」
「剣術が欲しい。」
「ああ、努力すれば出来る技能関係は、難しいですね、例えば遠見は鍛えても無理ですよね。そういうのは何故か作れます。後は暗視、耐毒、耐寒、耐熱、今作れるのはそんなところです。」
「・・・・」
獣人達は皆呆れてしまったのか口を開けて黙ってしまった。
「あの、いりませんか?」
「い、いや。総て欲しいものばかりだが。持って生れた無属性の魔法ばかりだ。俺達には鍛えてもどうしようもないと諦めていた。そのスクロールを売ってくれ。」
「これは一回こっきりで、使い捨てです。差し上げますよ。遣ってみて良かったら買って下さい。」
皆それぞれ欲しいものを言い、その場で作ってあげた。
この野営が最後の野営だ。
さあ、もう直ぐマナ山の麓に着くぞ。