2 夢の船旅
フラン達が向かっているのはジパンという国だ。
ジパンは緯度が温帯に位置していて、フランの前世の東北地方の南部と同じくらいだ。大小様々な島で構成され、それが1つの大国になっている。造船技術が進んでいて、島との行き来は高速艇が活躍している。
国の中心はまだまだ遠いが、サミア王国から一番近い島へは、もう直ぐ着きそうだ。
「この国は日本と似ているけど全く違う。日本は縦に長い国だったが、この国は緯度に沿って伸びている。
どの島も似たような気候らしい。」
フランは波に声がのまれていく様に小さな声で独り言を言った。
エステバルとフランは船底を行き来している人間の様な魚のような不思議な生きものを見ていた。
今まで見たこともない亜人種、魚人、若しくは人魚と言うらしい。
彼等は、船が浅瀬に乗り上げないように船の航行を手助けしている。偶に船に上がってきては、水の補給をしてくれている。
見る物総てが初めてで、フラン達は全く飽きると言うことが無かった。
フラン達が上陸した島は、この国では小さい方だ。国に住んでいる人達は皆小さくフラン達は浮いて見えた。まるで、こびとの国へ迷い込んだみたいに感じる。
平均身長は130センチ位だろうか。手足は一様に短い。
顔は猿に似ているが、れっきとした人間だ。前世の日本人に似ていなくもない。
皆親切で、島の特産は海産物と麦、各種の野菜から作ったという砂糖だ。砂糖は原料によって味も風味も違う。その中でも麦芽から取った麦芽糖の水飴は、フランにとって懐かしい味だった。
エステバルにとっては目が点になるような、珍しい物ばかりだろう。
「この麺は旨いな。初めて食べる味だ。」
「うん、そうだね、ワチキも食べな。もう食べる事が出来そう?」
「未だ、無理。もう少し待って。」
ワチキはまだ、船酔いから復帰出来ていないようだ。歩き方もふらふらしたままだ。
今日はまず宿を取って、島ではどんな魔道具が売れ筋か、魔獣はいるかなどを調べなければならない。
「ココ、君は良いのか?自分で獲ったネズミばかりだとつまらないだろ。」
「クウ?」
「これ、食べてみて。」
ココは、うどんのような麺を食べて、気に入ったようだ、いっぱい食べている。
「海が見える宿を取ろうぜ。」
「辞めて、もう海は見たくないです。」
「全く面倒くせえ。お前、本当に精霊か?」
「ワチキは、精霊ではありましぇん!精霊樹のお使でしゅ!」
興奮すると言葉がおかしくなるようだ。フランは、エルフに対する幻想を解いた。
ワチキは見た目はエルフだが、どうやらポンコツっぽい。黙っていれば美麗なのでどうか余り口は開かないで貰いたいと、コッソリ思った。
ココは何時も、フランの頭の上に乗っている。重さは感じないが、なるべく肩に乗って貰いたい。可愛いので、「僕の守り手がココで良かった」としみじみ感じていた。
この島は殆ど円形で、中心に火山がある。その周りは深い森で、人が住んでいるのは島の外苑部分だ。人口はそれなりだ。この島の大きさに見合った人口だろう。森には魔獣が沢山いるが、魔獣は森からは出てこないそうだ。魔道具で囲っているらしい。是非とも作り方を覚えて、サミア国に持って行きたい。
フラン達の大陸より総てが進んでいるように感じる。
道路が整備されていて、自転車のような物が走っていた。
「変わった乗り物だ!乗ってみたいな。」
「あれは、練習しないと難しそうだな。でも挑戦してみよう。」
フランは自転車は乗ったことがない。前世の身体では無理だったが、ここに来て自転車に乗れるようになるかも知れない。
早速自転車を貸して貰おうとしたが、売り物しか置いていないと言われ、一台買ってしまった。
練習できる場所を紹介され、そこで乗ってみた。意外と簡単に乗れてしまった。
ワチキはいくら練習しても転んでばかりで一向に上達しない。
しかたがないので、エステバルの後ろに乗せて走った。
「これはとっても気持ちが良い乗り物でしゅ。」
この自転車は、取り敢えず魔法袋に保管だ。
他の島でも乗れるなら、もう一台買っても良いかもしれない。