17 そろそろ帰ろう
リザードベアの革の加工が出来上がってきた。
随分時間が掛かった。仕上がった革を見ると、とてもでは無いがフランには鞄を作る事は出来ない。
余りにも堅い。木の皮のようだ。柔軟性に欠け、これでは大した容量にはならない気がする。
使用人に頼んで、箱に作り直して貰うことにした。
出来上がった箱は、五〇㎝四方の蓋付きの箱だった。
この箱に魔方陣を描き、魔石にも魔方陣を描き箱の底に固定する。
さて、どれくらいの容量のものが出来たか。
まあ、こんなものだろう。素材が余り良くないと、使い勝手の悪いものしか作れない。
これは、今までお世話になったお礼にユーナに貰って貰おう。
ユーナには遠慮されたが、無理矢理置いてきた。
これから、遺跡の上空をココに乗ってぐるりと一周してから港町に行こう。後10日で船が出るはずだ。
ココに乗るのは夜になってからだ。周りに知られると騒ぎになる。
遺跡は広大な範囲にまたがっていた。フランは、中でも一番背の高い塔に降りてみた。大きな鳥がいたが、ココが風の刃であっさり倒した。かなりの獲物だ、これは港町に行ってから売りさばこう。
巣には卵が2個あった。それも魔法袋に入れた。
まだ壊れていないしっかりした造りの塔だ。
遺跡の中心に当たる場所だ。ここには沢山のお宝が眠っていそうだ。探索者はここまでは入ってこられないだろう。塔の周りの地上には沢山の魔獣が蠢いているのが見える。
屋上から入れる場所を探して、そこから塔の中に侵入した。
「クウ」
「ああ、暗いな、ココは見えるだろう。今明かりを付けるから、気を付けて。目が一瞬見えなくなるから。」
ココは夜行性だ。強い光を浴びれば、目がくらむだろう。
上の階は雨ざらしで苔が生え、床が滑りやすくなっている。気を付けて慎重に階を降りて行く。
1つの両開きの扉を開けてみると、そこに人らしき影があった。
『探索者か?』
「あんた、誰?」
女の子だ。こんな処に一人でなにをしているのだろうか。
「君は何故この塔にいる?危なくないか?」
「ここに置いて行かれた。」
この子はここいらにある部族の出身か?淺黒い肌、黒い髪、緑色の目。エキゾチックな顔立ち。
この塔は、上からしか入れない場所だ。どうやって入って来られたのか。
「どうやってこの塔に入れた?」
「大鷲の餌にされそうになって、塔の上の巣に置いて行かれた。だから、下まで降りてきた。」
あの大きな鳥か。彼女は痩せ細って、傷もあちこちある。どれくらい潜んでいたのだろうか。
フランはポーションを渡し、携帯食と水を彼女に渡した。
彼女は、むさぼるように食べている。余り一気に食べると危険では無いだろうか?
「君何時からここに、いるの?」
「昨日。」
昨日来た割には随分痩せこけている。
「君の名前は?」
「レーリオ。北ノ谷のレーリオ。」
「じゃあ、北ノ谷のレーリオ。君をそこへ送っていってあげるよ。」
「・・・」
どうした?何かしただろうか?
「部族を抜けてきた。王都へ行こうとして大鷲に掴まった。北の谷へは帰りたくない。」
「じゃあ、王都へ連れて行ってあげよう。」
「あんたは王都の人?」
「いや、僕は闇の大陸から来た魔法使いだ。」
こちらで通じるだろう単語に言い直してみたけど、北ノ谷でも通じただろうか。
「じゃあ。私を闇の大陸まで連れて行って!私も魔法使いになりたい。呪術師はもう嫌だ。」
レーリオは呪術師なのだろうか?彼女は15歳くらいに見える。これから魔術師は無理だろう。
どうしたものか。
兎に角食事を終えたレーリオの傷の具合を見てみる。ポーションが効いてきたみたいだが、肩が深くえぐれていて、傷痕が残りそうだ。大鷲に掴まれた痕だろう。フランがじっと見ていると、
「これくらいたいしたことは無い。私を貴方の国へ連れて行ってくれたら、私を好きにしていいよ。」
とんでもないことをさらりと言われ、フランは一瞬何を言われたか、理解するのに時間が掛かった。
「そ、そんなことは良いから。君は一体何歳なの?魔法使いにはなれない、無理だから。」
「そう、無理か。だったら奴隷でも何でもいい。貴方が呪いたい人がいたら、呪ってあげる。」
「王都に行くのではだめなのか?」
「王都は、多分、追っ手が来る。」
追っ手、って。どういうことだ?若しかして面倒ごとに巻き込まれたっぽい。
それから暫く塔の中でレーリオの話を聞くことになった。
彼女は、部落では、神事を執り行う巫女の見習いようなものだった。
巫女見習いは部落には複数いる。その中から、選ばれたものが巫女のトップになるが選ばれなかったものは、生け贄として拘束され、自由を奪われるらしい。
レーリオは拘束される前にコッソリ抜け出せた。もし其の侭いたら、大鷲の餌食になっていた。
しかし、逃げたところで大鷲に捕まって仕舞った。運が悪いとしか言えない。
大鷲は、部族の守り神として称えられている。
未開の部族にはよくある迷信。閉鎖された小さな世界の中の理不尽さに、フランは憤りを覚えた。
「分った。君を連れて行ってあげよう。その前に、ここいら辺を探索してお金になりそうなものを持って行こう。」
直ぐに金になりそうなものを魔法袋にどんどん入れて行き、手当たり次第に何処でも開けて、探索していった。魔道具は総て納めてしまおう。その他の貴金属は其の侭懐に入れてしまう。金貨がかなりの大きな箱に入って見付かった。ここはどこかの王族か、貴族のための塔みたいだった。
3日掛けて上から下まで探索した。大量の魔道具。武器防具。服飾品。古式ゆかしきのドレスと、貴族風のトーガなどたくさんの衣類。ボロボロの本。
これらは王都に戻ってユーナに渡して出土品として提出して貰おう。他はフランが貰う。
見付かった魔法鞄に詰め、夜にユーナをコッソリ呼び出し、これまでのことを話した。
「これは大変な金額になって仕舞う。私が貰う訳にはいかないわ。」
「では、誰かにやれば良い。僕は国へ帰らなければならないから、査定が出るまで待っていられない。時間がない、船に遅れてしまう。じゃあ、今度こそさようなら、世話になった。」
「待って、やっぱり貰えないこれは貴方が持って行って!」
時間が無いのに、こんな処でやりとりしたくないのに。もうどうとでもなれだ。
フランは突き返された魔法鞄を持って急いで物陰に隠れた。そこから、ココに乗って塔に戻り、レーリオを乗せて、港町に向かった。
一応ユーナにはあの塔の場所を教えて置いたが無理だと言っていた。
あそこはマナの吹き出る中心だった。