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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と勇者

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最後の魔王

◇◇◇


 シロウが振るうハクアの剣は空を切る。


 剣をかわし、薄笑いを浮かべながら雷で出来た槍の柄でシロウの腹部を小突く。


「どれどれ、一つ剣の稽古でもつけてやろうか?ふははは、特別だぞ?」


 シロウはギリっと歯ぎしりをしてラータを睨む。


「……うるせぇ!」


 ハクが風魔法を用いて動きをブーストしてはいるが、全く攻撃が当たる気配が無い。


 剣を受けず、正に見切り一寸と言った様子で躱し続けるラータ。


 だが、何度目かのシロウの攻撃はラータの左腕を捕らえる。


「ぐわあぁぁあ」


 わざとらしいうめき声を上げ、ラータは左腕を押さえる。地面には左腕がボトリと落ち、勢い良く血が溢れる。


 次の瞬間押さえていた右手を離すと既に左手は再生していて、ニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべる。


「なんちゃって」


 その笑みと同時に雷撃がシロウを襲う。


 後ろ飛びに回避を試みるが回避しきれずに、シロウは顔を歪めて膝を付く。



「ほん……っとうにグズなやつだなぁ、お前は」


 呆れ顔でため息を吐きながらラータはゆっくりとシロウとの距離を詰める。


「何で追撃しないんだ?再生しないと思ったか?死んだと思ったか?ナシュアならそのまま粉微塵にしてるぞ?あ、あれか?もしかして……人を斬った事が無かったか?やれやれ、しょうがないな。仮にも私は育ての親だからなぁ」


 ラータは両手を広げて悠然とシロウに近づく。


「ほら、どこでも好きな所を斬ってみるといい。すぐに慣れる。骨のあるところ、筋肉、脂肪、性別や年齢によっても斬り心地は違うからな?何ならそれも試してみるか?」


 そう言うとグニャリと姿が変わり、20代後半程の優しそうな女性へと変化する。


「ほら、やってごらん?シロウ」


 その姿は在りし日のシロウの母の姿だった。


 シロウは驚き、目を見開く。


「……母さん。何で、お前が知ってるんだ!?」


 ラータは口に手を当ててクスクスと笑う。


 その口調まで在りし日のままだ。


「何でって。下見位はするに決まっているでしょ?シロウ。ほら、どこでも好きな所を斬っていいのよ?胸?お腹?それとも――」


 

 ――ヒラリ、と一枚黒い羽が舞い落ちる。


「黙って」


 4枚の黒い翼を広げて、魔王イズミの持つ黒い刀は躊躇いなくラータを頭から両断にする。翼を広げ、ラータとシロウの間に舞い降りる事で、シロウの視界を遮っている。


 一刀、唐竹割にラータを両断すると、高速の一閃は返す刀で逆袈裟に斬る。


 刀は黒い炎を纏い、振る事に火の粉は羽の様に落ちて消える。


 ヒュンと一度刀を振ると、黒い炎に燃えながら再生をしているラータを侮蔑の瞳で見下ろす。


「下衆ね。シロウの優しさを逆手に取るなんて。でも、安心して……私はシロウみたいに優しくないから」


 その言葉通り、今度はイズミの父親に変化したラータの顔面を斬る。


 再生しても再生しても、即座に斬っては燃やされ、流石のラータも表情に余裕は無くなってくる。


「は――」


『ははは、酷いなお前は』とでも言いたかったのか、最初の一音を発声している途中で斬られる。


 何度かそれを繰り返した後で、諦めたのかラータの身体はガクリと崩れ落ちた。


 時間にして何十秒かの剣戟を終え、イズミはヒラリとシロウの横に飛ぶ。


 口を開け、まるで演舞のようだったイズミの剣技に見入っていたシロウにトンと肘を突く。


 シロウに触れたその一瞬だけ翼は消え、また現れる。


「そう言えば……」


 周囲を警戒しながらも、とぼけた様にそっぽを向いて呟いた後、シロウを見てニッコリと嬉しそうに笑う。


「一緒に戦うの初めてだね」



 ――子供の時は守っているつもりだった。


 あの日以降は遠くから眺めている事しか出来なかった。


 イズミが消えてからは、助けなきゃと思った。


『一緒に戦う』


 イズミに言われるまで、考えもしなかった。


 湧き上がる笑みを堪えようとした名残を口角に残し、シロウはハクアの剣を握る手に力を入れる。


「そう言えば、そうだな」


 とぼけた様にシロウもそう言うと、お返しと言わんばかりに肘でイズミを小突く。


「戦おうぜ。……一緒にな」


 シロウが触れた一瞬また翼は消えて、離れるとまた現れる。


 イズミは照れた様に少し顔を赤らめてコクリと頷く。


「うん」


 勇者と魔王の生まれ変わりではなく、生まれた田舎町で共に暮らしていたならば、共に戦う事などなかっただろう。


 それは、50年共に時を過ごしたかつての勇者と魔王……ハクアとクロバも出来なかった事。


 対するは300年の時を生きる知恵の亡者ラータ。


 不死を望むはずの目の前の敵は、不死の如き超速再生を持つ。


 シロウとイズミは、剣を構えて笑う。


「……と言っても、俺上手く連携とかできる気しないんだけど」


 イズミはムッと頬を膨らませてまたシロウを肘で小突く。


 翼が一瞬消える。


「そんな心配要ると思う?私とシロウに」


 

 ラータの背後に魔法陣が現れると、そこから禍々しい魔力で作られた龍の頭が現れる。


「はいはい、下らない恋愛喜劇はその辺でいいかな?シロウ、安心しなよ。後で続きはしてあげるから」



 ラータの言葉にシロウは顔をしかめる。


「……気持ち悪い事ばっか言ってんなよ、お前」



「援護するわ。シロウは好きに動いて」


 この局面に至っても、黒翼の魔王はクスリと笑い一瞬の加速で敵へと向かう。


「イズミ!転生術ってのに気を付けて!何か変な魔法陣!」


 シロウにまとわりついた白蛇のハクが声を上げ、イズミはコクリと頷く。


 気を付けてと言っても、どんな術で、どの程度の発動時間なのかも一切分からない。


 だが、イズミは力強く答える。


「全部よけるから!」


 イズミに一呼吸遅れて、シロウもラータへと駆ける。


「うぉぉぉぉぉっ!」


 己を鼓舞するように、声を上げて、風を纏い、純白の剣を持つ勇者はラータへと駆ける。


 

 ◇◇◇


 イズミの言葉通り、二人に連携など必要なかった。


 召喚術や、見た事も無いような各種属性術を繰り出すラータの攻撃をかすりもせずにイズミは攻撃を繰り出す。


 そして、その黒い刃に手数は劣るものの、合間を縫い白い刃が敵を斬る。


 斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。


 召喚された何かも、魔物も、魔法も、ラータの攻撃も、シロウに向かう全ての物は(ことごと)く黒刀により斬り伏せられた。


 


 暫しの攻防の最中、手負いのラータがいくつもの魔法陣を同時展開すると、その中の一つを見てハクは声を上げる。


 その魔法陣には見覚えがあった。


 ハクアの森の湖畔で、ラータがハクの周囲に描いていた魔法陣。


 あの時、ラータは確かに言った。『転生魔法陣』、と。


「イズミっ!転生魔法陣が混ざってる!上の三つ目!」


 ラータはチッと舌打ちをして、イズミはニコリと笑う。


「ありがと。もう覚えたから」


「畜生が」


 そう吐き捨てるように言ったラータを黒刀が斬る。


「ハクにひどいこと言わないで」



◇◇◇


 どれだけダメージを与えても、ラータは何度も再生を繰り返す。


 本体など無く、どの肉片からでも間を置かず再生する事ができる。


 恐らくは、あの墓の下の空間でナシュアの取った戦法が最適解だったのではないだろうか?超火力を以て空間の全てを塵と化す。再生の余地が無い程に、全てを同時に、瞬時に塵とする。


 ラータがナシュアを警戒していなければ、墓の下で彼の300年は潰えていたかもしれない。


 魔法が使えない、と言うその致命的な一点を除けば彼は紛れもなくラータの生涯最高傑作だった。


 ――ナシュアの身体であったなら。


 勇者と魔王に攻め立てられながら、賢者はギリと歯噛みする。


 だが、ラータには一つの仮定があった。


 その時が来るまで、ただひたすらに根競べを続ける。



 それは、シロウとイズミにしても同じ事だった。


 圧倒的な速度で再生を果たすラータだが、不死であるイズミの身体を望む以上不死ではない筈。


 不死で無いのなら、殺し続ければいつかは死ぬはず。


 攻撃は当たらない。転生魔法陣にだけ注意を払えば問題は無い。



 双方の終わりの見えない根競べが続く。



 ――そして、根競べの終わりは唐突に訪れた。



 雷の槍を手に、宙に浮かびながら無数の魔法陣を出していたラータは急に糸が切れた様に落下する。


 鈍い音を立てて落下したその身体の周りを赤い染みが広がる。


「え」


 明らかに今までと違う挙動に、肩で息をするシロウも驚きの声をあげる。


「……ふふ」


 イズミの笑う声がして横を見ようとした瞬間に、ガバッとイズミはシロウに抱き付き歓喜の声を上げる。


「やったぁ!」


「おっ……、おい!ちょっと待てって」


 イズミはシロウの耳元でささやく。


「思った通り」


 イズミの声でささやかれたその言葉は、ゾクリと耳から背中までを突き抜けた。


 勿論、悪い意味で――。



 咄嗟に手を払い、距離を取る。


 シロウと離れると、4枚の翼が現れて、イズミはクスクスと笑う。


 ハクは困惑の眼差しをシロウに向ける。


「……シロウ?」


 シロウは険しい顔でイズミを見つめて、剣を握りしめる。剣の柄は、赤く染まっていた。


「何でだよ……」


 震える手で剣を握り、今にも泣きそうな目でイズミを睨んで叫ぶ。


「何でなんだよっ!」



 その反応がお気に召したのか、『イズミ』は羽を広げてクルリと一回りすると、フワリと宙に浮かびシロウに微笑む。


「シロウ、安心して?もう新しい魔王は生まれる事は無いわ」


 首を傾げて少し何かを考えるようなそぶりを見せたかと思うと、バサッと背中の羽が6枚に増える。


「私が永久に生き続けるのだから」








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