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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と勇者

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勇者の剣、魔王の刀

◇◇◇


 ジーオの右手はシアンの身体を引き裂き、それを合図の様に戦端は開かれた。


 生まれて初めて剣で無く、己の手で生き物を引き裂いた感触に顔を歪ませながらジーオはシアンに追撃を行う。


 シアン曰く、その手からはかつての魔王四天王『爆心鬼』ナギオウの匂いがすると言う。


 軽い一撃でシアンの身体を裂いたその右手は、全力でシアンに振り下ろされる。


 瞬間、直下型の強い揺れと地鳴りの様な音が鈍く響き、屋敷の窓は衝撃で全て割れる。土埃が舞い、一瞬後それは黒い炎の羽と共に巻き起こった風にかき消される。



「……魔王城の見える場所に埋葬したのですが。随分悪趣味な事しますねぇ、アナタ達も」


 ジーオの右手を受け止めて、ヴィクリムは小さくため息を吐く。


 そして、ギロリとジーオを睨み付ける。


「ナギオウのその手はシアンの頭を撫でる為の手でしょうが」


 いつもの薄笑いも、不気味な笑い声も無い。穏やかな口調ながら、友を弄ばれ、友を傷付けられた怒りに満ちていた。


 右手に魔力を込め、亡き友の手を狙う。


 ジーオの周囲がグニャリと歪み、四方八方から高密度の魔力が放たれる。


「……チッ、邪魔ですよ」


 身をよじり回避すると、ゆらりと羽織の裾を揺らしてカルラを狙う。


 カルラの周囲が歪み、短距離転移を行ったかと思うと今度はジーオの手元の空間が歪む。


 バチバチバチと空間をねじ曲げるような音と光と共に、ジーオの身の丈に合わない大きさの禍々しい長柄の戦斧が現れる。


 それはヴィクリムも見覚えのある物のようで、顔色が変わる。


「……その斧」


「うおぉぉぉぁっ!」


 武芸百般・技の極致と称された男は両手で戦斧を持ち、力任せに振り回す。


 爆心鬼ナギオウ愛用の戦斧。


 その風だけでヴィクリムは屋敷の壁を破壊し吹き飛ぶ。


「ゴホッゴホッ……、全く懐かしいやら忌々しいやら」


 ヴィクリムは瓦礫の山からジーオを睨む。


◇◇◇


 シロウは動けなかった。


 シアンが裂かれ、ヴィクリムとイズミが飛び出しても、尚動けなかった。


 ハクアの剣を持つとは言え、それを抜けば彼は戦闘に関して殆ど並の冒険者だ。希少且つ特異な光属性を持ち、日々鍛錬をしているものの、それはここ一年余りの話だ。


 命を賭した戦いの経験も、ダストロ村の夜の一度しかない。


 命を懸ける覚悟はある。ハクアの剣と言う力も得た。だが、絶対的に経験が足りない。経験の少なさは有事の際の瞬発力の無さに現れ、シロウは動けなかった。


 ヴィクリムはジーオを止め、イズミはシアンを救い、シロウは動けなかった。


 視界の先でヴィクリムは四極天2人を相手取っているが、そこに割って入れる様な戦闘経験も無い。


 この局面に至っても出来ない事、足りない物ばかりで、シロウは奥歯を噛み締めて立つ。


 

 その様子をどこからか持ち込んだ椅子に座りながら、ニヤニヤとラータは眺めていた。


 彼は全てを予期する万能の予言者では無い。


 全ての行動の根源は『知る』事である。知恵を、知識を、感情を。


 故にほとんどの行動は、『そうなったら面白いな』との享楽的な考えによるところが大きい。



 例えば、シロウに一切武術を教えなかった事。



 この局面までを見通していた訳でなく、あくまでも『こうなったら面白いな』と思い、たまたまそうなっただけに過ぎない。


 最終的に魔王の身体が得られれば、残りは全て良き経験に過ぎないのだ。


 何を得ても、失っても、感じても。その一時でしか得られないものであれば尚良い。


「なぁ、シロウ。どんな気持ちだ?大事な想い人を守る戦いで身動きできない気持ちは?」


 ニヤニヤと楽しそうに椅子の脚を前後交互に浮かせながらラータはシロウに問う。



 シロウは空を見上げてイズミと、彼女に抱きかかえられているシアンを見る。


「……悔しいよ」


 ラータはブッと噴き出し、笑いを堪えながら質問を続ける。


「ぶはっ、いいね。でももう少し細やかな心理描写を聞きたいんだけどなぁ。まぁ、お前の文才じゃ無理か。ははは」


「……悔しいよ、俺が動いたって何も変わりはしなかっただろうから」


「ふははは、そう自分を卑下する事は無い。お前ぐらいのものでもお荷物くらいにはなれるさ。そう気を落とすなよ、はははは」


 楽しそうに椅子を動かしながらシロウを煽るラータ。


 イズミ達を見上げるシロウの頬にポタっと赤い液体が降ってくる。


 恐らくは、シアンの血だ。


 彼女の血も、赤かった。


「もし、俺が動いていたら……」



 シロウは頬の血を袖で拭い、ラータを見る。


「お前も動いてた」


 ラータは眉を寄せて首を傾げる。


「んん?言語能力低いな、言ってる意味がわからないぞ」



「俺が動かなければ、お前はきっと黙って俺を見てるだろ?」


 合理性よりも、好奇心と嗜虐心による観察を取る筈。


 そうすれば、ヴィクリムとイズミは邪魔をされず自由に動けるだろう?とシロウは言う。事実、二人はシアンを救った。


 動き出すだけなら、恐らく咄嗟に動く事は出来た。


 だが、シロウは動かなかった。


 結果として、シロウはラータを足止めしたとも言える。


「バカか、お前。そんなの結果論だろうが。後からなら何とでも言えるわ、この臆病者め。そんな卑怯な人間に育てた覚えはないぞ、私は」


「結果論?違うね」


 シロウは左手に持つハクアの剣の柄を握る。



「賭けだよ」



 ハクアの剣が鞘から離れ、その真っ白な刀身が陽光に触れる。


「集え、――ハクアの剣!」


 昇る朝日の様な眩い光と共に放たれた高速の一閃はラータの首を狙い放たれるが、彼の出した雷の槍に防がれる。


 渇いた金属音がして刃が触れた瞬間に2人の周囲を激しい放電現象が包み、ラータはゼルの姿にグニャリと変化してわざとらしく悲しそうな顔をする。


「やれやれ、親に手を上げる子に育てた覚えは無いんじゃがのう」


 剣と槍の刃を鍔迫り合いの様に押し合いながらシロウも声を上げる。


「今日で終わりだ……ラータ!」


 呆れ顔で今度は青年の姿に変化するラータ。その姿が『遅れた賢者』ラータ本来の姿だ。


「はいはい、たった1年の努力でデカい口叩くなよな。私のそれは……300年だぞ?」


 鍔迫り合いをするラータの背後に魔法陣が現れたかと思うと雷の檻がシロウを覆う。


 歯を食いしばりながらも退かないシロウ。



◇◇◇


「……イズミ様、もういいですから行ってください」


 2つの戦いが始まった地上を眺める上空でイズミに抱かれながらシアンは言う。


 イズミは泣きそうな顔でシアンを見て首を横に振り、それを見てまたシアンも力なく笑う。


「あはっ、私が勝手に飛び出したのが悪いんですよ。早くしないと、流石にシロウくんだけじゃ無理ですって」


 上位魔族にはその高い魔力を由来とする『超速再生』が備わっている者が多く、シアンもまた例外では無い。


 だが、傷は治らない。


「イズミ様、行ってください。私、楽しみにしてるんですから」


 涙に滲む金色の瞳は、困惑したようにシアンを見つめる。


「楽しみって……、何を?」


 シアンは力を絞り、震える人差し指でイズミの鼻をツンと指す。


「イズミ様とシロウくんの恋物語ですよ」


「……ばか」


 震える声で、イズミはシアンをぎゅっと抱き締める。


「死なない?」


「死にませーん」


 それが事実か本心かは分からないが、安心させるように血の気のない顔でニコリと笑う。


 グニャリと空間が歪み翼竜が現れる。


 そして、黒い鞘に納められた刀。――黒羽(くろば)黒刀(くろがたな)


「これ。多分、元々魔王様の……クロバ様の剣だと思うので」


 そして、ナシュアの愛刀だった。


 イズミは刀を受け取りコクリと頷く。


 バサリと翼を広げて竜から下りると、シアンを指さす。


「死んだら絶交だからね」


「えぇっ!?絶交なんてそんな……友達……みたいな……」


 口ごもるシアンを見て急に不安になるイズミ。


「えっ、ごめん。私は……そう思ってたから」


 シアンは一瞬目を丸くした後でにっこりと満面の笑顔。


「はいっ!失礼ながら私もです!」


 イズミはクスリと笑う。


「行ってくる。様はいらないわ」


「頑張って下さい!……イズミちゃん!」


 お互い少し照れ臭そうに笑い合うと、黒翼の魔王は戦場へと消えていった。



 翼竜の背からイズミの背中を眺めるシアンは満足げに微笑む。


「……えへへ、シロウくんの言った通りだ」


 身体に掛けられた衣服は真っ赤に血で染まる。

  

 視界がぼやけるのは涙のせいだけではない。


「死んだら絶交……は、やだなぁ。あはは」


 グニャリと空間が歪み、シアンと翼竜は戦場から姿を消した――。




 

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