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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と勇者

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開戦

◇◇◇


「来た」


 日の姿こそ見えないが、陽光が山の向こうから差し始めた頃イズミは呟いた。


 いつの間にか眠ってしまっていた俺の顔のすぐ近くイズミの顔があって少し驚く。


 ベッドから身体を起こすのとほぼ同時に部屋の扉がノックされる。


「イズミ様」


 珍しくやや緊張を帯びたシアンの声。


「正面玄関に3名。招かざる客を待たせてます」


 ゴクリと唾をのむ音が部屋中に響いてしまう気がした。


「ふふ、こっそり寝室を襲ってこないだけ分別があるね」


 イズミはチラリと俺を見てクスリと笑う。


 扉を開けるとヴィクリムとシアンがいて、既に臨戦態勢になっている。昨日の雰囲気とは全く違うビリビリとした空気が伝わってくる。

 


「前回の襲撃で警告はしました。今回は、殺して構いませんよね?」


 シアンの言葉にヴィクリムも薄笑いで頷く。


「賛成でございます。いい加減キリがありませんですし」


 少し困った顔でイズミは俺を見る。



 俺はヴィクリムとシアンを見る。


「他の二人はともかく、ラータの狙いはイズミの身体を乗っ取る事だ。当然話し合いや妥協案は無い」


 イズミは優しい。


 だから、きっとそんな事は言えないし、そんな事は言わせたくない。



 ――だから、俺が言う。



「だから、殺すしかない」


 可能性の話だが、俺の光属性とやらで闇の権能を封じることができるのなら……それが証明できるのなら、ジーオとカルラとは戦わなくても済むかもしれない。


 出来ればそうあって欲しい。彼らはイズミの友人だ、できる事なら戦いたくないし……殺したくない。


 グッと唇を噛み、出来るだけ険しい表情を作る努力をしてみる。



 蛇に戻ったハクがシュルリと俺にまとわりつき、ぼそりと呟く。


「……君は優しいね」


「意味わからん」


 ふーっと息を吐いてふと思う。魔族達はずっと、何百年もの間こうやって魔王を守り続けて来たんじゃないかって。


 望まずに人の命を食らう、不死の少女を人間から守る為に、戦って来たんじゃないのかって思った。


「……少しだけ交渉させてくれ。(こじ)れたら後は任せる」


 四天王はコクリと頷き、俺はハクの口から真っ白なハクアの剣の鞘を取り出し手に持つ。


 準備は完了。


「ウヒヒヒ、イズミ様。何かお言葉を」


 ヴィクリムがイズミに水を向け、イズミは皆を見渡してニコリと笑う。


「んー、……ごめん」


 その笑顔は泣きそうな表情に変わる。


「ありがと、みんな」



 ブルっと身が震える。いや、心が奮えるのが確かに分かった。


「行こう」




◇◇◇


 屋敷の前にはジーオ達3人がいた。


「この屋敷は人を待たせるのにお茶の一つも出さないのか?」


 薄笑いを浮かべてラータが軽口を叩く。


「おもてなしの催促すんなよ、浅ましい。遊びに来たんじゃないんだろ」


 俺がそう答えると満足気にケラケラと笑う。


 俺の後ろにはシアンとヴィクリム、その後ろの少し上にイズミ。イズミは黒い炎の羽で出来た4枚の翼で空に浮かんでいる。


 ――確かに黒羽(くろば)黒刀(くろがたな)の炎とよく似ている。 


 イズミは腕を組み、足を組んで空中に座り、周囲の警戒をしながら俺達全員を威圧するように見下ろす。


 相手方にカルラとラータがいる以上、魔法的な罠や策略があるとするとどうしても後手になってしまう。シアン達は魔法が使えるわけでは無いので、当然魔法への理解も薄い。


「シロウくんから少し話があるって。怪しい動きがあったら即開戦だから」


 明らかな敵意を三人に向けながら、シアンはそう告げる。


 右手に異様な拘束具を付けたジーオは腕を組み、ジッと俺を見る。


「先にこちらの要求を告げるよ。魔王イズミの討伐、封印、若しくは異空間幽閉だ」


「へぇ、異空間幽閉ってのは初耳だな。具体的にはどうやるんだ?」


 俺の表情を見ながらジーオは口を開く。


「君も知っている『知恵の樹』だ。魔王をそこに幽閉した後に、その入口を破壊する」


 全ての文字が集まると言われる異空間図書館、通称『知恵の樹』。おかしな場所だとは思っていたが、やはり俺達の居る世界とは別の世界らしい。


 で、そこにイズミを閉じ込めて、入口……あの魔法陣みたいなものか?を壊せば、イズミはこの世界にはいなくなり……、吸命(ドレイン)の権能も効果を無くすと言う算段の様だ。


「食べ物は?」


 あくまで想像でしかないけど、魔王が不死なのは吸命(ドレイン)の権能があっての事だと思う。ならば、魔王はその権能の届かない異空間では不死ではないはずだ。


 空腹や、寿命で、やがて朽ちる。


 ジーオはほんの少し眉間にしわを寄せながら絞り出すように言う。


「……出来る限りの用意はする」


 演技でないとすれば、苦渋の決断の様に思えた。


 殺したくはない。でも、死んでくれ。民の為に。


 チラリとラータを見ると、いつも通り不快な薄笑いを浮かべている。なので、この提案はジーオの独断と言うわけではなさそうだ。


 と、なるとおかしい。



 不死で無いなら、ラータがイズミの身体に拘る必要なんてない。


 ジーオはともかく、ラータ的にはこの提案は間違いなく囮のはずだ。


「因みに」


 俺はナイル少年の姿をしたラータを指さし、二人に問う。


「その少年の正体はご存じ?」


「知ってるわ。『遅れた賢者』ラータ、でしょ」


 ジッと警戒の眼差しで俺達を見ながらカルラが答える。


 

 正に一触即発の空気が場を包む。


 その提案にどんな罠があるのかは分からない。或いは、ただの時間稼ぎなのかも知れない。だとすると何の為?


「わかった」


 俺の言葉にその場の全員の意識が俺に集まる。


「知恵の樹に行く。俺と、イズミで」


「えぇっ!?」


 驚きの声を上げたのはハクとシアン。ハクの声は耳元近くなので、少しキーンとした。


 俺後ろを振り返り、すっと上空のイズミに手を伸ばしてニッと笑う。



「行こうぜ」


 イズミは微笑み、その4枚の羽で俺へと近づき手を伸ばす。


「うん」


 嬉しい事に、その返答には一切の躊躇や迷いは見られなかった。


 まるで黒翼の天使の様に、黒い炎の羽を揺らしながらイズミは俺に近づく。


 そして、その手が俺の手に触れた瞬間――。


 4枚の翼はフッと消える。


「わっ」


 俺の手を取りながら、スタッと軽やかに着地するイズミ。


「あ、そう言えば――」


 わざとらしく思い出した振りをしながらジーオ達を見る。


「300年間、俺以外の誰も試しようが無かったみたいだけど……、光の属性の持ち主が触れていれば、闇の権能は発動しないみたいだぜ」


 言い換えれば、俺とイズミがずっと手を繋ぎ、俺が1秒でもイズミより長生きをするならば、イズミは誰の命も吸わない。


 ラータ以外の2人の表情が変わる。


 それが事実なら、異空間(そんなとこ)に閉じ込める理由も無い。世界はともかく、この2人は出来る事ならイズミを救いたいはずだ。


 ラータはどうでる?


 彼の言葉に、一挙手一投足に、全神経を巡らせる。


 ラータの顔は、やはり自信に満ちた薄笑みが張り付いていた。


 勝ちを確信した様に。



 ゾワリ、と異質な気配を感じる。


 ほんの一瞬前までは感じなかった、剥き出しの野獣の牙の様なその存在感の発生源は、ラータでは無かった。


 俺が視線を動かすより速く、シアンがジーオに向かっていた。


「その手……!」


 敵意をむき出しにしたその瞳で、目にもとまらぬ速度でジーオに飛びつくと、鋭い爪に変化したその左手でジーオの右手を裂く。


 拘束具の下には、端正な彼の容貌には相応しくない、継ぎはぎで毛に覆われた獣の腕があった。


 シアンはギリッと奥歯を噛み締める。


「ナギオウの匂いっ……!」


 返す反対の手でジーオを攻撃する。


「シ――」


 シアンを制止しようと、イズミは手を伸ばす。


 俺の手はイズミの手を握っていた。


 握っていなければ、間に合っただろうか?


 ジーオの右手は、真横に振りぬかれ、ただその一撃でシアンの身体は両断された。



「はい、開戦」


 ラータは呟く。


「シアァァァアン!」


 イズミの悲鳴はまるで開戦の合図の様に、館の前に響き渡った。


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