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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と勇者

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明けない夜

◇◇◇


 話す事は無限にあった。


 先攻――イズミ・キリガミヤさん。


「ねぇ、このポーション、シロウが作ってたんでしょ?何で秘密にしてたの?まぁ私は全部最初から知ってたけどさ。ふふふ」


 ベッドに座り、ポーションの瓶を見せながら得意げに笑うイズミ。



「いや、絶対気が付いてなかっただろ」


「気づいてたもん」


 口を尖らせて反論してくるが、確実に嘘だろう。


「じゃあ何で今まで言わなかったんだよ」


「そっ……、それは……。そう!泳がせてたの!シロウを!」


 普段なら『何言ってんだ、こいつ?』だが、一年振りの会話とあってはそんな事位余裕で許せてしまう気がする。



「何言ってんだ、こいつ。泳いでるのはお前の目だっつーの」


 ――どうやら気のせいだったようだ。



「なっ……!?」


 イズミさんは瓶を大事そうに両手で持ちながら絶句する。


 イズミのターン終了、後攻――俺。シロウ・ホムラ。


 話したい事は沢山ある。


 そして、話さなきゃいけない事もある。


 だが、今はただ一年振りの会話を楽しみたいし、楽しませたい。


 どれから話そうかと迷っていると、またイズミが口を開く。


「あっ、そうだ。見て!……この子達」



 俺のターン、終了。


 イズミの呼び声でベッド横の机に置かれていた小箱から小さいネズミの様な魔物が2匹現れる。


「もしかして、こいつらが手紙に書かれてたやつか?」


 イズミはニコニコと微笑みながら子ネズミを指に乗せ軽く頬に触れさせる。


「ふふ、そう。シーとズーって言うの。……本当は七つ子だったんだけど」


 少し悲しそうな顔をしたイズミを元気づける様にか子ネズミたちはチュウチュウと交互に鳴いた。シアンなら何と言っているのかわかるのだろう。


 イズミに促されて手を出すと、一匹がぴょんと俺の手に乗る。


 小さいが、温かい。


「その子はシーね。……何でシーって名前かわかる?」


 頬を赤らめながら俺の顔をチラリとみてイズミは言う。


「あぁ、シロウのシーだろ?」


「ええっ!?何でわ――」



 言いかけて慌てて手で口を塞ごうとしたので、手に乗った子ネズミを食べそうになり、慌てて子ネズミも退避する。


 しかし、半ば以上冗談で言ったにも関わらず当たるとは……。俺もびっくりである。


 イズミはキッと俺を睨んでまた口を尖らせる。


「……シアンが言ったの?」


「いや、適当に言っただけ。てことはズーってのは……」


 イ『ズ』ミのズーか、と思った所でイズミにかき消される。



「もうっ!何だって良いでしょ!……好きなんだから、シロウの事が」


「ぐぅ、……随分直球だな」


 流石の俺も少し照れる。


 イズミは元々ほとんど無い俺との距離を少し詰めると、俺の肩に寄り掛かる。


「うん。300年前の話を聞いて思ったの。……勇者と魔王は、思いも告げずに、手も握らずに離れ離れになったから。だから、私は絶対に伝えようって決めたんだ」


 少し顔を上げてイズミは俺の顔を見る。


「シロウが好きだって」


 金色の瞳は真っ直ぐに俺を見ている。


「おっ……俺だって!」


 その先を言うのに少し口ごもる。


 そして、その機先を制してまたイズミが口を開く。


「好き」


「あっ、待て!ちょっと黙れよ。俺の番だろ!」


「ふふ、好き」


「おい、こら!」


「好ーき」


 クスクスと笑いながら、頬を赤らめてイズミはその二文字を繰り返す。


 ――その様子をドアの隙間から3人が覗いていたことを知るのは後の話。


 そして、急に黙ってニコニコと微笑む。


「……何で急に黙るんだよ」


 言った後で自分で黙れと言ったことを思い出した。


 で、『俺の番』と言った事も。


 イズミは俺の言葉を、ニコニコと、ウズウズと、ソワソワと待っている。


 その姿を見て、と言う訳では無いのだけれど、俺はイズミの事が好きなんだなと改めて思った。



 あの日、村が襲われなかったなら、俺とイズミはどう暮らしていただろう?


 もし、イズミが魔王の生まれ変わりで無ければ、平和に幸せに暮らしていただろう。


「なぁ、イズミさんや」


 イズミは俺の肩に頭を乗せたままクスリと笑う。


「なぁに?シロウくん」


 もし、今みたいな状況で無ければ、臆病な俺は伝えられただろうか?



「お前にあったはずの……、どの未来よりも絶対に幸せにしてやるからな」


 急に俺の肩に顔を押し付けると、目を拭うようにゴシゴシと顔を擦り付けてくる。


「そんなの、もう……今が一番に決まってるでしょ。ばかぁ」


 声は途中から涙声になって、震えていた。



◇◇◇


 気が付いたら窓の外はすっかり暗くなっていた。


 ぐぅ、とイズミのお腹が鳴り、恥ずかしそうに口を隠すイズミさん。これでも魔王だ。


「ごめん。……シロウはお腹空かない?」


 人の命を喰らって生きる魔王様もお腹が空くのかと思うと、不謹慎ながら少し笑ってしまった。


「そう言えば、減ったかも。話すのが楽しすぎて忘れてた」


「ふふ、私も」


「いや、お腹様は覚えてたみたいっすよ?」


「うるさい」


 少し反動を付けて頭をゴンとぶつけてくる。


「ご飯、食べよっか。ヴィクリムの作るご飯、すっごいおいしいんだよ!シロウにも食べてもらいたいってずっと思ってたの」


「へぇ、そりゃ楽しみ……」


 と、視線を入り口に向けたところで初めて扉が少し開いていたことに気が付く。


 そこに3人がいた事にも。


 ハクと、シアンと、見た事の無い男性。彼が恐らくヴィクリム。



「あ、ども。初めまして。シロウっす」


 ペコリと頭を下げるとヴィクリムは甲高い笑い声をあげながら扉を開け、深々と頭を下げて挨拶をしてくれる。


「ウヒヒヒッ、こちらこそご挨拶が遅れまして!『獄殺卿』ヴィクリムと申します。シロウ様に置かれましてはお噂はイズミ様より伺っておりますよ。ウヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒっ!」


 奇妙な笑い声に引きつった笑いを浮かべる俺の耳に手を当ててイズミが囁く。


「……不気味だけど、そう悪い人じゃないよ。料理はおいしいいし、ああ見えて清潔だし」


「イズミ様!聞こえてますよ、ウヒヒ。どう見えておられるんですかねぇ?」


 シアンはヴィクリムの袖を引きながら廊下の向こうへと引っ張っていく。


「ほらほらぁ、イズミ様お腹空いたってさ。急げ急げ~」


 去り際にシアンはチラリと俺を見て、微笑み軽く手を振る。



「えーっと、じゃあ僕も……」


 キョロキョロと辺りを見渡して2人についていこうとするハクをイズミが呼び止める。


「ハク」


 そしてちょいちょいと手招きをする。


「えっ!?僕!?……だって、今折角二人で……」


 ごにょごにょと口ごもりながらも、少しずつ近づいてくるハクを見てイズミもクスリと笑う。


「いーいーかーら」


 もじもじと気恥しそうにちょこんとベッドに座るハク。


 その頬をイズミは両手で軽く摘まむ。


「来てくれてありがとね。ずっと寂しかったよ」


「……僕だって」


 言葉が継げずにハクは子供の様にイズミの胸に顔をうずめて泣いた。


「ふふふ、家族みたいだね」


 ハクの頭を撫でながらイズミは笑う。


「そいつが一番年上だけどな」


「もうっ」



◇◇◇


 暫くして、ヴィクリム達が食事の用意をしてくれたので皆で食堂で食べた。


 メニューは鹿肉のシチューだった。


 5人で食事を囲み、何だか世間話やイズミの昔話で盛り上がる。


 

 俺と、ハクと、シアンとヴィクリム。俺達4人の共通点は、皆イズミが大好きと言う事だ。そういう意味では新生魔王四天王を名乗ってもいいのでは?と思ったけど、別に口には出さない。


 ここにナシュアもいればよかったなぁ、と思い涙腺が少し弛んでしまう。


 食事の後は大浴場に入る。



 でも、俺達は忘れていない。


 俺達が瞬時にイズミの下に来られた様に、敵もまた同様の事が出来るのだ。


 ラータの狙いが不死なる魔王の身体である以上、和解などあり得ない。


 居場所が露見するリスクを負っても、近くで守る事を決めた。



 ……だから、と言う訳じゃあないけれど夜はイズミと同じ部屋で眠る。


 俺と、イズミと、ハクの3人で寝ても問題ない位天蓋付きのベッドは大きい。


 ベッドに入り、手を繋いでまた話をする。

 

 窓の外に見える月は小さく下の方だけ残る。


 

 暫く話して、ハクの寝息が聞こえた頃……ナシュアの事を話した。


 イズミは薄々気が付いていた様だった。


「……シロウと一緒に来てくれないはずがないから」


 イズミを魔王の生まれ変わりと知りながら、育て、鍛え、常に味方で居続けた。


『少しだけ、泣くね』と言うと、枕で顔を隠しながら声を殺して泣いた。


 ハクの寝息にイズミの泣き声が混じる。


 暫くして少し落ち着くと、イズミはナシュアとの思い出話を語った。


 元々運動がさほど得意でなかったイズミは、毎日泣きながら稽古を付けて貰ったそうだ。


 俺もナシュアとの旅の話をする。


 魔導馬車の出発を見逃した話をすると、いつか皆で魔導馬車に乗ろうねとイズミは笑う。


 お腹の傷はやはり塞がらず、まだ痛むと言う。シアンが言うようにずっと俺の薬を塗ってくれていたようだ。


「シロウのお陰で私は頑張れたんだよ」


 薬の空き缶はまだお守り代わりに持っているらしい。


 夜が更けても、俺達はずっと話をしていた。


 泣いて、笑って、怒って、笑う。


 あぁ、もう夜なんて明けなければいい。


 そう思いながら、俺はイズミの手を握る。


 ――だが、明けない夜はない。


 この夜は、魔王イズミにとって最後の夜となる。


 


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