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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と勇者

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水面は、何事も無かったかのように

◇◇◇


「さてさて、神獣君。君は私に何を教えてくれるのかな?」


 薄笑いを浮かべながらハクに近づく『遅れた賢者』ラータ。


 雷の矢で両手を地面に固定されたハクは、痛みに歪んだ顔でラータを睨む。


「……ナシュアにやられたんじゃなかったのかい?」


 ラータは笑いを堪え切れずにぷっと噴き出した後でケラケラと笑う。


「あはははっ、やられるって?私が?あの脳筋単細胞家族ごっこ野郎に?ぶはっ、冗談も大概にしてくれよ」



 手頃な枝を拾い、矢で両手を固定したハクの周りにガリガリと何かを描きながら上機嫌に笑う。


「ま、でもあいつの戦闘力自体は私も高く評価してたからね。保険の意味で深爪しておいてよかったよ。あの狭い密室の中だけで勝敗が決まるのなら確かにあいつの勝ちと言っても過言ではないんじゃないかな?あの狭い地下だけの勝利だけどね」


「……言ってる意味が分からないんだけど、それと深爪とどんな関係があるんだよ」


 得体の知れない恐怖感が痛みよりも先に立つ。


 引きつった顔でハクはラータに問い、ラータも呆れた様に答える。


「鈍いなぁ。そうすれば再生できるだろ?流石の私も不死と言う訳じゃないからねぇ」


「えっ……」


 ハクは言葉を失う。


 彼の言葉をそのまま受け取るのなら、ラータはあの墓の下で死にはしたが、予め深爪したその微かな肉片から再生した、と言う事だろうか?


「そんなの……ほとんど不死みたいなものじゃないか」


「そうだね。ほとんど不死みたいなものだね。でも不死じゃあないし、不老でもない。この私が、だよ」


 棒を止めて、ハクに微笑む。


「だから魔王の身体が欲しいんだ。君も協力してくれるよね、ハク君」


 ハッと、ハクが顔を上げるとラータが描いている物は何等かの魔法陣な事に気が付く。


 そのまま勢いよく身体を起こそうとするが、両手に雷の矢が食い込んでいて血が流れる。


「ぐぐぐぐぅっっっうっ!」


 雷の矢が食い込み、肉を裂き、白い腕を血が流れるが、ハクは構わず歯を食いしばり涙を浮かべながらも両手を引く。


 ブッ、と鈍い音がして血が噴き出し、ハクは腕の拘束を外しバッと後ろに飛び退く。



 ダラダラと血が流れる両手は上がらず、元々白い顔は血の気を失い更に白くなる。


 ハァハァと肩で息をしながら、ラータを睨みつける。



 ラータは楽しそうに両手を広げて手を叩く。


「そんなに怯えなくてもいいだろ。ただの転生魔法陣だ。光栄に思いなよ、一時的にせよこの私の器にしてあげようと思ってさ。ふふふふ、どんな顔するかなぁイズミは」


 ラータはケロリと表情を変え、ハクの声真似をする。


「やぁ、イズミ久し振り。元気だったかい?……こんな感じ?」


「黙れ……」


 ポロポロと涙を流しながらラータを睨むハクにお構いなく、ペラペラと転生後の想像を語る。


「どのタイミングでばらすのが面白いかなぁ?ジーオとかと戦って、ピンチに助けに入ったときとかはどうだろう?『助けにきたよ!』からの~、ってね」


「黙れよっ!お前なんていなければ――」


 ラータは大きく溜息を吐き、頭を掻く。


「……酷いこと言うなぁ」


 パチッと電気が弾けた光が見え、ハクの左足を穿つ。


「……ぎっ」


 痛みに歯を食いしばりながらガクッと膝を付く。


「自分が言われたらどう思うかを考えて物を言うといいよ」


 倒れる身体を手で支えようとするが深手を負った手は上がらずに顔から地面に落ちる。



 それでも尚、ハクは涙で濡れた瞳でラータを睨む。


「お前が居なければシロウとイズミは今だって幸せに暮らしていたはずなんだ!」


 倒れたハクに近づき、また木の棒でガリガリと魔法陣を描く。


「やれやれ、全く。そんな仮定には何の意味も無いと知りなよ。そもそも私が居なかったら世界自体が全く別物だと思うけど?私がいつから生きていて、どれだけ裏から支えてきたと思ってるんだよ」


「うるさい!そんな事どうだっていい!僕に何をしたって無駄だよ、シロウが……きっとどうにかしてくれるんだ!」


 身をよじり、這いながら魔法陣から身体を逃れようとするハクの下から木の根が伸びて腕を貫く。


「無駄かどうかはやってみないとわからないよ。それにしても、随分シロウを高く評価したものだね。育ての親として鼻が高いよ」


 何かを思いついた様にポンと手を叩くと、しゃがんでハクの肩をポンポンと叩く。


「あ、もしかしてそう言う事?ははは、じゃあ私に任せてくれよ。上手い事そう言う風に持って行ってあげるからさ。大丈夫大丈夫、女に転生した事だって何度か……いてっ」


 ハクは首を捩り、噛み千切らんばかりにラータの手を噛む。


 次の瞬間、バリっと電流がハクを襲う。


「ぎゃあっ……!」


「しつけのなってない子だなぁ。かば焼きにするよ?」


 蓄積したダメージで人化が保てなくなり、白蛇の姿に戻るハクを摘まみ上げながらラータは言う。


 ハクに抵抗する力は残っていない。


 だが、白蛇の神獣の目はまだ力を失ってはおらず、薄笑みを浮かべる少年をジッと見る。



「ハクアの剣は――」


 ハクは、力を振り絞り声を絞り出す。


「伝わる限りイズミとハクア……2人の勇者しかその所持者に選ばれていない」


「あー、はいはい、知ってるよ。神獣だろうと君ぐらいが知っている事は全部知っていると思ってくれていい。でも、感傷は抜いて正確に言わなきゃダメだ。イズミとハクア。魔王と勇者だろ?」


「何でその中に君はいない?」


 ラータの反応を待たずに、言葉を続ける。


「ゼルでも、ラータでも、ナイルでも何でも良い。何百年も生きてるんだろ?偉いんだろ?賢いんだろ?凄いんだろ?全てを知りたいなら何で剣を抜きに来なかったんだよ。あはは、わかってるよ。怖いんだろ?選ばれないのが。死ぬのが。ハッキリ言ってやるよ、君はただ!死ぬのが怖い臆病者――」


「畜生、喋んな」


 つまんだ白蛇の身体をデコピンで弾く。


 ボッと空気の弾ける音がして、真っ白な白蛇の身体は抉れ、赤い血を流しながら弧を描くとそのまま湖に落ちていった。


 水面は赤く染まり、波紋はすぐに収まった。



「……ったく、畜生の浅知恵ってやつだね。気持ち悪いったらないな」


 赤い血が付いた指を払い、ラータはため息を吐く。


 水面は、何事も無かったかのように鏡の様に湖畔を映し続けた。










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