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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と勇者

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ハクアの森

◇◇◇


 ――その日、人の命を喰らう不死の魔王は、光の勇者によって遂に封印された。



 ビリリと紙を割く音がして、書物が破かれる。


「あっほくさぁ」


 苦虫を噛み潰したような顔で少年が破った書物は次の瞬間ボっと青い炎を灯して燃え尽きる。


 立ち上がり、背伸びをする。


「ま、でもそれもまたよしか。力を持つ者が無駄なセンチメンタルにより愚行へと至る心の動きが知れた。流石に2回目はいいかな。さてさて、シロウ……イズミ」


 本の灰は風に舞い散り、ラータは楽しそうにそれを眺めて口角を上げる。


「君たちは僕に何を教えてくれる?」



◇◇◇


 海を越え、深い(もや)の掛かった森の手前で竜を降りる。


 竜は嬉しそうにシアンに顔を摺り寄せると、海の方へと消えていった。


「またね~」


 シアンは小さい身体で大きく背伸びをして手を振り、竜の鳴き声が返ってくる。



「竜使い?」


 俺が問うときょとんとした顔で首を傾げる。


「いえ?」


 特に説明をしてくれそうになかったので、もう一度質問をしてみる。


「百獣姫、だっけ?どういう種族?」


「種族?」


 シアンはまた首を傾げ、ハクが助け舟を出す。


「上位の魔族はさ、あんまり種って言う概念は無いみたいだよ」


「みたいですね~」


 シアンは他人事の様にニコニコと笑う。


 じゃあ親は?……と、聞こうと思ったが何となく傷つけても嫌なのでその話をするのはやめようと思う。


「とにかく、全ての生き物の言葉がわかるんですよ。詳しい仕組みは私に聞かないでくださいっ」


「全ての……。そりゃすごいな」


「ふふふ、でしょう!だから今鳴いている虫の声だってわかりますよ」


 指を一本ピッと立てながら得意げに百獣姫は言う。



 俺達の目の前には、白い靄に覆われた広大な森が広がっている。


 気にしていなかったが、確かに耳を澄ますと『リーリー』とか『ギッギッ』とか虫の()が聞こえる。


「へぇ、なんて言ってるの?」


 いつもより若干楽しそうにハクが問うと、シアンはクルッとその場で回りながら答える。


「おかえり~、って」


「ふえっ?」


 ハクが気の抜けた声を出したのがおかしかったのか、クスクス笑いながらシアンは翻訳を続ける。


「後は『ハクちゃん大きくなったねぇ』とか、『遂にハクもお婿さんを連れて来たか』とかだね。あはは、人気者~」


「えっ、ちょっと待ってよ。絶対嘘だよ。そもそも僕神獣だよ?そんな何年かで大きくなるわけないじゃん」


「そんなの知らないよ。この子達が言ってるんだもん。ねっ?」


 シアンの問いかけに森の入口は虫の音のオーケストラ会場へと変貌する。


「うおぉ……、すげぇ」


 シアンは得意げに腕を組み、ハクは無言で口を開けて森を眺める。


 言葉なんてわからなくても、きっと正解だってわかった。



 気が付くと俺も馬鹿みたいに口を開けていて、イズミにもこの大合唱を聞かせてやりたいな、なんて思っていた。


 すると、シアンがニヤニヤとした俺の顔を覗き込んでくる。


「何考えてるか当てましょうか?」


「や、結構」


 シアンの表情から、絶対に当てられてしまう自信があったので丁重にお断りをしておく。



「あははっ、照れちゃって」


「照れる理由がねぇ」



 俺達は森に足を踏み入れる。


 ハクは嬉しさをこらえきれないと言った様子で口がむずむずとして、気を弛めると髪の毛もふわふわと動き出しそうだ。足取りは踊るように軽やか。



 森に一歩踏み入れると靄はまるで塊の様に分厚くなり、どちらが前かもわからなくなる。


 靄のせいか、それにより柔らかく広がる日差しのせいか、何となく神聖で厳かな印象を覚える。


「こっちこっち」


 ハクの先導が無ければずっと森の中でさまよう事になるのだろう。或いは、シアンなら虫の声などで道がわかるのかもしれないけど。


 気が付くとシアンの顔色が悪く、俺の服の裾を掴んでいる。


「どうかしたか?」


 やはり具合悪そうにフラフラと裾を掴み歩く。


「……わかりませ~ん」


 先頭を歩いていたハクはクルリと振り向き心配そうにシアンを見る。


「もしかしてなんだけど、森の空気にあてられてない?」


「森の空気?毒か何か入ってるの?別に毒なんか効かないけど……」


「ううん。ここハクアの森は僕ら神獣の住処だからさ。昔から『森の空気は魔を祓う』って伝わってるんだ。僕も仕組みは分からないけれど、……君って魔族だろ?」


 言い辛そうに、申し訳なさそうにハクは心配そうにシアンに説明をする。


 なるほど、要するにさっき俺が感じた『何となく神聖な感じ』とやらが、魔族であるシアンに作用していると言う事か。


 昔イズミもここに来ているはずだよな?と思ったが、我慢強いあいつの事だからもしかすると辛くても顔に出さなかっただけと言う可能性もある。


 一旦立ち止まる。


「……戻るか?」


 俺が言うとシアンは力なく首を横に振る。


「それはダメですよ。シロウくんはイズミ様の為に強くならなきゃいけないんですから。私が邪魔になる訳にはいきません」



 強がって笑ってはいるものの、明らかにシアンは辛そうに見える。


 このまま進んでいいのか?


 けど、進まなければいけない。


 少し考えて思いつく。


「……森の空気にあてられてるんだよな?」


 ハクは困った顔でコクリと頷く。


「断定はできないけど、多分」


 俺はコクリと頷き、魔力を集中する。


 次の瞬間、シアンを風魔法の膜が覆う。


「わっ」


 真空二層式魔導釜の応用……と言うか、こっちの方が本来的な使い方な気がするな。三層の膜を作ってシアンの周りを覆っているだけだけど。


「息苦しさは?」


 シアンはニッコリと笑い片足立ちで両手を広げてみる。


「平気です。私達は魔力があれば大体何でも。だいぶ楽ですよ、ありがとう!」


 膜の影響で声が少し聞き取り辛いのが難点だが、それでも少しは助けになるだろうか。


 心配そうな視線を向ける俺を見てシアンは少しムッとした様子で口を膨らませる。


「でも、本当はイズミ様以外に優しくしちゃダメですよ?」


「何だそりゃ。それこそお前放っておいた方がイズミに怒られるんじゃないのか?」


 ハクもクスリと笑う。


「うん、かもね。あはは」


「と、言う訳で。先を急ぎましょっか」


 俺達はハクの先導でハクアの森を進む。



◇◇◇


 ヒュン。


 剣が風を切り裂く音がする。


 鍛錬場では隻腕のジーオが滝の様な汗を流しながら左手で剣を振るう。



 どれだけ剣を振っても、今までの自分の影を振り払えない。


 利き腕と愛刀を無くし、シアンやヴィクリムに勝てるビジョンが浮かばない。更に言えば、ナシュアもイズミもいる……と彼はまだ思っている。


 ナシュアとラータ……ナイルの戦闘は、彼の独断でありその事実も結果もジーオは未だ知らない。



「精が出ますね」


 ニコニコと鍛錬場に現れたのは、ナシュアにより葬られたはずのナイルだ。


 

 はぁはぁと息を切らし、汗を拭うジーオ。


「そうだね。……情けない話だけど、少し自信を失っているよ。両腕があったとしても分が悪いのに……」


 不安を振り払うには本来鍛錬しか無い。


 だが、その鍛錬によりかつての自身の影がより不安を掻き立てる。



「かつて――」


 ナイルはゆっくりと、言葉を選びながら口を開く。



「魔王を封印した光の勇者は、その命と引き換えに悪しき魔王を封じました」


 ヒュン、ヒュン、と剣を振る音が鍛錬場に響き、剣風は壁まで届く。


 微笑みを浮かべながら『最後の弟子』ナイルは言葉を続ける。



「賢者とは、古来勇者に知恵を貸す者。クアトリア王国第一王子、ジーオ・アズマギア・クアトリア様。もし、貴方が何を賭しても民を守る覚悟がおありならば……」


 言いかけて口を噤むと、思い直した様に間を開けた後、ため息を吐き首を横に振る。


「……いえ、止しましょう。聞かなかった事にして下さい」


 ヒュンと剣の音が止まる。



 ジーオはジッとナイルを見据える。



「あるのか?力を得る手立てが」



 自身の為では無く、ただ民の為だけを思いジーオの瞳は固く強い意志を宿す――。


 

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