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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と勇者

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閑話 かつて、魔王様は (中)

◇◇◇


「イズミ様、お手が止まっておりますよ?ウヒヒヒヒ。あ、おかわりもありますのでどうぞ遠慮無く」


 イズミは目を丸くしたままヴィクリムを見る。


「え、うん。貰う。シチューおいしい」


 こくこくと頷きながら両手でシチューのお皿をヴィクリムに手渡す。


「ほんの少しでもお元気が戻ったなら幸いでございますね」


 ニヤニヤと不気味な笑いを浮かべながら満足げにシチューをよそう。


「さぁ、どうぞ召し上がれ。ウヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ」


 お皿にはまた温かい鹿肉のシチューがよそわれるが、イズミはジッとヴィクリムを見つめたまま何も言わない。


「どうされました?猫舌でしたっけ?不死なのに?」



 イズミは不満げに眉を寄せて口を尖らせる。


「違う。シチューも食べる。それより続きは?……恋物語ってどういう事なの!?」


 ティーポットを頭上に掲げて口に紅茶を流し込み、ヴィクリムは頷く。


「ま、言葉通りでございますよ。勇者が、魔王様に恋をしたんですな。イズミ様もお美しいですが、魔王様のお美しさときたらこの世の物とは思えないものでしたので」


「え、女の人なの?」


「えぇ。あれ、ご存知ありませんでした?そりゃ失礼。ウヒヒヒ。この世界の誰よりも凛々しく、美しく、可愛らしく、お強く、……寂しがりでした。あ、シチュー冷めないうちにどうぞ」


「食べるから。続き!」


 イズミの催促を受けて、しみじみと懐かしむようにヴィクリムは微笑む。



「魔王様もお強かったですが、あの男も強かった。ワタクシは勿論ナギオウでさえも手も足も出ませんでしたからねぇ。ウヒヒヒヒ」


「……ナギオウはヴィクリムより強かったんだ?」


「いえいえ、ワタクシなんてそんな大したものでもありませんよ。もうシアンの方が強いんじゃあないです?」


 と言って、ニヤニヤと笑う。


 そして、ジッと次の言葉を催促するイズミの瞳を見て目じりを下げるとまたヴィクリムは語りだす。



 誰よりも強大な力を持ち、殺しても死ぬ事が無い不死の魔王と、共に生きられる道を探した一人の男の恋物語。



◇◇◇


 その男が初めて魔王城を訪れた時、彼はまだ少年ぽさを残した青年だった。人間の年齢で言えば20歳を少し超えたくらいだろうか。


 鍛え上げられた、見るからに『戦士!』と言うような風貌と体躯では無く、鍛えて引き締まってはいるが、なで肩で背もさほど高くなく、常に自信の無さそうな愛想笑いを浮かべていた。



 その第一印象は、一言で表すなら『草』――。



 毒草でも、薬草でも、雑草ですら無い。ただ、視界の隅に見える名があるかも分からぬ草。



『魔王を倒しに来ました。他の魔物達には危害は加えませんので、ご安心を』



 魔王城のふもとには、魔王様を慕う魔物達が集まって暮らしていて、さながら城下町の様相を呈していた。


 そんな魔物の群れの中を、その男は剣も抜かずに悠々と城門まで歩いてきた。


「正義の押し売りなら間に合っとるが?」


 門の前で腕を組み、高圧的に男を見下ろす『爆心鬼』ナギオウ。


 並の人間であれば姿を見ただけで気を失い、殺意を向けられるだけでショック死するような桁外れの魔力を持つナギオウ。彼を見ても男はやはり自信無さげな愛想笑いを浮かべていた。


「……あのー、押し売りとかじゃなくてですね。死にたく無ければ、そこをどいてって言うか」


 愛想笑いとは不釣り合いなその言葉を聞いて、思わずナギオウは失笑する。


「……ふっ、ふははは。そんな舐められた口を利かれたのは何十年振りかのう。こんな所まで傷一つ無くやって来たと言う事は、魔物使い(テイマー)か何かか?そんなものがこの儂に――」


 と、ナギオウがそう言うや否や風も起こさない程の穏やかな動きで男は剣を抜くと、ナギオウの腕はストンと血も流さずに落ちた。


「な……」


 呆気にとられるナギオウを他所にすたすたと近づくと、まるで落とし物を拾うかの様にその巨大な手を拾い元の場所に近づける。


 ポウっと仄かに光ったかと思うと、腕は元通りくっつく。


 上位魔族には超速再生があるので、百歩譲って腕がくっつくのは理解できる。問題はその前。何も感じず腕を斬られ、何事も無く歩み寄られた事だ。


 全魔族の頂きにほど近い『爆心鬼』ナギオウが。


 男はにへらっと力なく笑い、再度ナギオウに警告する。



「勘違いしないで欲しいんですけど、別に殺したくないわけじゃないんで……」


 手に持った剣は新雪の様に真っ白で、穢れ無く見える。


 それと同じように、男からは一切の殺意も戦意も感じない。


 まるで、草か何かの様に存在感すら感じない。


 だが、鉄などよりも遥かに硬いナギオウの腕を事も無く斬りおとした。



 そのちぐはぐさと異質さにようやくナギオウも気が付いた。


 そして、その手に握られた純白の剣。


 ズン、と城下町に地鳴りが響く。


「面白い……、魔王様を殺すつもりならまず儂を殺してからにしてもらおうか」


 明らかな殺意を男に向けて、ナギオウは全力を込めた右拳を放つ。


 その衝撃だけで城下の魔物も沢山消し飛ぶ。


 だが、ナギオウの右手はまたつるりと落ちる。


 爆風も、砂塵も、ナギオウの右手も、まるで最初からそうだったかの様に何事もなく切り裂かれる。


 歴戦の四天王は、遅ればせながらその一太刀で彼我の力の差を知る。


 どうあがいても、自分ではこの男を倒すことは出来ない、と。


 スゥ、と大きく息を吸うと遥か遠くまで空気が揺れる大声を出す。


「ヴィクリィーム!シアン!賊じゃあっ!」


 ビリビリと空気が揺れて、岩も崩れる。


「……あ、もう通っていいですか?」


 大音声を物ともせず横を通り抜けようとした男の目の前にひらりと一枚の羽が舞い落ちる。


 その黒い羽は炎で出来ていて、地面に落ちる前に燃え尽きて消える。


「珍しいわね、貴方が応援呼ぶなんて」



 ナギオウは驚き顔を上げる。


「……なっ、魔王様!?アンタは呼んでませんて!」


 男もきょとんとして空を見上げる。


 黒い6枚の翼で空に浮かぶその女性はクスクスと口元を隠して笑う。


「ふふふ、だって珍しいじゃない。だからどんな相手か見に来たの」


 6枚の羽を優雅に動かして、長い髪を揺らせながら笑う魔王様に何秒か見とれた後で、おずおずと手を挙げて男は口を開く。


「あのー……、貴方が魔王様で?」


 魔王様は豊かな胸の下で腕を組んで、自信満々に男を見下ろす。


「えぇ。もうずっとそう呼ばれてるわ。何百年……、もしかしたらそれ以上」


 品定めをするように、じっと眼下の男を見据える。


「貴方が私を殺してくれるの?」



 その言葉に慌てたナギオウは声を上げる。


「馬鹿言いなさんな!」


 グニャリと空間が歪み、シアンとヴィクリムが現れる。2人とも手にトランプの様なカードを持っているので、一緒に遊んでいた所だろうか?


「ナギオー、どうしたの?……って魔王様!きゃー、今日も素敵!」


 シアンは魔王様に手を振り、ヴィクリムは男をチラリと見てニヤニヤ笑う。


「ウヒヒヒ、応援要請とは珍しい。隕石でも降るんですかねぇ?」


 自身を慕う3人の魔物を見て魔王様はクスリと笑う。


「ナギオウ、……冗談よ」


「いやいや、冗談じゃありませんて」


 トン、と空気を蹴り男は魔王と距離を詰める。


「死んでもらうんで」


 真っ白ながら剣を振るう。


 魔王様は微かに微笑みながらも男に手を伸ばす。


 ――魔王の権能『吸命(ドレイン)』。


 触れれば即座にその全ての生命を吸い尽くす。


 

 男は警戒して、剣の軌道を僅かに変える。


 その僅かな遅れを付いて、6枚の翼の炎が男を襲う。


 岩をも溶かす超高温の黒い炎。


 そして、それを切り裂く白い刃。



 魔王と勇者の戦いの火蓋は切って落とされた。



 シアンら側近達3人も交え、城を、城下町を、火の海に変えるほどの激闘――。



 その男は鬼神の如き強さだった。


 多対一にも関わらず魔王達は劣勢となり、シアンが倒れ、ヴィクリムも倒れ、ナギオウも敗れた。


 脆弱なはずの人間の身体で、魔王とも対等以上に渡り合う。



 そして、ついにその時が来た。


 ドスッと軽い手応えと共に、勇者のハクアの剣は魔王の心臓を貫いた。


 黒い羽が散る。


 魔王の整った口から赤い血がつっと伝う。


 魔王の血も、赤かった。


 苦痛に顔を歪めながらも、魔王は悲しそうに男に微笑む。


「……死ねないの」


 刺されながら男の身体に両手を回そうとして、止める。


「誰かの命を吸って治るの。どんなに痛くても、辛くても。……だからごめんね?」



 6枚の翼が再び大きく開くと、炎の風を起こして男を吹き飛ばす。


 魔王は黒い6枚の翼で空に浮かび、その心臓に突き刺さったままの真っ白な剣を赤い血で染めながら地上に倒れる男を見下ろして微笑む。


「殺されてあげられないの」





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