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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と勇者

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武の極致

◇◇◇


 ――大賢者ゼルの墓の前。


 心配そうな顔で墓石を眺めるシロウとハク。


 シアンは懐から装飾の施された懐中時計を取り出して時刻を確認する。


「あと7分ですね」


 2人と異なりシアンは特別心配そうな様子はない。まるで鼻歌を歌い出しそうなくらい、いつも通りの微笑みを浮かべている。


 そして、微笑みを浮かべたままシロウを安心させるように声をかける。


「大丈夫ですよ、シロウくん。あのおじさん、多分歴史を遡ってもほぼいない位に強いですから。それに……あの人が持っていた刀」


 ナシュアの愛刀である黒羽の黒刀。


「あの黒いやつか?」


「えぇ。……魔王様と似た匂いがします。だから、大丈夫です」


 元気づける様にニッコリとシアンは笑う。


「そうか……、そうだよな」


 四天王のお墨付きを得てシロウは少し安心した様子。


 ハクは依然として心配そうな顔で墓を見つめる。




◇◇◇


 ――残り時間7分。


 野生生物よりも遥かに正確な体内時計を持つナシュアは、当然それを理解している。


 黒羽の黒刀を抜いて構える。


 目の前の少年は激しく迸る雷の槍を浮かせて、薄笑みを浮かべながらナシュアを見る。


 彼は言った。ナイル、ゼル、ラータ……好きに呼べ、と。


 ナイルは分かる。ゼルも理解する。だが、ラータ。今を遡る事400年近く前、勇者が魔王を封印した少し後に産まれたと言う歴史上でも稀な大天才の名前だ。


 彼が10年早く生まれていれば、魔王は完全に滅せられたとも言われていて、『遅れた賢者』と言う不名誉にも聞こえる異名が付けられている。


「……最後に一つだけ聞く」


「どうぞ~」


 もうゼルの物真似を止めた彼は場違いな明るい声で答え、ナシュアは対照的に重く低い声で呟く。


「イズミを救う方法は?」


「あるよ」


 と、ラータが答えたその瞬間――。



 まるで瞬間移動の様にナシュアはラータの眼前に現れる。


「喰え、黒羽(くろば)黒刀(くろがたな)


 その言葉に呼応するように、黒い刀身はゴウと黒い炎に包まれる。


 そして、雷の槍よりも速くラータの身体を逆袈裟切りに両断する。



 刀身から溢れる火の粉が黒い羽の様にヒラヒラと宙を舞う。それはイズミの炎の翼によく似ていた。



「おいおい、酷いな君は。救う方法が『ある』って言ってるんだから、そこは『……何!?』って固まるところだろ?何急に切り付けてきてるんだよ、全く」


 両断され、黒い炎に焼かれながらも即座に上半身から再生して何事も無いように軽口を叩くラータ。



 だが、そんなものはナシュアも織り込み済みだったようで更に追撃をする。


 ――救う方法が『ある』ならば、頼らずとも探せばいい。


 迎え撃つ雷の槍を両断し、後ろに飛ぶラータの喉に黒刀を突き立てる。


「ぐああぁぁあぁ!」


 ガクリ、とわざとらしく息絶えるラータを黒い炎が消し炭にする。


 視界の隅で初撃で両断した下半身の方が再生しているのを見つけ、横薙ぎに刀を振る。


 パリっと雷を纏い、ナシュアの斬撃を回避する。


 瞬時に衣服が現れる。魔力で精製しているようだった。


 

 ナシュアから離れた石段まで飛ぶと、感心した様にパチパチと拍手をする。


「ハハハハ、すごいすごい。まともに運動したのなんて何百年ぶりだぞ。気分はどうだ?与えられた武器で、教わった剣術で、育ての親を切り刻む気持ちは?教えてくれよ、知りたいんだ」



「ジジイはもう死んだ」


 短くそう答えてナシュアは一度剣を振る。


 黒い羽の様に火の粉が散る。


「お前も死ね」


 

 火の粉を降らしながら超速でナシュアがラータに斬りかかる。


 ラータは手に持った雷の槍で黒い刃を受け止める。


 火の粉が舞い、雷撃が迸る。


 2人が武器を合わせるだけで、その衝撃は部屋を破壊する。



 斬り付け、燃やし、躱して、貫く。


 斬った瞬間から超速再生していく目の前の少年を、無言でナシュアは切り刻む。


 何度目かの攻撃、一方的に刻まれ続けていたラータの槍がナシュアの攻撃を受け止める。


 そして、そのまま何合か打ち合った後、ナシュアの斬撃は宙を斬る。


 ラータはのけぞりながら攻撃を回避した。



「ふわぁああ、やっと目が覚めて来たって感じだ」


 ニヤリと笑うと、のけぞったままのラータの周囲に無数の魔法陣が現れる。


 その数は15。


雷霆葬送槍(サンドランジア)


 15本の槍が一斉にナシュアを襲い、ワンテンポ遅れて落雷の音が鳴り響く。


 

 ――残り時間は、3分。



 ゴウ、と火勢の強まる音がして土煙は一斉に晴れる。


 全身に黒い炎を纏い、ナシュアは立っている。


 一撃一撃が山をも消し去る様なその攻撃を受けて尚そこに立っている。



 その姿を悲しそうにラータは見つめる。



「……本当に残念だ。お前が、ほんの児戯程の魔法さえ使えれば」


 終始無言で戦っていたナシュアは口を開く。



「感謝する。俺を拾い、育て、強くしてくれた事を。お陰で……、弟妹に道を残せる」


 かつて実の子のように育てたナシュアが絞り出した言葉を聞き、ブハッと噴きだしてラータは笑う。


「家族ごっこも大概にしろよ。お前には家族なんていないんだ。お前は1人で死ぬんだよ」


 フッと自嘲気味に軽く笑う。


「そうだな。でも、俺が死ぬのはここじゃない。……ここは、お前の墓だ」



 ――残りは1分。


 ナシュアの炎は更に燃える。


 黒羽の黒刀――、それは魔王の権能、『吸命(ドレイン)』と同様の異能を持つ呪いの刀。


 所持者の命を喰らい、燃料にして、無尽蔵に燃える炎を生む。


「塵も遺さず焼き尽くす」


 ラータの口角が微かに上がり、頬をツッと汗が流れる――。



「素晴らしい。……武の極致と名付けた私の目に狂いは無かった」



◇◇◇


 カチッ。


 時計の針は30分が過ぎた事を示す。


「時間ですね、撤収しましょう」


 にっこりと微笑みシアンは言う。


 これは情緒とか冷淡とかそう言う話ではない。30分で戻ると言ったナシュアが戻ってこないと言うことは明らかに何かがあったと言う事だ。


 実力差や目的を考えると助けに行くのも、留まるのも下策であり愚策と言うほか無い。


 それはシロウも分かっている。


 ――大丈夫、別に死んだわけでは無い。5分も経てばひょっこり出てくるに違いない。そもそも暗くて時計が見えないと言う単純なミスの可能性もある。


 少なからず動揺はあるが、そう自分に言い聞かせる。



「あぁ、行こう」



 シロウの言葉とほぼ同時に墓石がズシンと音を立てて横倒しになる。


「ふ~、やれやれ。間に合ったぜ」


 土埃に汚れた傷だらけの顔でナシュアが墓石の下から顔を覗かせる。


 階段を上り、黒羽の黒刀の鞘を地面に突き立てる。


「ナシュア!」


 ハクとシロウは喜びの声を上げた後で、照れ隠しの様に苦言を呈す。


「……つーか間に合ってねーよ。遅刻だよ、遅刻」


「そうだよ。1分過ぎたよね。心配してたよ、シロウが」


「はぁ?俺じゃねーだろ。ハクが心配してたぞ。敵にやられたんじゃないか、って」



 2人のやり取りを見て嬉しそうにクククッと笑うナシュア。


「アホ。俺様が負けるか」


 シアンもほらね、と得意げな顔でシロウ達を見る。



 そして、珍しく真面目な顔でナシュアはシロウを見る。


「シロウ。敵はラータだ」


 その表情より『シロウ』と呼ばれた事に驚いた。


「……えっ?」


 出会ってから今まで、ずっと『小僧』と呼ばれていた。だから、すぐに違和感に気が付いた。



「時間が無い。聞き返すな」


 ナシュアは強い口調で言い、シロウは頷く。


「ナイルはゼルで、ゼルはラータだ。転生術。やつの最終目標はイズミだ」


 シロウはコクリと頷く。


 衝撃的な内容だが、冗談であるはずがない。


「目的は単純。不老不死の身体を得て永遠に全てを知りたい。そんなふざけた話だ」


 シロウは何も言わずにコクリと頷く。


 鞘を持つ手を入れ替える。


 後ろからハクがすすり泣く声がした。


「ナシュア……、君」


「あぁ、気にすんな。間に合ってよかった」


 何事も無いように、いつも通りの笑顔でナシュアは笑う。



 ナシュアの左足はすでに無く、左腕もサラサラと風化していっている。


 鞘を足替わりにして地面に刺し、右手で支えているのだ。



 シロウは何も言わなかった。


 ナシュアが『俺様が負けるか』と言ったのだから、勝ったに決まっている。


 魔王の権能と同じ『吸命(ドレイン)で使用者の命を喰らい、爆発的な力を発揮する黒羽の黒刀。吸う命が無くなった後は、身体は塵となって朽ちるのみだ。


 シロウはそんな事はまだ知らない。


 ナシュアの言う『間に合った』とは、約束の30分では無く『身体が塵になる前に』間に合った、と言う事だ。


「もっと色々聞き出せればよかったんだが、つい熱くなってな。面目ねぇ」


「……十分だ。後は任せてくれ」


 弟分の答えを聞くと、満足げにナシュアは頷く。


「さてさて、おっさんちょっと立ってるの疲れちゃったから座るとするわ。お前らはもう行け」


 墓石の上に無遠慮に座ると、シッシッと手を払い笑う。


 そして、思い出した様に黒羽の黒刀を取りシロウに手渡す。


「持っていけ。願わくば、使わない事を祈る」


 両手で刀を受け取ったシロウの頭をワシワシと撫でる。



「お前なら出来る。頑張れ」


 うつ向いたまま、目からは涙が溢れ、声は出なかった。



 一陣の風が吹いて、シロウが顔を上げると、そこにはもう誰もいなかった――。




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