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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と勇者

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墓の主

◇◇◇


 墓を暴く。


 真昼間から。


 シアンは特別興味無さそうに『どうせ人いないから平気だよ』と欠伸をしながら他人事の様に言い放ち、ナシュアもそれに同意した。


 確かに『墓は夜に暴くもの』と言う固定概念に囚われすぎていたのかも知れないと思ったが、特に反省はしない。きっと今後の人生で墓を暴く事など2度と無いと思うから。


「スコップは?」


「いらん」


 ナシュアは何の躊躇も無く墓石に手を掛けると、おもむろに石を持ち上げる。


 

 苔むしたその墓石のあったそこには、階段があった。



「……まじかよ」


 墓石と同じ様に苔むしたその階段は深くどこかに続いているようで、冷たい風がヒュウと流れてきた。


 いつ、誰が、何故こんな物を?



「……ナシュアは埋葬した時いなかったのか?」


 流石のナシュアも引きつった笑みを浮かべる。


「いたよ。間違い無く埋めていたはずだ」



 階段はまるで魔物の口の様に、冷たい吐息を漏らしながら獲物が来るのを待っている様に見える。



「お前等は待ってろ」

  

 珍しくやや強ばった表情でナシュアが言う。


「私も行く?」


 半ば興味本位でシアンが手を挙げるが、ナシュアは首を横に振る。


「いや、お前は小僧等といろ。雑魚過ぎてすぐ死ぬぞ、そいつ」


「言い方」


 シアンはコクリと頷き笑う。


「おっけー。じゃあそっちはおじさんに任せるよ」


 再びのおじさん呼称に眉を顰め、口を尖らせるナシュア。


「おめーの方が年上だろうがクソガキ」


「灯りいる?」


「いらん。普通に見える」



 ゴキゴキと首を鳴らし、ナシュアは階段に踏み入る。


「俺が入ったら墓石を戻しとけ。どっちにせよ30分で一旦戻る。もし戻らなかったら……、どっかとんでけよ」


 傍らにナシュアが置いた石を軽く押してみるが微動だにしない。


「……こんな石持てねぇよ」


「そのガキにやらせろ。そんじゃいってくるわ」


 振り返らずに手を振り、ナシュアは階段を下りていく。


 そして、シアンは軽々と墓石を動かした――。



◇◇◇

 

 苔むした石階段を全くの無音でナシュアは下りる。


 僅かな灯りも無いが、言葉通り彼にははっきりと見える。


 しばらくそのまま階段を下りると、墓の地下とは思えない広さの空洞に行き着く。


 ――地下墓所と言う物もある。ここもその(たぐい)か?


 一瞬そんな考えがよぎったが、そもそも埋めたところを見ているのでそんなはずはない。



「……大きくなったのう」



 真っ暗な空洞に声が響く。


 その言葉を聞いて、ナシュアはギリッと歯を鳴らす。


「……何のつもりだ」


 光一つ届かない墓の奥底で、ナシュアは声の主を睨む。


「ホッホッホ、自分の墓に居ることがそんなにおかしいかのう」


「……自分の?ここはジジイの墓だろうが。それとも今すぐてめーの墓にしてやろうか?……ナイル!」


 声の主は『最後の弟子』ナイルのようだった。


 声真似をしてはいたものの、騙せるとは当人も思っておらず馬鹿にしたようにケラケラと笑う。



「あはは、当たりです。先日はどうも――」


 ヒュンと風を切る音がしたかと思うと、次の瞬間ドバっと液体が飛び散る。


 ナシュアの抜刀がナイルの首を一閃し、夥しい量の血と共に頭はゴトリと石畳に落ちた。


「甘いんだよ。てめーは敵だろ」


 血を払い、チン、と鞘に納める。


 一切の躊躇など無い。


 もしかすると、ゼルの墓所を汚されたと言う思いもあったのかも知れない。



「ナシュアよ」


 また声がした。


 その声は、ナイルの声だ。


「……てめぇ」


 声は地面からした。


「お主は本当に、儂の自慢の子供じゃよ」



 ――幻術?


 瞬時に左手の指先を軽く切ってみる。痛みもある。何より彼には幻術耐性もある。


 ナイルは首を拾うと元あった場所へと載せる。


「何を恐れる?お前ももうわかっているはずじゃろ?……儂が誰なのかを」


 姿も声もまるで違う。


 だが、その言葉は妙な説得力を持ちナシュアを惹きつけた。



「ジジイか」


 ナイルは嬉しそうに笑う。


「ホッホ。わかるか」


 少年の姿で、声で、老人の様な話し方をする。


 馬鹿にしている訳では無い。まるで何年もそう話してきたかのように、慣れ親しんだ話し方。



 幻術か、現実か、老人か、少年か。


 一度右手を握って開く。


 感覚に一切違和感は無い。


 斬って死なぬのは何だろうか?魔族並みの再生能力があれば説明できるか?


 

 ――斬ればわかる。



 いつものナシュアならきっとそう思っただろう。そして、思った時には相手は両断されていたはずだ。


 だが、そうはならなかった。


「元気かよ」


 呆れ顔でナシュアはナイルに声を掛ける。


 きっと、恐らくナイルの中のゼルに。



 その反応は予想外だったようで、暗闇の中でナイルは目を丸くする。


「あれ?随分簡単に信じるんですね」


 ナシュアはドカっと階段に座ると、刀の鞘を石畳に貫き刺して両手を(つか)に乗せる。



「転生……、生まれ変わり。いや、その形だと乗っ取りか」


 ナイルは薄笑いを浮かべて顎髭を触るような手振りをする。


「そんな荒唐無稽な話、儂以外にするなよ?頭がおかしくなったと思われるぞ」


 口調だけでなく、表情まで老成されて見える目の前の少年にナシュアの仮定は確信に変わる。



「荒唐無稽?そうは思わねぇな。そもそも魔王も勇者も転生してんだろうが。なら理屈上可能ではあるはずだろ。理論上可能って事は、……お前にならできるって事だよな?ジジイ」


「なるほど、随分買い被ってくれるのう。親代わりとして嬉しい限りじゃわい」


 地下広間の中央付近にて椅子に座るナイルは好々爺の様に目を細めて笑う。


「覚えとるか、ナシュアよ。儂とお前が出会ったあの路地を」


「……忘れたよ、んなもん」



 ――勿論本当は覚えている。


 27年前、王都クアトリアのスラムでゼルに拾わてれいなければ全く別の人生を歩んでいたはずだ。或いは今頃罪人として処罰されていたかもしれない。


 知恵を、戦闘技術を、教養を、名声を、生きる(すべ)を、凡そ今彼が持ち得るほとんどはゼルから貰ったものと彼は考えている。


「丈夫なお前がたった一度だけ、風邪をひいた日の事はどうだ?覚えとるか?」


 ナイルは我が子へと慈しみの眼差しを向けながら言葉を続ける。



「……だからそんなもん一々覚えてるわけねぇだろ、ジジイ」


 ――拾われてから1年、10歳の誕生日を少し過ぎた寒い日の話だ。


 高熱は2日で治まったが、その間ゼルはずっと寝ずにナシュアの看病をしていた。お粥を作り、果物を剥き、一時も離れずに看病をしていた事を彼は勿論ずっと覚えている。


 熱で身体は熱かったが、ゼルの手は温かかった。


「ほっほっほ、そうかそうか。ナシュアよ、お前は本当に優秀な子じゃった。儂の誇りじゃ」


「そりゃどうも」


 素っ気ない返事に何度か頷く。


「誰よりも強く、賢く、努力を惜しまず常に先へと進む。肉体、精神共に人間の最上級とすら儂は思っとる」


 我が子への最大級の賛辞を贈った後、一呼吸おいてガラッと声色が変わる。


 好々爺の様な優しい瞳は、瞬時に侮蔑を帯びた目に変わる。



「それで何故魔法だけが使えない?……何の為にお前を拾い、育てたと思っとるんだ。分かるか?お前に儂の気持ちが。最上級の金剛石を見つけ出して、磨いていたと思ったら……ただの泥団子だった気持ちが」


 ナシュアは言葉を発しない。


 刀の柄に置いた両手に軽く力が入り、じんわりと汗が滲む。


 その反応はゼルのお気に召すものではなかった様で、呆れ顔で大きくため息を吐く。


「伝わらんか。要は出来損ないってこっちゃ。300年以上生きておるが最大級にガッカリさせられたぞ、お前には」



 ナシュアは刀の柄に置いた手に額を載せ、大きく深く息を吐く。


 息と共に、何か別の物も吐き出すように。


 そして、立ちあがり愛用の黒羽の黒刀を抜く。


「……シロウに会わせなくてよかったぜ。何が目的か知らねぇが……そろそろやろうぜ、クソ野郎」


「目的?」


 ゼルが手をかざすとバリバリと激しい音と光と共に雷光が迸り、雷で出来た槍が現れる。そして、その槍の出現で地下空間はまるで真昼の様な明るさとなる。


 手に持たずに槍をヒュンと振り薄笑みを浮かべる。


「全てを知る事さ。私はただ知りたいんだ。この世界の全てを」


 口調も一人称も変わっていた。


「死も知った。生も知った。恋も、敗北も、絶望も、落胆も。……さぁ、お前は私に後何を教えてくれる?」


 刀を構え、ジッと少年を見据える。


「お前は……誰だ?」



 少年はナシュアを馬鹿にしたように薄笑いを浮かべたまま両掌を見せておどける。



「好きに呼べよ。『最後の弟子』ナイル、『大賢者』ゼル、……『遅れた賢者』ラータ」






 


 



 




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