誰の為の封印術
◇◇◇
「はい、到着で~す」
能天気なシアンの声と共に、俺達は遠くメルの町を望む丘の上に着く。
1人豪邸一棟分の運賃だと言う魔導列車の存在を根幹から揺るがせる位簡単に、瞬時に。
「これ、どこにでも行けるの?」
引きつった笑みを浮かべて今出て来た辺りを指さしながら俺が問うと、シアンはコクリと頷く。
「えぇ、まぁ。一度行った事あるところとか、会った事のある人のところにはすぐ行けますよ」
ナシュアも呆れてため息を吐く。
「……アルバにいるうちに来てくれてりゃなぁ」
往復で豪邸6棟分の運賃を払ったのだから、まぁ許容範囲内の愚痴だろう。
「今のは魔法?僕達の転移は同じ神獣同士しか出来ないから遥かに便利だね」
「魔法……。うーん、多分違うと思うよ。何だろう、気が付いた頃から勝手にできてるからよくわかんない」
白蛇の神獣ハクと黒蛇の神獣ノワを使っての場所移動は何度かしたことがある。今の人型だとどんな感じなのか興味はあるが、あまり想像はしたくない。
「ジジイも言ってたよ。魔法ってのは元々上位魔族の権能を模倣したものだ、ってな」
なるほど。シアン達魔物からすれば息をするようなものなのかもしれない。俺も息の仕方を一から人に教えられる自信は無い。
「便利なんだけどさ、転移するとあなた達のお仲間に居場所知られるようになっちゃったんだってば。だからイズミ様のところには自分で行かなきゃいけないんだよね~」
お仲間とはカルラか、ナイルだろうか?
全く違和感無く話している事に逆に違和感を覚える。彼女は魔物で、仮にも魔王四天王と言われる存在なのだから。
ただ、話をしている分にはハクと同じ位の歳で、同じ様にイズミを大事に思う少女にしか思えない。
ん?少女?
そこで1つ疑問が浮かぶ。
「はーい、シアン質問」
挙手をする俺を元気にピッと指さすシアン。
「はいっ、シロウくん。何ですか?」
「シアンは魔王四天王だよな?」
「ですね~。あと二人しか居ませんけど」
「当たり前の事聞くようだけどさ、じゃあ昔の魔王と勇者の戦いの時はもう生まれてるんだよな?」
シアンはきょとんとした顔で頷く。
「えぇ、勿論」
「……非常に聞きづらい事なんだけどさ、いくつなの?」
「正確にはわかりませんけど、大体400を少し超えたくらいだったと思いますよ」
想像の範囲内の答えで逆に安心する。何千歳とかで無くて何となく安心。
「だよな~。ハクはどのくらいだっけ?」
「僕?158歳。何か君に関係ある?」
「いや、無い。ただの興味。ナシュアはおいくつでしたっけ?」
「気持ち悪い奴だな。数えで37だ」
で、俺が16歳。400+158+37+16÷4=152。何と、今の4人パーティの平均年齢は152歳と言う事になる。
大体ハクが平均か。
どうでもいい事で1人納得していると、ナシュアが俺を気味悪がる。
「だから何なんだよ。結論を言え、結論を」
「え、あぁ。ハクもシアンも子供にしか見えないのにな、って話」
「あっそ。どうでもいいな」
丘を下り、大賢者の墓があると言うメイの町を目指す。
「さっきの話で気になったんだけど」
今度はハクがシアンに問う。
「はいはい、蛇ちゃん。なに?」
よく聞いていると俺にだけ何故か敬語のシアン。イズミ繋がりと言う事だろうか?
「四天王、残り2人って言ったよね?君と、ヴィクリムだと思うんだけど。……もう1人、ナギオウは?」
書物にも残る魔王四天王。『爆心鬼』ナギオウ、『獄殺卿』ヴィクリム、『百獣姫』シアン、『魔先鋒』ジギの4人。
ハクの問いにケロリとした表情でシアンは答える。
「うん、死んだよ?だからあと2人。計算できる?4-1-1で2人」
「死んだって……!?何で!?」
「イズミ様を助ける為に決まってるでしょ、蛇ちゃん」
何故か説明されなくても、街を焼き石を投げられるイズミの姿が頭に浮かんだ。
「……イズミが暴走した時か?」
「そうそう、正解です」
全く悪びれる様子も無くシアンは微笑む。
大賢者の墓があるメイの町を前に、俺の足は止まる。
「意味、わかんねぇんだけど」
シアンの笑顔は曇り、困った顔で俺を見る。
「説明しますよ?何なりと」
シアンが魔王の生まれ変わりとしてだろうと、イズミの事を大事に思ってくれているのは分かる。きっとそれは嘘じゃない。
気づけば、俺の右手はシアンの胸倉を掴んでいた。
見た目はまだ12・3歳程の少女だ。
俺の手は震えていた。
どの感情で分類したらよいのか、よくわからない。
「……あれが無ければ、イズミはこんな思いしなくて済んだんじゃないのかよ!」
シアンは手を払わずに困った顔のままじっと俺を見つめる。
「シロウ!」
ハクが俺を止めようとするが、シアンは手でハクを制止する。
「私はそうは思いませんよ。あなた達人間の矛先はいつか必ずイズミ様に向きます。想像して下さい、シロウくん。あのままイズミ様達が魔王を倒す旅とやらをして、仮に何かの幸運が重なって私達を全員殺す。そうしたら、イズミ様の封印は完全に解けるんですよ?吸命の権能は今の比じゃ無くなるんですよ?そうしたら流石にバカな人間達でも気が付きますよね?」
気が付けばシアンは俺の手を両手で持って泣いていた。
「……その時イズミ様は誰を頼ればいいんですか?」
何と言ったらいいのか、言葉が出てこなかった。
まるで人間の少女の様に、シアンは少しの間声を上げずに泣いた。
◇◇◇
「先行ってるぞ」
場の空気を嫌ってかナシュアは頭を掻きながら1人メイの町へと歩を進めた。
ハクが困った顔で俺の手をポンポンと叩くと、俺の右手は魔法から解けたかの様に力が抜けたのでシアンの胸倉を離す。
「イズミに言いつけるからね、僕」
「服伸びちゃったので買ってくださいね」
「……了解。どっちも了解」
我ながら頭に血が上り大人げない事をしたと反省する。
といっても、この中ではぶっちぎりの若造なのだが。
「飲みもの、いる?」
ハクがどこからともなく水筒を取り出し、シアンに渡す。
「ありがと」
水筒を一口飲み、シアンは少し首を捻る。
「そもそものそもそもなんですけど」
「なんだ?」
「魔王様の封印術についての見解に齟齬があるかと」
「齟齬?」
俺も、ハクもきっと同じ様に眉をひそめる。
シアンはもう一口水筒に口を付けると、それを俺に手渡す。
「魔王様への封印は、誰が誰の為に施したと思っています?」
質問が簡単すぎて意味が分からない。
「そりゃ勿論勇者が、人間達の為にだろ?」
シアンは呆れ顔で首を横に振る。
「いいえ。……かつての勇者が、魔王様の為にです」




