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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と勇者

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魔王の味方

◇◇◇


「フムフム」


 イズミの手を取り、手相を見るかのように触りながらつまんだりつねったりしながら様子を眺めているヴィクリムはいつも通りの薄笑みを浮かべている。


 対照的にイズミは部屋の隅で膝を抱えて(うずくま)る。


「やはり封印が徐々に解けかけている様に思えますねぇ。試しにもう一人触ってみて貰って良いですかね?」


 ヘラヘラとヴィクリムがそう言うが、イズミは何も言わない。


「……冗談ですよ、ウヒヒヒ」


 やはりイズミは無言のままだ。


「ですが、方法は1つありますよ」


 ピッと指を1本立ててヴィクリムが言うと、イズミは漸く顔を上げる。


 その目は赤く、泣いていたことが窺える。


「……本当?」


「えぇ、まぁ。簡単な話です。解けかけているなら、また施せばよいのでは?封印とやらを」



 イズミはきょとんとした顔でヴィクリムを見る。 


「……どうやって?」


「それはこれから考える話でございますなぁ、ウヒッ」


 明らかに落胆の顔をしたイズミに弁解をするように言葉を続ける。


「生憎ワタクシ達は術や魔法やらに(うと)うございましてね。その辺りの話は人間の方が遥かに詳しいかと存じ上げますが……、イズミ様どなたか詳しい方心当たりありませんかねぇ?」


 イズミは少しの間困った顔でヴィクリムを見つめると、また膝の間に顔をうずめた――。



◇◇◇


 燃えさかる炎の中では、一組の男女が見つめ合う。


 男の手には一振りの剣が握られていて、何度か手に力が入るがいつしかその手は剣を離して女を抱き締める。


 カランと剣の落ちる音がしたかと思うと、2人は炎の中に消える。



 ――そして、幕が下りる。


 幕が丁度舞台に下り切った瞬間、急に立ち上がり一人で劇場中に響き渡る様な拍手を響かせるナシュア。


「ブラーヴィ!ブルアァーーーーーーヴィ!」


 横に座るシロウとハクは耳を押さえながら顔をしかめる。


「……何語だよ、おっさん」


 だが、その言葉はナシュアには届かない。


『古代言語らしいよ。よく知らないけど見終わって感動したら言うんだってさ。前も言ってた』


 ハクの足がシロウに触れ、頭の中に声が響く。


『……あぁ、毎度なのね。了解』


『出来が悪いと言わないみたいだから、今日のはよかったって事じゃない?』


『そうなのか?正直よくわからん』



 声に出さないコソコソ話をしていると、ナシュアはキッと俺を睨み口パクをする。


 恐らく『は・く・しゅ』だ。


「そんな事言われてもお前の拍手がうるさすぎて手が離せねーんだよ」


 ビーっと閉演のブザーが鳴り、劇場の照明が点くとようやく轟音の拍手は止む。



 魔導列車は再び海を渡り、俺達は王都クアトリアに戻って来た。


 王都を経由して今度は大賢者ゼルの墓があると言うメイの街に向かうのだが、ナシュアの強い強い要望もあり、合間を縫って王立劇場に観劇に来たと言う訳だ。



「いや~、よかったな!」


 観劇の後は毎度おなじみの感想会となる。


 ナシュアは興奮冷めやらぬと言った様子で俺とハクに同意を求めるが、俺の表情を見てすぐに視線をハクに移す。


「な!?」


 ハクはナシュアの奢りで注文したフルーツパフェを食べながらニコニコと答える。


「うん、よかったよ。前に観たやつも悲恋だったけど、流行ってるの?」


 同じ悲恋ではあるが、前にイズミと観た物とは演目が異なる様だ。



「古典は総じて悲恋なんだよ。ハッピーエンドは何百年も語り継がれるもんじゃねぇからな」


「なるほどね」


 ハクは納得したように頷き、また一口パクリと食べる。


 それなら俺は、誰もがすぐに忘れる様な物語でありたいと思った。……勿論そんな事口に出しはしないが。



「大賢者の墓暴いてさ、特に何の異常も無かったらどうするんだ?例えば、その『導紋』だかが一致して墓にいるのが大賢者本人だったり」


 俺の言葉にナシュアはつまらなそうに溜息を吐く。


「どうするも何も次に移るだけだろうが。ジジイが何かを企んでいる以上可能性があるとこから順に潰すだけだ」


 言われてみればまぁもっともだ。動く前から言う台詞ではないと少し反省。



 バツの悪さを誤魔化すようにグラスを一度傾けて茶を喉に通す。


「そっすね。大賢者の墓、死の真偽、意図、ナイルの思惑、ジーオ達。……確認したい事盛り沢山だもんな」


 ナシュアは満足げに大きく頷く。


「そう言う事。何なら手分けしたい所なんだが、連絡手段もねぇしお前ら糞弱だし」


「……よく言うよ、1人で魔導馬車乗るの寂しがってたくせに」


「るっせぇ」


 次の瞬間、唐突にテーブルの横の空間が歪んだかと思うと百獣姫シアンが現れる。


 刹那の間も置かずにナシュアはその喉笛目掛けて抜刀を試みるが、その表情を見て刀の鯉口を切った所で手を止める。


 劇場に隣接している少しお高い喫茶店、店内には突然人が1人現れた訳だがそんな事本来起こり得るはずも無く、特に混乱は無いようだ。


 シアンはニコリと微笑むとナシュアの隣の席を指差す。


「空いてる?」


「あ、どうぞ」


 ナシュアが何かを言うより速く、俺はシアンに着席を促す。


「えへへ、どうもどうも。あっ、蛇ちゃんのそれおいしそう。すいませーん、私も同じのとミルクティーを一つ」


 ナシュアは腕を組んだまま憮然とした表情で目を瞑る。


「……何か用か?」


 シアンは腕を組み少し首を傾げる。



「まぁね。ていうかあんたは噛んでないのね、おじさん」


「おじ……」



「噛んで無いって?」


 俺の問いと同時にシアンの注文したミルクティーが届く。


「ミルクティーのお客様」


「あっ、はーい。私です」


 マドラーで飲み物を一度かき回し、一口飲むとシアンはジッと俺を見て小声で呟く。


「イズミ様襲撃」



「襲撃!?」


 思わず大きな声を出してしまい、隣に座るハクに足を蹴られる。


 少ししてハクが頼んだものと同じフルーツパフェを食べながら、小声でシアンは語りだす。


 暫く前の夜明け近く、遠くアシッディア高地にあったシアンの居城が8人の人間に襲撃され、イズミが傷を負ったそうだ。そして、シアンの空間転移から居場所が知られてしまった事から、シアンはかく乱の為に単身転移して来たと言う。


「そもそもイズミ様も私らと同じで傷なんて一瞬で治る……はずなんですけどね」


「傷って、どこに!?どの位!?」


 シアンは困った顔で、右手で自分の脇腹の辺りにそっと触れる。


 まるで、自分の腹が裂かれたように痛んだ気がして、顔が歪み奥歯を噛み締める音がした。



「……そもそもイズミの魔力を割って攻撃する時点でかなりハードル高いんだがな。ジーオか?」


 憮然とした顔のままナシュアが口を挟むが、シアンは首を横に振る。


「ううん、王子様はヴィクリムが止めてたから。何か知らない人」


「……その辺のやつにイズミの障壁が割れるとは思えんが」


 ナシュアはそう言うが、事実イズミが腹を刺されて傷が塞がらない事には変わりない。



 パリンと音が鳴ったかと思うと、俺の持つグラスが割れて中の飲み物がこぼれる。


 手が震えるのはきっと怒りなんだと思う。


 ジーオへでは無い。


 きっと、自分に対しての。


 焦ってもしょうがないのは分かる。



 でも、今世界のどこかでイズミが苦しんでいるんだ。


 痛くて、苦しくて、きっと寂しくて。



 だけど、俺はまだ近くには行けない。何もできない。



「で、何で私が来たかと言うと転移ついでに例の万能薬を貰って行こうと思って」


 聞き慣れぬ単語に眉を顰める。


「例の……万能薬?」


「あはははっ、なーにとぼけてるんですか。シロウくんがあげたって言う愛の塗り薬の事ですよっ」


 その単語にナシュアとハクがピクリと反応をするが、俺にとっては更に心当たりのない単語へと変わる。


「愛の……塗り薬?」


「……おい小僧!てめぇ何こっそりいかがわしい物渡してんだよ、正気か!?」


 ナシュアが血相を変えて俺に詰め寄る。


 だが、本当に心当たりは無い。


 シアンはナシュアを無視して、手で小さい丸を作り俺に説明をする。


「ほら、思い出してくださいよ。このくらいの大きさで、金属の入れ物に入ってる塗り薬。シロウくんから貰ったってイズミ様言ってましたよ?」


 と、言われてようやく思い至る。


 いつだかお守り替わりにとイズミにあげた傷薬の事か。


「あー、あげた」


「ほら、でしょう!」


 シアンはニヤニヤしながらミルクティーをかき回す。


「ふふふ、『愛の塗り薬』ですね!って言ったらイズミ様なんて言ったと思います?……真っ赤な顔で俯いて……『うん』って。あははは、も~可愛いっ!」


 ケラケラと笑うシアンをナシュアは苦虫を噛み潰した様な顔で、ハクは嬉しそうに微笑み眺めていた。









 


 

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