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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と勇者

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クソジジイと呼ばれた大賢者

◇◇◇


 偶然か、運命か――。


 魔王の復活を知り魔王四天王の一人『魔先鋒』ジギが竜人の軍勢を引き連れ辺境の村カカポ村を襲撃した時、世界最強の戦士ナシュアは最寄りであるアタラの街に居た。


 最寄りの街と言っても、辺境のカカポ迄は乗合馬車で1週間・早馬で2日はかかる。


 夜明け近く、微かな空震を感じてナシュアは目を覚ます。


 遂に来た、と傍らに置いた黒羽の黒刀を手に取り足早に宿の階段を下りる。


「どうしました!?」


 珍しく深刻な顔をしたナシュアに声を掛ける憲兵。


「わからん。だが、とんでもない魔力で空気が揺れた。恐らくカカポ村だ。先行するから物資積んで後から来い」


 若き憲兵はゴクリと一度唾を飲むとビシッと敬礼をする。


「ハッ!ただちに早馬を用意します!」


 カカポ村までは、ここアタラの街から早馬で2日。


 ナシュアは首を横に振る。


「いらん。馬は全部お前らが使え。いいか?万端で無くてもいい。巧遅(こうち)より拙速(せっそく)だ。敵は全部俺がやる。とにかく急げ。あっ、あとジジイにも伝えといてくれ。以上!」


 再度敬礼をして、返事をした後で憲兵はナシュアの言葉の意味を知った。


 次の瞬間、ナシュアの姿はそこには無かった。


 カカポ村までは早馬で2日かかる。


 単純な話、彼の全力疾走は早馬より速い――。



◇◇◇


 数時間後、滝の様に汗を流しながら息を切らせてナシュアは辿り着く。


 黒い炎と赤い炎が燻るかつて村があっただろう場所に。


 ――間に合わなかった。


 グッと唇を噛んだ後で、一度大きく深呼吸をするとピタリと汗は引き息は整う。


 焼け野原と化した村跡にはいくつもの焼けた死体や死骸が転がっていて、特有の匂いが鼻に付き脂で空気がべとつくのがわかった。


 そんな中、焼け野原の中に明らかに不自然に1軒だけ残る家屋が目に映る。


 見たところ竜の死骸も転がっている様子だ。村の状況が分からない。



 覚醒した魔王が村を滅ぼしたのか?


 焼け残る家屋に向かいながらナシュアは目の前の惨劇について思考を巡らせる。


 魔王が村を滅ぼすとしたら何の為に?だとすると、この竜の死骸は?



 玄関からで無く、2階の窓から家屋に浸入したナシュアが目にしたのは血塗れの少年を抱いて泣いている少女の姿だった。


 そして、その傍らには明らかに異質な強さを放つ竜の死骸が転がっていた。


 戦って負ける気はしないが、恐らく今まで戦ったどれよりも強いだろうその竜の死骸の横で座り込んで泣いている少女が妙に不気味なものに思えて、ナシュアは一瞬背筋に冷たいものを感じる。


 音も無く2階に侵入したナシュアに少女はまだ気が付いていない様子だった。


 何をどう考えてもただの子供では無いだろう。



「よう」


 何かあれば即座に首を刎ねられる様に全身に意識を張り巡らせながらも、それを表に出さない人懐っこい笑顔で少女に声を掛ける。


 その声を聞いて少女はハッと驚いた顔でナシュアを見上げると、パクパクと口を動かすが言葉にならない。


 少女の腕の中では同じ歳くらいの少年が力無く横たわっている。意識は無いが、微かに胸部の動きがあるので死んではいない様子だ。


「どうした?」


 ナシュアは少女の表情に一切の敵意を感じなかったが、それは少女も同様だったようで見上げた瞳からまたポロポロと涙を流す。


「……シロウをたすけてください」


 その言葉に彼はコクリと頷き手を伸ばす。


「おう、任せとけ」


 力強くそう言い、その言葉と同じかそれ以上に力強さを感じさせるその両腕でシロウと呼ばれた少年を少女から受け取る。


「……何があった?」


 シロウをその両手から離した事で肩の荷を下ろした様に少女は口を開く。



「私、魔王なんだって」


 それから少女は自身の分かる範囲で村に起こった事をナシュアに話した。


 村に沢山の魔物が襲って来た事。


 その中の一人が少女を『魔王様』と呼んだ事。


 シロウ少年が少女を守る為に立ちはだかった事。


 彼のピンチに力が暴走して、その魔物を殺した事。



 恐らくその魔物は転生した魔王を探し出して迎えに来たと言う事なのだろう。


 そして、彼女の言葉を信じるならその魔物は覚醒した魔王により殺されたのだろう。


 村は焼け野原になっていた。村を襲った魔物達がやったのだろうか?……ここ1軒のみを残して?


 少女はずっとここにいたのだろうから、恐らくは村の外がどうなっているのかは知らないのだろう。



「おじさんは勇者?」


 少女は涙で濡れる目を擦りナシュアに問う。


「おじさん?ここにはお兄さんしかいねぇが?」


 場を和ます為に軽くおどけて室内を見渡すナシュアを無視して少女は言葉を続ける。



「知ってる?魔王は勇者によって倒されるんだよ」


 ナシュアに抱えられた少年の手にそっと触れながら、少女は寂しそうに微笑む。



「……なら、シロウが勇者だったらいいなぁ」



 ナシュアは呆れ顔で少女の頭をバシッと叩く。


「いたっ」


「アホか。勇者はこの俺様だ」

 

 そのままワシワシと少女の頭を撫で回すと、その隣にドカッと腰を下ろす。


「おとぎ話だ。魔王だ勇者だなんてよ。……少し寝ろ」


 少女はコクリと頷くとナシュアが抱えたシロウにもたれかかるように目を閉じ、少し経つと寝息が聞こえた。


 ナシュアは肩を落とし大きくため息を吐き、ガリガリと空いた手で頭を掻く。



「……どうしたもんかねぇ」



◇◇◇



「おい、ジジイ。このガキどうするつもりだ?」



 ナシュアは腕を組み、ベッドに寝かせた2人の子供を見下ろす。


 カカポ村は滅び、生き残った2人の子供達。その1人の少女は魔王の生まれ変わりだと言う。


 腕を組みながらゼルは部屋を歩き回る。


「お嬢ちゃんの話からすると、倒した魔物は四天王の一人……『魔先鋒』ジギじゃろう」


「あー、四天王ね。どおりで何か違うと思ったわ。つー事は、封印が1段解けちまってるって事だな?」


 約400年前の魔王と勇者の戦いで、魔王に施された封印術。四天王と呼ばれる強力な4体の魔物に施された魔王の力と権能を抑制する為の術。


 ゼルは2人の寝顔を眺めて困った顔をする。



「……どうするも何も。本当に予言通りだとするのなら、力の使い方を教えねばなるまいな」


 魔物が村を襲ったのは事実とは言え、実際に村を消したのは……恐らく暴走したイズミの力だ。


 それをイズミはまだ知らない。


 ナシュアは溜め息を吐き、ガリガリと頭を掻く。


「……死んじまってた方が幸せだったのかねぇ」


「馬鹿ものっ!」



 ゼルは持っている杖でバシッとナシュアの頭を叩く。



「いてっ……!このジジィ!」



「バカたれ。二度と言うな。その子はお前に任せる。もしもの時は……」


 ゼルはそこで言葉を止めるが、ナシュアはコクリと力強く頷く。



「わかってるよ、クソジジィ。もしもの時は……、俺がこいつを守ってやるよ」


 ゼルはニッコリと笑い、子供の頃の様にナシュアの頭を撫で回す。


「ホッホッホッ、本当にお前は優しい良い子じゃのう。儂の誇りじゃ」


 照れ隠しの様に手を振り払うナシュア。


「ガキ扱いは止めろ、クソジジイ!」


 

 シロウとイズミ。復活した魔王を迎えに来た魔物の群れにより、2人の村は滅んだ。

 

 そして、その時最寄の村に滞留していたナシュアにより2人は救われて大賢者ゼルの庇護を受けることになる。


 偶然か、運命か。


 ――策謀か。





 







 




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