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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と薬売り

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待ってるから

◇◇◇


「一つ提案なんですけど。シロウくん、君も魔族にならない?」



 おとぎ話の様な、小さい魔物が作った小さい村の跡で、魔王四天王の一人百獣姫シアンはシロウにそう言った。


「それ、真面目な話?」


 話の真偽のレベルがわからずにシロウはやや間の抜けた返答をするが、シアンはニコニコとしたまま頷いた。


「うん、勿論。知りません?魔物や魔族は魔王様の『吸命(ドレイン)』の影響を受けないんですよ」


 シロウは眉をひそめてハクに問う。


「……吸命(ドレイン)って、近くの生き物の命を吸う……ってやつか?」


「僕に聞かないでよ……って言うか耳を貸すつもり?シロウ」



「蛇ちゃーん。シッ!だよ~」



 そう言ってシアンはニコニコしたまま口元に人差し指を当てハクを威圧する。


 本能的に一歩下がってしまうハクを庇うように半歩前に出るシロウに左手を伸ばすシアン。


「悪い話じゃないと思うんだけどなぁ。見た目も変わらず、寿命も延びて、魔力も身体能力も強化されて、イズミ様の近くにいられるんですよ?どう?」


「そ……」


 シロウはゴクリと唾を飲み込み、シアンの左手を一度見る。


「そんなに簡単に魔物になれるもんなのか?」



「うん。ざっと考えて一番簡単なのは吸血鬼(ヴァンパイア)の眷属になる事ですね~。カプっと一嚙みされればそれだけでおっけーです。あっ、勿論女の吸血鬼を用意しますね」


「……なるほど」


 腕を組んで納得した様子で頷くシロウの袖を引っ張るハク。


「シロウ!吸血鬼は昼間外に出られないんだぞ?太陽を浴びて爽やかに草むしりができないんだぞ!?いいの!?」


「つっても俺本当は夜型だしなぁ」


 呆れ顔で頭を掻くシロウを見てニコニコしているシアンとは対照的に泣きそうな顔で説得を続けるハク。


「そんなのどうだっていいの!……そうだ!ニンニクだって食べられなくなるんだよ?ほら、どう!?」


「俺ニンニクが好きだなんて言った事あったっけ?……一応聞いときたいんだけど、そちら側から見てデメリットって何かある?」


「……シロウ~」


 袖を引くハクを気にせずにシアンに質問をすると、彼女は親指を折りシロウに掌を向けて『4』を示す。



「蛇ちゃんの言ったのを含めて4点。①日の光を浴びられません。②銀のアクセサリーが付けられません。③ニンニクが食べられません。④人間に追われます。ってとこですかねぇ。勿論最大のメリットはイズミ様と一緒にいられる事です」


 無言で腕を組んだままのシロウ。


 シアンは最後の一押しとばかりに言葉を続ける。



「イズミ様もお待ちですよぉ」



「……そうだな」


 シロウは腕を組んだまま目を閉じて、納得したように一度頷く。


「前にイズミと芝居を見に行ったんだ。……正直俺はあんまり面白くなかったから内容はうろ覚えなんだけど、敵対する国同士の王子と王女の悲恋でさ。結局最後は……おっと、悪い。ネタバレになるから伏せるな」


「あ、気にせずどうぞ。私どっちでも楽しめますから」


 シアンはそう言うが、ネタバレ無しで物語に触れる機会は人間も魔物の等しく一度きりだ、との気遣いでシロウはネタバレを避けたまま話を進める。


「……まぁ、それでイズミに聞いたんだよ。『もしお前が王女の立場だったらどうする?』って」


「そしたら?」



「待ってる……かな、ってさ」


 シアンは勝ち誇ったような笑みを浮かべてまたシロウに手を伸ばす。


「でしょう?君が来ればイズミ様もきっと――」

「喜ばないだろ」



 シアンの言葉をシロウは打ち消す。



「あいつの『待ってる』ってのは、きっと違うんだよ」



 芝居の後、少し考えてから『待ってる……かな』と言ったイズミ。


 夜のトルイの森で、最後に『またね』と言ったイズミ。



 困った顔で、寂しそうな顔で、でも少し嬉しそうな顔で微笑む幼馴染の顔が思い浮かぶ。



自惚(うぬぼ)れで無く、俺が助けに来るのを待ってるんだ」



 はっきりと言い切るシロウに、シアンもハクも言葉を飲み込む。


 言い終わって数秒の無言の後、二人の反応を感じて急に弱気になって弁明を始める。


「……あ、いや。別にシアン達魔族から救い出すとかそう言うのじゃなくてさ。えーっとイズミを今の状況からって言うか。何て言えばいいかな。うーむ……」



 シアンは不思議そうな顔でシロウを見て首を傾げる。


「何か考えがあるんです?」


 シロウも腕を組んだまま首を傾げる。


「無い。まだ」


「……まだって。無理に決まってるでしょ?あなたが人間でいる限りイズミ様と一緒にいる未来は訪れないの」


「そんなのわかんないだろ。まだ1年しか経ってないんだ。これからもまだまだもっと勉強して、力を付けて、色んな方法を考えて、いつか必ずイズミを助け出す」



 シアンは大きく肩を落としがっくりとうなだれてため息交じりに嘆く。


「だ~か~らム~リ~。その前にしわしわのお爺さんになって死ぬんだってば。人間だもの」


「あ、じゃあ……その時は魔族化お願いしようかな、ははは」



 軽い様子でヘラヘラと笑うシロウが気に障ったのか、シアンはプイッとそっぽを向く。


「残念、そんなしわくちゃな鶏ガラみたいなのから血を吸う物好きな吸血鬼はいませーん」


 そのままクルリと(きびす)を返して村の奥へと歩いていく。



 シロウとハクが無言でその後ろ姿を見守ると、立ち止まり呟く。


「お墓」


 返事が来ないので少し振り返りジト目でシロウたちを見る。


「せっかくだから来れば?」



◇◇◇


 緑のトンネルを抜けて、シェリーの村跡を気を付けて歩くと開けた空間があり、そこには綺麗な石が一つ置かれていた。


「トンネルねぇ、丁度塞ごうと思ったんですよねぇ。間に合ってよかったですね」


 綺麗な石の側に一輪の花を置いて、シアンは手を合わせて目を閉じる。


「ここ、この村の子達のお墓です」


 そのまま暫くの間沈黙が流れ、トンネルを通る風の音と葉が揺れる音がした。


 人間がするのと同じ様に魔物にも死者を悼む気持ちがあり、死者に対する所作もまた同様な事を意外に思い、どちらが先なのか?と浮かんだけれど意味の無い詮索なのでシロウも目を閉じてこの小さな村の住人達の死を悼んだ。



「お土産、持ってきたんだ」


 シアンが顔を上げたのを確認してから持参した荷物を見せる。


 ハクと一緒に選んだ三種のチーズの盛り合わせ。


 それを見てシアンはニッコリと笑う。


「ありがと~。きっと喜びますよ。わぁっ、三種類もある。ちょっとごめんね~」


 チーズをそれぞれひとかけらずつ割って、お墓に供える。


 2匹だけ生き残りがいて、残りはその子達のお土産にするとシアンは言った。



 そして、村の跡を軽く一回りして入り口になっていた緑のトンネルに戻る。



「もうトンネル閉めますね。……もう人間が踏み荒らさないように」


「あぁ。イズミによろしくな」


 シロウの言葉に眉を顰めるシアン。


「……ぜーったいイズミ様怒りますよ。『シアンばっかりずるい』って」


「あはは、言いそう」


 シアンはヒラヒラと手を振り別れを告げる。



「それでは、お気を付けて」


 魔王四天王の一人と別れの挨拶をすると言う行為に若干の違和感を感じながらもシロウとハクはシアンに手を振る。


 シアンは思い出した様に口を開く。


「あっ、そうだ。一つ聞こうと思ったんですけど」


「……何か?」


「街を襲った事についての怒りとかは無いんですか?」


 シロウは何も言えずにシアンを見る。


 言葉になどとても出せないが、アルバの街の惨状を見て、被害の数も知りながら、それよりもイズミが喜んだ小さな村と小さな命を消された方が心を揺らされた自覚がある。


 無言のシロウを見て微かに笑うシアン。


「……やっぱり魔物になった方がいいと思うけどなぁ」


 ぐにゃりと空間が歪んだかと思うと、百獣姫シアンの姿は消えて微かな地鳴りと共に緑のトンネルは岩で塞がれた。


 永遠に人が立ち入らないように、と。




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