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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と薬売り

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遅れた賢者と属性補正

◇◇◇


 柔らかな陽の当たるお城のバルコニーに置かれた小さな揺りかごで、2匹の小さい魔物はスヤスヤと寝息を立てる。


 その光景を心配そうに見つめるイズミ。



「眠ってる時は放っておいてあげた方がいいですよ~」


 紅茶とお茶菓子を2人分持ち百獣姫シアンがやってくる。


「イズミ様だって眠ってるお顔ずっと見られてたらどう思います?」


「……嫌」


 イズミの答えにニッコリと頷き、お茶の準備をする。


「でしょう?今日のおやつは林檎紅茶とシフォンケーキでーす」


 ヴィクリムの給仕と違いカチャカチャと食器の音を立てながら、シアンは元気に食器を並べる。


「名前、決めたんですか?」



 チラリと視線を送られるとイズミは恥ずかしそうにコクリと頷く。


「へぇ~、じゃあ教えて下さいよ!私だって呼ぶんですから」


 準備が終わり、手をあわせた後シフォンケーキを食べる。


 イズミはチラリとシアンを窺い見る。


「……笑わないなら」


「あははっ、笑いませんてば。教えてくーださいっ」


 意外と可愛い物好きのイズミがどんなファンシーな名前を付けたのか、ワクワクしながら紅茶を飲む。


 イズミは赤い顔でコクリと頷くと、口を開く。


「……えっとね。……イズミと……シロウ」


 シアンは飲んでいた紅茶をブッと吹き出し紅茶はイズミにかかる。


「笑えない!」


 紅茶をかけられたイズミは迷惑そうな顔でシアンを見る。


「……ちょっと、汚い」


「あっ、それはごめんなさい!いや、でもその名前はダメですよ!重ねるのはわかりますけど!私が言うのもなんですけど!」


 イズミはむっとしながら顔を拭きシアンを睨む。


「笑わないって言ったのに」


「あれ?私笑ってるように見えます?再考を要望しますよ、本当。当人が聞いたらどう思いますか?」


 真面目な顔のシアンに困惑して首を傾げる。


「……急に言われても。じゃあ……イズと、シロとか?」


「取りあえずお二人の名前から離れましょうよ」


「もう……」





◇◇◇


「へぇ、お前デストリギス倒したの?やるじゃん」


「いや、マジで死ぬかと思ったっす。実際他の冒険者やハクがいなかったら死んでただろうし」


 翌朝、ナシュアと剣の稽古をしながら世間話をする。


 或いは、世間話をしながら剣の稽古をする。まぁ、どっちでもいいか。真面目にやっていないわけでは無いが、ナシュア曰く100%で稽古をしている奴が実戦で100%出せる訳ねぇと言う理屈らしい。


 ナシュアは剣ですらなく、左手に箸を持ち右手はポケットに突っ込んでいる。


「ガハハ。他の奴もきっとそう思ってるよ。あの小僧がいなきゃ死んでただろう、ってな」


「だといいんすけどねっ!」


 箸を吹き飛ばしてやろうと思い思いっきり振りかぶった所で、がら空きの腹に前蹴りとも言えない乱暴な蹴りを食らい、『ぐえっ』と潰れた蛙のような声を出しながら草むらに吹き飛ぶ。


「はい、死んだ~」


 ハクは持ち出した椅子に座って稽古を眺めていて、ぱちぱちと拍手をする。


「さすが。世界最強の紫等級」


「ははは、そう褒めるなよ。照れるじゃねぇか」


「……褒めてねぇだろ。皮肉だよ、皮肉」


 

 腹を押さえながら草むらから起き上がり、せめてもの抵抗を見せるとナシュアは感心した様に何度か頷く。


「お、ほんの少し撫でたんだがな。やるじゃん。さすが光属性」


 そう言って今度はナシュアがパチパチと拍手をする。


「光属性は関係ないだろ」



 俺の反論にナシュアはきょとんとした顔をする。


「いや、あるだろ?知らんの?『遅れた賢者』ラータの論文読んでねぇの?」


「いやいや、知らんっす。誰っすか?必須教養?」


 ナシュアは腕を組んで大きく、大きくため息を吐く。



(がく)が無ぇなぁ……」


 チラリとハクを見ると、ハクもクスクスと笑う。


「神獣の僕でもラータは知ってるけど」


「うるせぇな。俺のせいじゃねぇ。アレだ、爺ちゃんの意図だ」


「やれやれ、原因を外に求める奴は成長しねぇぞ?」



「いいからその『遅れた賢者』とやらの論文の内容は?」


 そもそも魔法の心得自体が全く無かったのに、『遅れた賢者』様の事なんて知るはずがない。爺ちゃんが大賢者だって事すら知らなかったのだから。


「まず『遅れた賢者』ラータってのはな、かつて魔王と勇者の戦いの頃産まれた天才魔道士だ」


 草むらから戻って一旦休憩。


「何に遅れたんだ?その人」


「ん?その魔王と勇者の戦いだよ。ラータが後10年早く産まれていれば、魔王を完全に葬る事が出来たとすら言われている程の天才だ」


 なる程、だから遅れた賢者か。全く本人悪くない不名誉な称号だな。


「僕らの世界にもその名は轟いているね」


 ハクは一人納得したように頷いた。


 また俺の無知をさらけ出す流れなので一旦話を戻そう。



「んで、そのラータの論文とやらの内容は?」


 ポーションを一瓶取り出してヒョイとナシュアに投げる。


「主属性毎の成長傾向の統計と考察。かいつまんで言うと光属性は魔力の伝達速度が他より速いから、一度使い方を覚えると他より成長速度が速い……のではないか?って推論」


 へぇ、と思ったらハクが少しむっとして口を尖らせる。


「それはつまりシロウの成長は、努力の成果でなく光属性によるものって言いたいのかい?」


「いやいや、そうは言ってねぇだろ。怒るなよ……て言うか、おまえ等そんなに仲良かったっけ?」


「うるさいな、怒ってなんかないよ。努力の成果は公平に認めてあげるべき、ってはなしさ」


 プイッと顔を背けるハクを見てニヤニヤと笑うナシュア。


「あ、そう。ははぁ、もしかしておまえ等そういう……」

「黙れ!ばーか」


 ナシュアは笑いながらポーションをゴクリと飲む。


「む。これ、お前が作ったのか?」


「おう、特製の後味すっきり爽快ポーションだ」


 ビッと親指を向けると、ナシュアは目を閉じてスンスンと匂いを嗅ぐ。


「イズミが飲んでたのと同じやつか」


 ハクが驚いた顔で俺を見る。


「あのお気に入りポーション?君が作ってたの?」


 何だか妙に気恥ずかしい。


「……悪いかよ」



 ハクはにっこりと笑って見た目通り子供のように椅子に座ったまま足をぶらぶらと動かした。


「悪いわけあるか。それ、イズミに教えたいような教えたくないようなだねぇ。あははっ」


「あいつ皆に勧めまくってたぞ。いつだか新聞の取材でも言ってたからなぁ」


「あ~、言ってたねぇ。皆に飲んで欲しいけど、私の分が無くなると困る……みたいな。あはは」


 

 俺の作ったポーションをイズミが好んで飲んでいたのは知っていた。


 俺が作っていると知らない事も知っていた。


 俺はポーションを一瓶取り出すと、グイっと一息に飲み干しナシュアに剣を渡す。


「ナシュア!もう一本だ!」


 気合を入れないと口元が弛んでしまいそうだから大声を出すと、ナシュアはニヤリと笑い木剣を振る。


「骨一本でいいか?」


「ちげぇ!」


「あはは、頑張れ~」



 いつか、イズミに直接伝えたらどんな顔をするだろうか?


 そう考えると、また楽しみが一つ出来た。

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