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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と薬売り

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タイムラグ

◇◇◇


「着いた~!」


 長い馬車の旅を終え、両手を思いっきり上げて背伸びをするハク。


 ダストロ村を離れ、ギルドにて任務達成の手続きを行い、委託販売の売り上げを回収して、我が家のあるグズーリの街に久しぶりに帰って来た。


 ハクの風魔法で一気に飛んでもよかったのかも知れないけれど、今現在急ぎで何かをしなければならないものも無く、最近己の無知を知らされる事が多かった事もあり馬車を乗り継いで観光がてらの帰宅となったのだ。


 ダストロ村に来たお偉方のお陰で俺が今この国でどんな扱いなのかが何となく知れたのはよかった。『犯罪者では無いが、足は引っ張る』くらいのスタンスのようだ。まぁ、それはそれでいいとしよう。重ねて言うが、無実の罪で追われるよりは遥かに良い。


「ほんっと、安い馬車は狭くて腰が痛くなっちゃうよ。ポーションの売上があるならケチらずもう一等上の馬車にして欲しいね」


 腰をトントンと叩きながら俺を白い目で見てくるハク。


「蛇に戻っていいぞ、って言っただろ?その方が省スペースだし、何より運賃かからないんだから」


「やーだね。何で神獣の僕が一々人間の君の都合で動かなきゃいけないだよ」


 腕を組みプイッとそっぽを向く神獣様。


「……なら文句言うなよな。イズミといる時はずっと蛇のままだったくせに」


「だってイズミからお願いされてたんだからしょうがないだろ」


「人間の都合聞いてるじゃん」


「うるさいな、イズミは特別なの」


「……はいはい。で、なんてお願いされてたんだ?人になるなって?」


「ん~」


 ハクはジッと俺を見ながら首を傾げた後でケラケラと笑う。


「それを君に言う程野暮じゃないかなぁ。ははは」


「意味わかんねぇ」



 爺ちゃんに拾われてから8年……あ、もう9年か。暮らしたグズーリの街を歩く。


 元々積極的に人に関わって生きてなかったけれど、この1年間やはり更によそよそしくなった様に感じる。


 この街は俺とイズミにとって第二の故郷と呼べるような場所であり、この街の人々にとってもイズミは誇りだった。


 遠く街を見下ろす高台にあったイズミの屋敷は既に取り壊されている。


 王都にある屋敷と同じ様に、落書きされたり投石されたり。こちらは火を放たれもした。


 信じていた分、誇りに思っていた分、きっと裏切られたと言う気持ちが大きいのだと思う。



 いつか四天王の城に殴り込む前に食堂で次々とイズミに酒を奢ったあの冒険者達も、きっと今はイズミを恨んでいるのだろう。


 あの日の光景を思い出し、少し涙腺が弛みそうになる。


 チラリとハクを見ると、何故か心配そうな顔で俺を見ていた。


「……何だよ」


「別にぃ?」


 

 街の外れにある工房兼自宅の我が家に到着する。


 こんなに長く空けるつもりは無かったが何週間ぶりだろうか?


 発端は何だっけ?と首を傾げてみてジーオに呼ばれて王都に行った事だと思い出した。取り合えず掃除をして、食材チェックをして、……少し横にでもなるか。確かに疲れたな。


「ただいま~」

「たっだいま~」


 誰もいなくても挨拶は欠かさない。


 とりあえずベッドにボスっと寝転がり溜まっていた郵便物を眺める。


「ねぇ、君にそこを取られたら僕はどこで寝っ転がればいいのさ」


 不服そうに眉を寄せてベッド脇から俺を見下ろすハク。


「あー……、そうか。今まではずっと蛇だったからなぁ。蛇に戻ればいいんじゃね?」


「だ・か・ら。何で僕がホイホイ君の都合で変化しなきゃならないんだってば。疲れてるのは僕だって同じだよ、詰めて詰めて」


「はぁっ!?わかったから押すな!」


 いくら本来の姿は蛇とは言え、少女と同衾(どうきん)となると絵面(えづら)的にまずいだろ。ベッドをハクに譲り、年代物の木の椅子に移る事にする。ある事無い事イズミに言われても困る。


「あっ」


 ベッドに寝そべり何故か俺宛の郵便物をより分けているハクが声を上げたので視線をやると、ニヤニヤと楽しそうに一通の封書を見せてくる。


「ジーオからだ」


「え」


 冗談かと思ったが、封書裏の差出人の名前は確かに『ジーオ・アズマギア・クアトリア』と記されている。王侯貴族の名前ルールはよくわからない。


「……へ、へぇ。きっとアレだよ。謝罪の手紙だよ、きっと。確実に。間違いなく」


 冷や汗って本当にかくんだな。


 心持ち心臓の音も大きくなった気がする。


「そうだねぇ。希望って大事だよね。そうだといいねぇ、あはは」


 他人事のように笑いながらピッと躊躇いなく封書を開けるハク。


「あっ、待て!まだ心の準備が!」


「えーっと、何々……」


 封書を開けて、手紙を読もうとしたハクはパァッと嬉しそうな顔で顔を上げ、俺を見る。



「イズミからだ!」


 悪いが意味が分からない。


「いや、罠だろ。それで俺達をおびき寄せてどうにかしようって算段だろ。その手には乗るかっつーの」


「あっそ。じゃあいいよ、僕一人で読むから」


 不機嫌そうにそう言うとゴロリと壁に背を向けて、俺に手紙が見えないようにする。


「いやいや、だってジーオからなんだろ?実際に書いてあるじゃん」


「あのねぇ……。馬鹿正直にイズミの名前で出された手紙が届くと思う?多分検閲を避ける意味もあってジーオの名前なんじゃない?あはは、悪いの」


 なるほど、確かにそうだ。どこの世界に公費で魔王からの手紙を配達する役所があると言うのか。


「次見せてくれよ」


「やだよ」


「やだって……」


 俺の苦言を聞かずにハクは壁際に寄る。


「君宛なんだから。一緒に読もう」


「え、いや。それは」


 ベッドに入る事を躊躇うとハクは口を膨らませて怒った振りをしてきた。


「何変な事考えてるのか知らないけどさ、僕と君がどうこうなるわけないだろ?言わなきゃわかんないかな?君宛の手紙だから君が先に見るのが筋だけど、僕も一緒に見せて欲しいって言ってるの!」


「じゃあ別に座って読めばいいだろ……」


 ハクは少し考えて恥ずかしそうに笑う。


「それもそうだね」


 ようやく手紙を手に取る。


 封書の文字とは違い、手紙の文字は確かにイズミの文字だった。


 丁寧に、綺麗な文字で手紙は書かれていた。


『親愛なるシロウへ。


 久しぶり!元気?私は元気です。今日はすっごく良い事があったから、手紙を書こうと思いました。


 魔王とか勇者とかはひとまず置いておいて、遠くに引っ越した一人の幼馴染からの手紙として読んでもらえたら幸いです――』


 読んでいるだけで、声が聞こえてくるようだった。



 遠く海を越えたミニル地方と言う場所にあるシェリーの森、そこに小さなネズミの様な魔物達が作る村があるそうだ。


 模型の様な小さな村で、手先の器用なそのネズミ達が人間の真似をして作り上げたおとぎ話の様な小さな村には水車や風車もあるそうだ。


 小さなその魔物達は総出でイズミをもてなし、様々な余興や手の込んだごちそうで一晩中楽しく過ごしたらしい。


 気が付いたら自然と口元が弛み、涙腺も弛んでいた。


 またからかわれたら癪だと思い袖で目元を拭いハクを見ると、ハクも泣いていた。


「イズミ楽しそうでよかった」


「な」


 森の奥の更に奥、木々のトンネルを抜けた先にコズミラと言うその魔物達の村があるそうだ。


『いつかシロウって名前の人間が来たら、私と同じように歓迎してあげてねって言ってあるから、機会があれば行ってみて欲しいな。……本当は一緒に行きたいんだけれど』


「なぁ、ハク」


「ん?」


 口にしようか少し考えたが、まるで子供の疑問の様なその疑問を口にする。


「何で魔物と人は一緒に暮らせないんだ?」



 ハクは神獣だから、きっと当事者である人間より客観的に見えているのかもしれない。


 イズミの手紙に水を差したせいか、その質問のせいか、呆れたような目を俺に向けてため息を吐く。



「君たち人間より魔物の方が強いからさ」


 短いその一言が妙に腑に落ちた。


 強いから、隣にいると怖いのだ。


 やられる前に、やらなければならない……と。



「そんな事より、イズミの手紙。気付いてる?僕の名前ひっとことも出てこないんだよ?ひどくない?」


 文句を言いながらも何故か少し嬉しそうな神獣ハク。


 イズミも最後にそれに気が付いたようで、本当に申し訳なさそうに追伸でそれに触れていた。



『それでは、いつかまた会えるその日まで。親愛なるシロウとハクへ――』



 



 


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