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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と薬売り

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黙認と言う選択

◇◇◇


 ぐにゃりと空間を出た時から嫌な予感がしていた。


 優しい陽光と、森の匂いに交じって焦げ臭いような臭いが風に乗ってくる。


「……イズミ様、私見てきます。少しお城で待ってて下さい」


 再度空間を開くが、イズミは首を横に振り拒絶する。


「私も行く」


 二人とも見た目は少女であるが、歴戦の猛者である。何となく嫌な予感はもう感じている。


 無言で、速足で、木々のトンネルを抜ける。


 ドサッと音がして、手に持っていた荷物を落とした事に気が付く。


 甘くておいしい飲み物や、ヴィクリムお勧めのヤギのチーズ。綺麗な花。


 村を挙げての歓待は久し振りに心から楽しい気持ちになってシロウへの手紙を書いてしまった程嬉しかった。そのお礼をしたかった。


 だが、目の前に村はもう無かった。



 横向きに倒れた家、羽根の折れた風車、そしてたくさんのコズミラ達の死体。


 ――何で!?


 そう口にしたかったが、イズミは声が出なかった。


 目の前の光景が理解できず、ただ震える足で立ち尽くした。


 シアンは大声で叫ぶ。


「誰か生きてる!?」


 元気に聞こえたあの鳴き声は聞こえてこなかった。



「誰か!」


 シアンはもう一度叫ぶ。


 返事はきっと無い事は知っている。


 ふと広場に目をやると、イズミが預けた指輪が無くなっている事に気が付いたがそれは今優先するべき事項では無い。


 ピクリとシアンの耳が動く。


「いる!」


 風に揺れる葉の音よりもさらに小さいその音はイズミには聞こえなかったが、シアンの耳は聞き逃さなかった。


「どこ!?」


 キョロキョロと辺りを見渡した後で、目を閉じて耳を澄ます。イズミはずっとその様子をただ見守っていた。


 心の中ではカカポ村が重なる。


 手はいつの間にか胸元にあり、心臓辺りを押さえている。呼吸が速い。足も震える。


 ――神様どうか。


 そう祈ってから、自身が魔王と呼ばれる存在である事に気づいて祈りを止めた。



 シアンは目を開くと、村を流れる川の上流にある岩場の陰をそっと覗き込む。


 岩と岩の間の小さな窪み、その隙間に重なる様に2匹の小さな魔物が震えていた。


「いた……!イズミ様!いました!」


「本当!?」


 本当は駆け寄りたかったが、村の面影を少しでも壊さないように、足元を見ながらゆっくりとイズミは近づいた。


 その2匹は七つ子だった。


 先週産まれたばかりと言う彼らは、母の言うままにこの岩場に隠れて助けを待っていた。


 他の5匹の姿は無く、飲まず食わずでかなり衰弱しているように見える。


「……治癒魔法とやらが使えたらいいんですけど」


 自然治癒と再生力に優れた高位魔族にはそもそも治癒魔法が必要ない為、シアンも治癒魔法が使えない。魔法全般に才のあるイズミが治癒は使えない事から、それ以外にも理由はありそうだ。


「あっ……、ポーション!ポーションならあるわ!」


 イズミは手荷物の中から定期購入してもらっている特製ポーションを取り出す。彼女らも気が付いていないが、それはシロウ特製の後味すっきりポーションだ。


 手頃な葉っぱにポーションを垂らし、その水滴を口に運ぶと小さい魔物の小さい口でペロペロとポーションを舐めた。


 その様子を見て、二人はようやく生きた心地がした。


「……よかった」



 それから暫く探したけれど、他に生き残りは居なかった。



「イズミ様。止めないでくださいね」


 両掌の上でコズミラを休ませているイズミに向かいシアンは呟く。



 シアンの言いたい事は分かっている。


 それを肯定する事も、否定する事もイズミは出来なかった。


 ジッと、覗き込むようにシアンはイズミの目を見つめる。


「それでも我慢せよ、と仰られるならば仰せのままに致しますが」


 その表情に笑顔は無い。


 怒りも無い。


 ただじっとイズミの目を見つめる。



「……この子達を休ませなきゃ」


 イズミは目を逸らして、そう呟いた。


「ありがとうございます」


 シアンはニコリと笑った。



◇◇◇


 コズミラ達の村があったシェリーの森から一番近い街はアルバと言った。


 一番近いと言ってもシェリーの森自体が僻地とは言わないまでも人里離れた場所である為、馬車で数時間と言った所だ。


 開けた平野に位置し、山と海と隣国との交易が盛んで様々な産地の品々が並ぶ活気と歴史のある商業都市。それがアルバと言う街。


「乾杯!」


 五本の指全てに見るからに高価そうな指輪を嵌めた二つの手は、キンと高い音を立ててジョッキを合わせる。


「いや~、しかし思ったよりあったなお宝」


 ごくごくとジョッキの中身を一息に飲み干すと、指に光る宝石付きの指輪を眺める。


「だから言っただろ?お宝ため込んでるんじゃないか?ってさ」


 卓を囲むもう一人の指にも沢山の指輪が光る。右手の小指に光るのはコズミラ達がイズミに献上した一際価値の高そうな赤い宝石の指輪。


 指にはめている以外にも腰に付けた革袋にジャラっと指輪や宝石が入っている。


「どれだけの値が付くのか楽しみだな」


 ニヤリと笑い、もう一度乾杯をする。


「あぁ、店選びは慎重にしねぇとな。つーか、探せばあんな感じの巣ってまだまだあるんじゃねぇ?正直魔物狩るのが馬鹿らしくなるな」


「確かにな、はははっ!」


 上機嫌で酒盛りをする2人に少女が声をかける。


「綺麗な指輪ですね」


 ニコリと微笑む百獣姫シアン。可憐な少女と言った容貌の彼女に笑いかけられて、ホロ酔いの2人は気を良くする。


「お嬢さん見る目あるね。一杯どうだい?料理も好きなだけ頼んでいいよ、はは」


 引かれた椅子にちょこんと座り、赤い指輪を付けた狩人の手を取る。


「お……」


 思わぬ積極的な行動にドキリとしてシアンを見ると、彼女もニコリと笑う。


「返してね?」


 葡萄を房からもぎるように、ブチっと軽く小指をねじ切る。


「なっ……」


 余りに突然な出来事に声も出ず、痛みも無かった。そして、綺麗にねじ切られたその指からは血の一滴も出てはいなかった。


 3秒ほどぽかんとした後で、男はようやく状況を飲み込み始める。


「え……指?俺の?……指!?指ぃぃぃぃぃい!?」


 シアンは迷惑そうに眉を寄せ、「うっさ」と呟き手を挙げる。


「おいで。……ギガンテラ」


 いつも通りぐにゃあと空間が歪むが、いつもよりもその範囲が広い。


 そして指一本がテーブル程の大きさの巨大な足を持つ角の生えた巨人が現れ、店はめきめきと音を立てて破壊される。


 悲鳴が広がり、人々も狩人も我先にと逃げ惑う。これだけ大きな魔物相手に立ち向かうような冒険者はこの街にはいなかったし、おそらくそれが普通だろう。


 ギガンテラと呼ばれた巨人が一歩足を踏み出すだけで、地は揺れ、建物は崩れ落ちる。最早襲撃ではなく災害だ。


「ひぃっ、ひぃっ、ひぃっ、ひぃっ!」


 狩人は逃げる。


 地面が揺れる。


 涙を流し、必死に逃げる。


 ――何故こんな事になったのか?想像すらできない。運が悪かったのか?折角沢山のお宝を得てこれからという時に何で!?


 息を切らし懸命に逃げるが、ギガンテラがゆっくりと一歩踏み出すだけで追いつかれてしまう。


 相棒の姿は見えない。


 コンビを組んで3年は経つ。今は二人とも黄等級だが、いつか橙に赤にと野望も持っていた。


 キョロキョロと辺りを見渡し、どぶ川へと流れる排水溝を見つける。そこならこの巨人も入っては来れない。逃げられる!


 普段なら嘔気込み上げるどぶ川の臭いも気にはならない。


 

 パシャパシャと濁った水を撥ねさせながら水路を行く。


 地震の様に頭上が揺れ響くが、どこまでも逃げる。


 そして暫くすると、揺れも音も止まる。


 頭を抱え震えながら冷たく臭い水にしゃがみ込む狩人はまだ不安そうに周囲を見渡してから明かりの無い天井を見上げる。


 コツンと石ころが落ちてきたかと思うと、下水道の天井が削られるように捲れて青空が目に入る。


 空はとても青く、視界の端に白い雲が見えた。


 そして可憐な少女がそこにいて、目が合うとニコリと微笑んだ。


 

 もう逃げる事は出来なかった。


 彼は慌てながら震える手で指輪を外し、腰の革袋と共に少女に差し出す。


「あっ……あああああぁああの!ぜぜぜ全全全部差し上げます!だから命だけは!」


 シアンは微笑みを崩さずに答える。


『元々あの子達の物だよ?』


 但し、その答えは魔物の言葉だった。


「え……何を。さっきは全然……」


 狩人は困惑しながらも身振り手振りで必死に懇願する。


 暫く後にシアンがスッと手を伸ばしたので間髪入れずに指輪と袋を差し出す。


「どうぞ!」


 盗品を受け取ると微笑みを崩さずに一言呟く。


『ギガンテラ、お願い』


 ブシュッとトマトを潰した様に、赤い体液が下水道に飛び散る。



 シアンは大きくため息を吐く。



 ぐにゃりと空間が歪み、彼女は姿を消した――。


 


 


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