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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と薬売り

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昇級

◇◇◇


 次の日には筋肉痛も魔導痛もだいぶ和らぎ、痛いながらも何とか動けるようになった。


「稽古をつけてやる」


 動けるようになった矢先に俺より重傷な筈の剣士ゴウが木剣を手渡してきた。


「えっ、まだ身体中痛いんすけど。それにゴウさんだって身体中バキバキじゃないっすか」


 至極真っ当な意見を言ったつもりだったが、それを聞いたゴウは大きく溜め息を吐く。


「お前は万全の時しか戦わないのか?」


 真っ当な意見を言ったつもりだったが、冒険者としての心構えが違いすぎて恥ずかしくなる。


「……お願いします!」


「行くぞ」


 カン!と木剣のぶつかる乾いた音が響き渡る。


 彼の言う通り万全の時で無くても、風邪を引いていても、頭が痛くても、身体痛くても、腕が折れていても、それ以上でも、戦わなければいけない時が来るかもしれない。


「お前は」


 両手の木剣で不規則に打ち込みながらゴウは口を開く。


「返事する余裕ないっすよ!」


 一応俺が受けられる程度の速度で剣を振りながら、俺の返事を気にせずに会話は続く。



「王都でお披露目されたと言う新しい勇者だな?」


「はっ……半分正解っすね。つーか返事できないって言ってるじゃないっすか」


 王都でお披露目はされたかもしれないが、勇者ではない。故に半分正解。稽古をするのか世間話をするのかどちらかにして欲しいものだ。



「お前は」


 またもや同じ区切りでぼそりと呟く寡黙な剣士ゴウ。


「はいはい、何すか次は」


 きっと無視しても続くので、諦めて返事をする。意外とやればできるものだ。


 そのまま続きは無く何合かカンカンと打ち合ったので、もう終わりかと思ったが続いていた。



「魔王イズミを倒せるのか?」



 カンッ!っと一際大きい木剣の音が響く。



「イズミを魔王なんて呼ぶんじゃねぇ!」



 一瞬で頭に血が上る。


 力任せに木剣を振り切った両手はビリビリと痺れている事に気付き、少し冷静になる。



「あ、すいません。でも――」

「人の命を吸って生きる魔王だろう?」


「黙れっつってるんだよ!」


 再び振りかぶり放った剣は、乾いた音を立てて宙を舞い弧を描く。


 次の瞬間、ゴウの木剣が俺の頭をコンと叩く。



「ならお前が黙らせてみせろ。世界中の全員を」



 ギリっと奥歯を噛み締めて、長い前髪の向こうに見えるゴウの瞳を睨む。



「……そのつもりだよ」


 ゴウはニヤリと笑うと、木剣を俺に手渡す。


 

「どのつもりでも強さは必要になる事が多い。もう一本行くか」


「うーっす」


 今度は俺が二刀でゴウが一刀で稽古。何事も経験だ、うん。




 生きているだけで、生き物の生命を吸い不死の身体を持つ魔力を司る魔物の王。彼の者が存在するだけで、生きとし生きる全ての生命の寿命が短くなる……そうだ。壮大な話過ぎて全く実感はわかないけれど、何十年かしたらきっと頭のいい人たちが統計か何かを出すのだろう。


 近ければ近いほど、多くの生命を吸ってしまうとイズミは言っていた。


 だから、俺の側にはいられない、と。


 1年経っても、まだ何も解決策は浮かばない――。



◇◇◇


 4日目の昼、国の調査隊と各ギルドのお偉方が視察に来た。


 念の為、向こう暫くは兵を置いて警戒を継続してくれるそうだ。これで村も子供たちも一安心と言う訳か。


「……それでも4日かかってるんだもんなぁ」


 広場に集まりなんやかんややっているお偉方を眺めながら椅子の前足を浮かせて頭の後ろで手を組む。


 ナシュアは次の日には来たそうだが、やはりその到着速度が異常すぎるのだろう。カカポ村はここよりももっと僻地にあったのだから。今度地図で見比べてみよう。


「まぁまぁ早い方じゃない?カルラが魔法陣の技術を解禁してくれたらもっと色々便利になるんだろうけどね。あの魔法は彼女の専売特許だから」


 彼女曰く、『最先端技術を皆に広める程善人じゃない』そうだ。あの魔法陣を上回る何かを作った際には広く民間にも開放してくれるのだと言う。そんな我儘が許されるのも才能あってのものだ、全く以て羨ましい。


 広場を眺めていると、お偉方と何やら話をしていたおじさんと目が合い、ちょいちょいと手招きされる。


「何だ?」


 妙に笑顔なのが気になるが、再び筋肉痛の足を引きずり広場に行く事にしよう。



◇◇◇


「想定外の出来事にも関わらず、敵に背を向けずに民に一人の犠牲も出さなかった諸君らの勇気と正義感に最大限の敬意を表する」


 一団の責任者らしい胸に沢山の勲章を付けた軍服のおじさんがピシッと敬礼をすると後ろに並ぶ部下達も同様に敬礼をした。


「何度も諦めかけましたが、本当にここにいる皆のお陰です。特にゴウとシロウ君は最前線で魔物と戦った最大の功労者だ。是非最大限の褒賞を与えて頂きたい」


 橙等級三人組のリーダー・射手のジルチはそう言ってお偉いさんに一礼をすると、お偉いおじさんはコクリと頷き、部下に指示をして一枚の書状を出す。


「勿論だ。事前に受けた報告を元に既に諸君ら所属のギルドとも話を付けてある。射手ジルチ率いる『鴻鵠(こうこく)の羽』は橙等級から……赤等級への昇級とする」


 ワッと歓声と拍手が鳴り、三人は顔を見合わせて笑った。


 赤等級以上は複数ギルドの推薦が必要なので、赤以上は全国的に実力を認められたと言えるだろう。それにしても『鴻鵠の羽』ってチーム名かっこいいな。ソロでは付けられないのかな?今度戻ったら聞いてみよう。


 そして、拍手が止んだ頃おじさんは言葉を続ける。


「戦士ビンズ・ポテロ」


「ハッ!」


 ていうか、おじさんそんな名前だったんだな。特に呼ぶ機会も無いから知らなかった。


「貴公は黄等級から橙等級への昇級とする」


「ありがとうございます!」


 おじさんは泣いて喜び、パチパチと拍手が優しく降り注ぐ。


 ハクがチラリと俺を見て小声で囁く。


「次、君かな」


「……かもな」


 青の次は何だっけ?緑か。そんで黄色で橙か。ほとんどの冒険者はよくて橙止まりらしい。複数のギルドに跨るようなでかい案件をこなして漸く赤になれるって話だから、ジルチさんらはやっぱりすごいんだなと思う。俺もダストロ村も本当にラッキーだと思う。



 そして、お偉いさんがチラリと俺を見る。


「最後に、シロウ・ホムラ」


 何となく表情と声色に嫌なものを感じたが、まぁその予感は当たった。


「等級に関わらずのその奮闘、大変見事だった。今後も活躍を期待している」


 ん?と思ったが、すぐに理解した。


 ジルチさん達も、見守る村の人もお偉いさんの次の言葉を待ったが、お偉いさんの言葉は皆の期待に沿うものでは無かった。


「それでは、村の警備と原因の調査は引き続き我ら王国兵が行う。以上!」


 我慢できずハクが一歩前に出て声を上げる。


「ちょっと待ってよ!シロウは?昇級あるだろ!?」


 俺はハクの服を引っ張り、小声で制する。


「……やめろって」


 ハクは振り返り、キッと俺を一度睨んでからまたお偉いさんを睨むが、お偉いさんは馬鹿にしたような薄笑いを浮かべる。


「昇級?いやいや、名誉欲の無い方と聞いているので逆に無礼だろうと思いましてな」


「はぁあ~?随分姑息で嫌味な事してくれるね、君ら」


 ハクはギリギリと音が鳴る程歯を食いしばり、怒りと嫌悪感を隠さない。


 まぁ、でも彼らの言う事も勿論わかる。


 あれだけの場面で泥を塗ったのだ。何等かの罪をでっちあげられていないだけ良識があるんじゃないかとすら思う。馬鹿正直に昇級の話をして、また俺が断ろうものならいい面の皮と言うやつだ。俺でも思う。


 なので、この沙汰はよく考えれば納得ではある。


「納得できません。それなら僕らの昇級も――」


 と、お人よしのジルチさんが口を開いたので慌てて制止する。


「待った!ジルチさん、それはダメっす。はは、ほら。俺一度断ってるから、しょうがないっすよ」


 ヘラヘラと笑いながらジルチさんを止めていると、後ろで白蛇さんがまた牙を剥く。


「しょうがないわけあるか。君はあんなに頑張っただろ!?それなのに何でこんな幼稚な嫌がらせ受けなきゃいけないんだよ!」


 今度は振り向いてハクを制止することになる。やれやれ全く、忙しい。


「まぁまぁ、マジで。本当にいいんだ。最近こういうの割と好きって言うか……、逆にやる気でるから」


 カルラの呆れ顔が浮かぶ。


 それを聞いてハクも呆れ顔になる。


「……変なの」


「そんな事より、ハクが俺の為に怒ってくれた事の方が意外だよな。ははは、正直割と嬉しい」


「はぁっ!?」


 ハクは驚き、少し顔を赤らめる。


「別に君の為に怒ったわけじゃないよ!こういう陰湿で不公平なのが嫌いなの!勘違いするなよな、バーカ」


 


 昇級は出来なかったけれど、色々得るものもあった依頼だったと思う。勝手に重ねてしまって申し訳ないとは思うけれど、あの日のカカポ村を救えた様な気がした。



 

 













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