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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と薬売り

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村の夜明け


◇◇◇


 思えば魔物を斬るのは初めてだったけれど、不思議と抵抗は無かった。


 剣を取り、風を巻いた身体が軽い。


 暗闇の中で鈍く光る大サソリ・デストリギスの黒い甲殻の隙間を狙い剣を振るうと、日陰に()した苔の様な暗い緑色の体液を飛び散らせる。


「体液にも少し毒があるよ」


 ハクは落ち着いた声でそう言ったが、ナシュアやイズミならともかく俺にそんなもの避けられるはずが無いので、即死性で無ければそんなもの構っている暇は無い。


 デストリギス達の殆どは既に手負いだ。足が無かったり、ハサミが無かったり、尾が無かったり、或いはそのどれもが無かったり。ゴウさん達橙等級の三人が戦っていてくれたおかげなのだろう。……そう言えばあのおじさんの姿が無い。鐘を鳴らして叫んでいたのは見たが、今この場にはいない。


 逃げていてくれてたらいいなぁ、と思いながら剣を振るう。


 一年足らずの付け焼刃剣術だけど、ハクのサポートと三人が弱らせてくれているおかげで何とか戦える。残りが何匹なのかわからないが、襲い来る足を斬り、足を斬り、足を斬る。


 視界の端で、別のデストリギスの外殻の隙間に矢が刺さる。見張り台の上のジルチさんだ。何と言う正確な射撃。


 暫くして魔物たちの攻撃は俺を認識し始めていた。視力が戻りつつあるようだ。


「もう一回行きます!」


 風魔法を纏った高速移動で攻撃を何とか回避しながら叫ぶと口々に『おう!』と返事が返ってきた。


 ハクが剣を咥えてくれたので両手で魔力を練る。


 バチっと充電完了の合図。


「せーのっ!」


 ビカっと再び暗闇は真昼よりも明るくなり、大サソリ達の呻き声が響く。


「畳みかけるぞ」


 ゴウさんは落ちていた剣を取り、視界が塞がれて身悶えする大サソリの首を落とす。


「はいっ!」


 俺とゴウさんの身体を一瞬仄かな光が包むと、身体が少し楽になった気がした。きっと恐らく加護と言うやつだろう。これもまた薬師の商売敵か、なんて事を戦いながら考えていた。


 


◇◇◇


 どのくらいの時間が経ったのかはわからない。


 ハァハァと両肩を大きく上下させながら膝に手を付き荒い呼吸をする俺は、もう風魔法で覆われてはいなかった。ハクも魔力の限界らしい。


「はぁ……はぁ……」


 ゴウさんは俺なんかよりも傷だらけで、剣を杖の様に地面に刺して膝を付いている。


 俺の足はガクガクと震え、腕ももう剣を上げられるかわからない。


 

 だが、もう敵は襲ってこなかった。


 魔物の群れは、もう動かなかった。



 俺はハクをチラリと見る。


「やればできるじゃねーか」


 ハクは少しバツが悪そうな顔をしながらいつもの白い目で俺を見る。


「君の方こそ」


「何が『無理だよ』だよ。やればできるじゃねーかよ、ははは。おい、手。手出せよ」


 ハクはポンと人間の姿になると、俺の背中からぴょんと降りる。


「ん」


 すっとハクが差し出した右掌をパン!と大きな音が鳴るほど思いっきり右手で叩く。


「やっっっっっったぜ!」


「やっっっっっったね!あはははは!」


 そして俺達はまるで友達の様に笑いあったが、人化したハクが裸な事にはまだ気が付いていなかった。


 月明りの無い新月の夜。


 不謹慎かもしれないけれど、夥しい魔物の死骸のすぐ横で俺とハクは大きな声で笑いあった。


 カカポ村と違い、この村にはちゃんと朝が来ることが嬉しかった。



◇◇◇


 日が昇るまで俺達は監視を続けたが、結局それ以降は何も襲ってこなかった。


 魔物の死骸はあまり子供たちに見せたくないので、男手総出で火葬をして埋葬する。


 俺は全身が筋肉痛と魔導痛で全く動けない。


 恥ずかしながらベッドの上である。


 因みに魔導痛とは、魔力を通し慣れていない身体に急に魔力を通すと筋肉痛に似た炎症を起こす症状の様だ。要するに不慣れが導いた結果と言うことだ。


「具合はどうだい?」


 橙等級の3人がリンゴを持って俺の居室に入ってくる。


 ゴウさんは俺以上に傷だらけで、鎖骨とか肋骨とか腕とかなんか色々な所が折れているようだが、手当てをして普通に歩いているのが不思議だ。


「動けない以外は何とか」


 そう言うと3人は笑う。


「それは何よりだ」


「リンゴ食べる~?」


「あっ、いただきます」


 間延びした話し方の僧侶ミアラはニコニコとリンゴを剥き始める。


 そして唐突にジルチは俺に頭を下げる。


「君のおかげで生き延びた。ありがとう」


「ふえっ」


 唐突なお礼にバカみたいな気の抜けた声が出た。


「いや、何バカ言ってるんすか。ほとんどゴウさんっすよね?で、サポートでジルチさんの射撃とミアラさんの加護。しいて言えば俺のピカピカって感じっすか」


 ジルチは腕を組んで首を傾げるので、俺は言葉を続ける。


「あっ、あとハク。あいつも来てくれて助かったっすね。ははは」


「皆のおかげって事でいいじゃな~い」


 リンゴを剥きながらミアラは笑う。


「そっすね」


「だな」


 因みに、おじさんは一頻(ひとしき)り鐘を鳴らした後、武器を取り子供達の最後尾に付き、村長の家の前で仁王立ちをしていてくれたようだった。


 皆、色々なところで頑張っていたんだなと思う。


「リンゴ剥けたわ~」


「あざっす。あ……」


 リンゴを食べようとするも、ピクリとも手が動かないことに今更気が付く。


「ミアラ」


 寡黙な剣士ゴウは腕を組んで壁により掛かったままミアラを呼ぶ。


 彼女はその意図に気が付いた様で、クスリと笑うとユキウサギカットのリンゴを俺の口に運ぶ。


「は~い、それじゃあ頑張ったご褒美で~す。あ~ん」


「えっ、マジっすか。むぐ」


 そう言っている間にもリンゴはぐいぐいと俺の口に押し付けられる。


 何だかとても気恥ずかしいが、身体も動かないし折角なのでいただこうと思う。身体も動かないしね。


 歯を立てるとシャリッと小気味よい音がする。


「うまいっす」


「ふふふ、もう一つどうぞ~。あ~ん」


「あー……」


 と、口を開けたその瞬間。


「シロウー、お腹空いたかい?わざわざ僕がご飯を――」


 お盆に軽い食事を載せたハクが髪の毛を使って扉を開ける。


 そして、ミアラさんにリンゴを食べさせてもらっている俺を見て大きく溜め息を吐く。


「……イズミに報告しなきゃね。ごゆっくり」


「え、ちょっと待て。動けないからだよ。不可抗力ってやつ。わかるか?不可抗力!」


「はいはい、別にいいんじゃない?言っただろ?ご・ゆ・っ・く・り」


「話聞け!蛇野郎!」


「ばーか、野郎は男に言うものです~」


 そんなやりとりを見て三人は笑う。


「おーい、リンゴいるか?」


 間の悪いことにおじさんまでリンゴを持ってきてしまった。


「あ、後で食いますんで。あざっす」


「あとこれ子供達からな。早く良くなってくれとさ」


 渡されたのは、本当にその辺りで咲いている花が何輪か。


 そして、まるで花のようにカラフルな文字で『ありがとう』と書かれた手紙。


 目を覆いたかったが手が動かない。


「あっ、泣いてるよ。あはは」


「うるせぇ」


 ダストロ村の長い夜は明けて、新しい……いつも通りの一日がまた始まった――。


 


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