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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と薬売り

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42/101

カカポ村、と言う村があった場所

◇◇◇


 魔王四天王の一人『魔先鋒ジギ』の右手がシロウの頭を鷲掴みにする。


 ほんの僅かに……人が蟻を摘まむほどの繊細な力加減でジギが力を入れると、シロウの頭蓋骨は悲鳴を上げて、彼は意識を失った。


 洋服棚から様子を窺っていたイズミは、手に持った彼の愛刀が濡れた床に落ちるのを見て声にならない声を上げた。


 そして、その瞬間ジギの右腕が弾け飛んだ。


「うおっ!」


「シロウッ!」


 イズミは矢も楯も堪らず、ずるりと崩れ落ちたシロウに駆け寄る。


 意識は失っているが呼吸はあるようだった。


「……よかった」


「ふふふははは!魔王様、随分かわいらしい姿になったんすね」


 気を失ったシロウを守る様にギュッと抱きしめて、自身を睨む少女に対してジギはそう言った。



『魔王様』と。


 勿論その言葉の意味が分からないイズミは、何も答えずにただジギを睨む。


 ジギは再生した右手の具合を確かめながらへらへらとイズミに手を伸ばす。


「さ、行きましょうぜ、魔王様。ほら、そのガキ置いて」


 と、伸ばした手がシロウに触れるか触れないかの距離に近づいた瞬間、また右手はバシュッと血飛沫を上げて弾け飛び、ジギも顔を歪める。



「……ってぇな。いい加減にして下さいよ、魔王様」


 イズミは状況が飲み込めず、きょとんとした表情でシロウを抱く手にギュッと力が入る。


 それを見てジギは大きくため息を吐き、呆れ顔で手を横に振る。


「いやいや、人の腕何度もすっ飛ばしといて何きょとんとしてんすか。あんたでしょ。魔王様」


 だが、ただの田舎町に育った少女にこの状況でそんな話をしたところで、聞き入れられる訳が無い。イズミは守るようにシロウを抱きかかえたまま、怯える瞳をジギに向ける。


「あー、そうか。記憶もクソも無いわけっすか」


 ニコニコとしていたジギの顔から笑顔が消える。


「気に入らねぇっすね。そんなんで簡単に人の腕吹き飛ばしやがって」


 ゴッとジギの左拳がイズミの鼻に当たる。


 末席とはいえ魔族の頂点に近い四天王の一角として、ほんの微かに草を撫でる程度の力ではあるが相手は7歳の少女だ。


「っ!」


 鼻っ柱に拳を食らうが、シロウは離さない。


「あれ?」


 ジギは不思議そうな顔で左手を見る。吹き飛んではいない。


「ほら、遠慮すんなよ。またやってみろ魔王様」


 そう言って今度は右拳で少女の顔を殴る。


 鼻からは血を流し、目からは涙を流してもシロウを離さずに、震えながら怯えた瞳でジギを見て、震える口をようやく開く。


「……何で、何でこんな事するの?」


「何でってそりゃ……さっきから言ってんだろ?」


 呆れ顔でイズミの髪を掴み持ち上げる。



「あんたが魔王様の生まれ変わりだからだよ」



 髪を掴まれる痛みに顔を歪めていたイズミの目が、丸く見開いてジギを見る。


 その表情が気に入った様子で、ジギは嗜虐的な笑みを浮かべて言葉を続ける。


「だからこの田舎のやつらは死んだのさ」


「……嘘」


「嘘だと思うなら説明してみろよ。ほら」


 意識を失ったままのシロウを思いっきり蹴ろうとしたジギの足が吹き飛ぶ。


 どす黒く赤い血が噴き出し、血だまりになる。


「ただのガキがどうやってこの俺様の足を吹き飛ばすのかよ!」


 声を荒げてイズミの顔を強打する。


「ぐっ……ひ」


 イズミ自身を痛めつけても、『何か』は発現しない。

 

 そして、シロウに攻撃を加えようとすると途端にその箇所が抵抗もできず消し飛ぶのだ。


 やはりそれがまたジギを苛つかせる。


「あ、わかった。もしかして、守ってるつもりっすか?その小僧を」


 イズミは痛みと恐怖に震え、シロウを抱いたまま泣き出してしまう。


「……もう嫌だぁ。シロウ……助けてぇ」


 その時、気を失っているはずのシロウの手が微かに動く。


「……イズ……」


 ジギは大きくため息を吐いて頭をガリガリと掻く。


 その手は完全に竜の手に変化していた。


「つっまんね。茶番は終わりだ。そのガキ殺せば覚醒するかな?するよな?」



 右手に力を込めると、ジギの身体はメキメキと姿を変えてより竜の姿に近づいていく。


「全力で行くぜ。ガキの腹割いてあんたの口にぶち込んでやるよ。ハハハハハハハ!」


 姿を変え、屋根を破壊して更に大きくなったジギは、大きく息を吸い込むと激しい咆哮をあげると、その口に全魔力を込めてシロウへと牙を剥く。



「ギャハハハハハハハ!」


 イズミは目を瞑り、シロウを守る様に抱きしめる。



 パシュッと水風船が割れる様な音がした。


 そして、赤く熱い液体が豪雨の様に降り注ぐ。


「……が……ぞ」


 巨大な竜となったジギの顔には、声を発する部分は残っていなかった。右肩の辺りから頭部のほとんどが、一瞬の元に抉り取られている。


 残った左目は信じられないものを見たと言う目でイズミを見る。


 ジギはそのまま糸が切れた様に倒れ込む。


 動かなくなったその巨大な生き物を見て、7歳の少女には恐怖よりも安堵が勝った。


「……たす……かった?助かったの……?」



 魔王四天王の一角『魔先鋒ジギ』は絶命した。



 それは、魔王に対する4つの封印の一つが解けた事を意味する――。



 ドクン、と心臓の辺りが一度強く大きく音を立てた気がした。


「ああああああああぁあああああああ」


 次の瞬間、イズミの家の周りを黒い炎の翼が覆ったかと思うと、翼は一度大きく羽ばたいた。


 その一度の羽ばたきで、カカポ村は消えた。


 まだ逃げている人もいた。


 それを追うリザードマンと翼竜もいた。


 隠れている人もいた。


 もしかしたら、イズミとシロウの両親もまだ生きていたかもしれない。


 その全てが、イズミの自宅だけを残して消えた。


 

「ううぅぅうううううああああ!!!」


 燃えさかる家の中で、シロウを抱いたまま苦しそうに唸り声を上げるイズミは、ジッとシロウを見つめた後で、暫しの葛藤の後で大きく口を開けて右肩に噛みつく。


「ううぅううぅう……うっ……ううううう……うわぁぁあん」


 恐らくは噛み千切らんばかりに噛みついたはずなのだろうが、噛みついた瞬間に自我を取り戻した。


 イズミは、そっとシロウを血溜まりに下ろすと、立ち上がり目を覆い泣いた。


「……ごめんね、シロウ。ごめんね。私……魔王なんだって」


 薄ぼんやりとした意識の中で、シロウは燃えさかる炎と対照的に消え入りそうなイズミの呟きを聞いたが、混濁した意識の中でその言葉を思い出す事は無かった。



 

 そして、夜が明ける頃には二人が生まれ育ったカカポ村はもう存在しなかった。



















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