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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
魔王と薬売り

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カカポ村、8年前

◇◇◇


 見渡す限りに本が詰まった曲がりくねった本棚の迷路。


 この世の文字の全てがあるとも言われる異次元図書室『知恵の樹』。


 その奥深くで、パラパラと本を捲る一人の青年の姿。


 本棚が仄かに光ったかと思うと、新たな本が生まれる。


 青年はおもむろに本をビリっと破くと、丸めて口に入れる。


 この空間を知恵の樹と言うのなら、さしずめここの本達は知恵の樹の果実と言ったところだろうか。


 宙に浮かべた光の玉に手をかざしながら何かを行いながらブツブツと呟く。


「あぁ、……時間が……無い」



◇◇◇


 王都から遠く離れた山間の田舎町、カカポ村は今日も平和だった。


 昨日も平和だったし、その前の日も平和だった。と言うか、カカポ村は大概いつも平和だった。強いて事件と言えば、二週間前にホムラさんちのシロウが村の鶏舎に忍び込み卵を持ち去ろうとしたくらいだろうか?


 村は特にこれと言った産業も無く、7日に一度馬車の定期便がある事が村人のささやかな自慢になっている。


 一番近くの街までは早馬で2日、王都迄はどれだけかかるのか。そもそも村人の中に王都に行った事がある人は数える程しかいない。


 とにかく、その位の田舎町なのだ。


 それなので、村に旅行客が来ることなんてほとんどない為村には宿が無い。もし旅人が訪れた際には、部屋が余っている村長の家に泊めると言う取り決めになっているが、最期に訪れたのは4年も前の事になるか。



「ねぇ、シロウ。また怒られるよ」


「ははは、バレなきゃ平気だっつーの。イズミは一々臆病だな」


 剣に見立てたいい枝ぶりの枝で、干した果実を取りもぐもぐと頬張る少年がシロウ・ホムラ7歳だ。


「そう言って毎回バレるんだから……、いい加減勉強しなよ」


 呆れ顔と言うか、困り顔でキョロキョロと辺りを気にするイズミにシロウは干し果実を一つ差し出す。


「ん、一つやる」


 イズミは目を丸くして驚く。


 黒く長い髪の隙間から覗く金色のお月さまの様に丸く大きい目。


「えっ……、いいの?」


「あぁ、うまいぞ。食え」


 ニッコリと笑うシロウから顔を少し背けながら、両手で果実を受け取るイズミの顔は少し赤い。


「いただきます」


 小さい口を大きく開けて干し果実を食べる。


「うまいか?」


 イズミはニッコリと満面の笑顔をシロウに向ける。


「うん!おいしい」


 その返事を待ってましたとばかりにニヤリとシロウは笑う。


「はい、共犯~。お~い、イズミが干し柿食ってんぞ~」


 大声を上げながら走るシロウを追いかけるイズミ。


「あっ、ずるい!シロウがくれたんでしょ!」


「あげたけど食ったのはイズミだろ」


「だってシロウが!あっ……」


 シロウを追いかけるイズミは、躓き転んでしまう。


 前を走るシロウが振り向いた時には、イズミは涙目で擦りむいた両掌を上に向けて涙目で痛みに耐えていた。


 膝も擦りむいていて、白い肌に赤い血がにじむ。



◇◇◇


「いてっ!」


 母親にゲンコツを食らい、声を上げるシロウ。


「ごめんね、イズミちゃん……。うちのバカのせいでケガさせちゃって」


 シロウ母はイズミと両親に何度も頭を下げ、シロウも頭を押さえられる。


 両掌と左膝に赤い傷薬を塗られたイズミは心配そうにシロウを見ている。


「ほら、あんたも謝りなさいよ」


 シロウ母は頭を軽くパシッと叩く。


「一々叩くなっつの」


「いーいーかーらー」


 圧をかける母を恨みがましそうにジッと睨むが、押し負けて諦めてイズミを見る。


「あー……、えーっとな」


 言い辛そうに口ごもる。


 中々素直に謝ることが出来ない年頃だ。


「お前が怪我したのは俺は悪くねぇ。お前が鈍臭いからだ」


 反省の色もないその言葉にイズミはきょとんとし、シロウ母は慌てて頭を押さえる。


「バカっ!あんた何なのその――」


 頭を押さえつけられるのに抵抗しながら、シロウはイズミを見て声を上げる。


「俺はケガとかは治せねーけどさ、お前が危ない時は颯爽と助けに来てやるからな。勇者だから!」


 その言葉には当然深い意味はない。


 なにもない田舎町にも、伝説の勇者のおとぎ話は伝わっている。そんな絵本を何遍も何遍も読んだ。


 そして、きっと子供たちなら皆そうであるようにシロウも勇者に憧れた。


 イズミは母の影に隠れてコクリと頷いた。



 

 そんな風に、毎日は過ぎる。


 今日も平和で、昨日もその前も平和だった。


 だから、誰が約束したわけでは無いけれど明日も平和なのだと誰もが思っていた。



◇◇◇


 毎日、日が昇る前に鶏の鳴き声が村に夜明けを告げる。


 だが、その日は違った。



 ズズン、と地鳴りがしたかと思うと次の瞬間今まで聞いたことの無い生き物の鳴き声が山間に響き渡る。結果からすると、その鳴き声は翼竜の鳴き声だったのだが村人たちにそれがわかるはずも無い。


「ハハハハハ、魔王様ァ!この俺が!お迎えに上がりましたよ!魔王四天王の一番槍!『魔先鋒ジギ』っス!魔王様~!」


 声の主は大柄な短髪の若い男性だった。男性とは言っても、前腕部や首元辺りに鱗の様な物が見える頃から竜族か何かでは無いかと窺える。


 ジギの乗った翼竜は村長の家の側にある広場に舞い降りる。


 収穫の時期には櫓が組まれ祭りも行われる広場。


 何事か?と村長の家から広場を覗く視線に気が付いたジギは、鼻をほじるとピンっと指で弾く。窓から様子を窺っていた村長はその一撃で絶命する。



 ジギは深呼吸をして背伸びをする。


「く~っ、田舎町は空気がいいなぁ」


 少し遅れてもう一匹、今度は籠を付けた翼竜が到着する。


 籠の中からは5・6匹の軽武装したリザードマンが降り立つ。


「魔王様探せ。他は……まぁ食ってもいいか。多分牧場みたいなもんだろ、こんな田舎町」


 リザードマンが何やらジギに問うと、ジギは腕を組んで首を捻る。


「どうやって見分けるか?見ればわかるんじゃね?……てのは、冗談で。多分襲った瞬間にはお前が死んでるから気にしなくていいぞ。そんじゃ、捜索開始!」


 異形達の(とき)の声が夜明け前の村に響く。


 村には、もう朝は来なかった。




 




 







 

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