表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
勇者と薬売り

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/101

勇者イズミとの別れ

◇◇◇


 目の前の破壊された広場には、黒い炎が燃え盛る。


 広場では、たくさんの人々がイズミらの話し合いを見物していたはずだった。


 カルラの張った風魔法の障壁も消えていて、辺りは騒然としている。


 あるものは逃げ惑い、あるものは立ち竦み、あるものは瓦礫に敷かれ、またあるものは黒き炎に焼かれる。


 足が震え、カチカチと歯が音を立てたので彼女は口も震えていることを知った。


 ――助けなきゃ。


 己が行ったであろう惨状を目にしても、イズミはそう思った。



「火、イズミ様の意思で消えますよ」


 広場に向かおうとすると、後ろから百獣姫シアンの声がした。


 

 消えて、と願うと彼女の言うとおり炎は消えた。


 その事で、イズミはこの惨劇の犯人の確証を得てしまう。


 ――やはり、これは私がやってしまったのだ。



 地面を踏んでいる感覚もわからないフワフワとした足取りで、彼女は怪我人の元へ向かう。


「イズミ!」


 息を切らせてナシュアがやってきた。


 怖くて後ろは振り返れなかった。


 消えて、ともう一度願ったが自身の存在が消えない事に涙が出そうになった。



 罪悪感とは裏腹に、身体中には力が漲る。


 ――まるで、八年前の様に。


 一度目を拭い、瓦礫に敷かれた人の元にたどり着く。


「……だっ、大丈夫ですか!?今……助け……ますから」


「ひいっ……!こここ殺さないでくれっ」


 まるで、魔物を見るような目を向けられるが、イズミは出来るだけの笑顔を心掛ける。


 だが、瓦礫をどけると男は足を引きずりながら一目散に逃げていった。


 そうだ、シロウに貰った傷薬があったなと思い、懐を探ると急に涙が溢れてきた。



「……騙してたのか」


 ぼそりと民衆の呟く声がする。


 ――ごめんなさい。


「何が勇者だ」


 ――ごめんなさい。


「殺されるぞ!」


 ――ごめんなさい。



 次の瞬間、ガッと頭部に衝撃を覚えると、温かい液体が額を伝い目に入り視界が半分赤く染まる。


 普段なら当たりもしない何て事のない投石だ。


 涙を拭いながら、イズミはフラフラとした足取りでまた救助に向かう。


 その後ろ姿にまた、石が投げられる。


「止めろ!」


 後を追って来たナシュアがイズミの盾になる。


「……ナシュア」


 イズミの両目からはまたポロポロと涙が零れる。



「……シロウには言わないで」


 泣きながら、子供のような懇願をするイズミ。だが、これだけの人間の前で、これだけの被害が出てしまっている以上当然シロウの耳に入るのも時間の問題だ。


 ナシュアは返事が出来ずただイズミの盾となった。



「だから無理があるんですってば。龍が鼠のふりして一緒に暮らせるはず無いんですから」


 シアンとヴィクリムはゆっくりとイズミに歩み寄る。


「行きましょう、魔王様」


 仲間を失った悲しみを押し殺して微笑み、イズミに手を差し伸べるシアン。



「……最初からこれが狙いか」


 ぎりっと歯ぎしりをしてシアンを睨みつけるナシュア。


 

「イズミ!来い!俺たちがどうにかしてやる!シロウだって……」


 ナシュアもイズミに手を伸ばすが、シロウと言う言葉にピクリと反応してイズミは一歩距離を取る。



 そして、恐る恐るシアンの手を取る。



 シアンはニッコリと満面の笑顔を見せる。


「私たちは絶対に魔王様を一人にしませんからね」


 そういうと、空間が渦を巻き、三人は姿を消した――。



◇◇◇


 負傷者439人、死者52人。


 交易都市シャヤルにて遂に魔王が顕現したそうだ。


 その名はイズミ・キリガミヤ。


 俺の幼馴染で、伝説の勇者だ。


 それが何故魔王になるって言うんだよ。


 正直訳が分からない。



 新聞の記事によると、ジーオ王子率いる四極天と魔王四天王の二人が交易都市の広場にて公開会談を行ったらしい。


 そして、始まって少しした頃卑劣にも勇者を騙り四極天に紛れていた『魔王』イズミが罪なき民衆に攻撃をして沢山の命が奪われたそうだ。


 そして、正体を現した魔王は、四天王と共に姿を消した。


 正直訳が分からない。



 きっと誤報ってやつだと思う。


 こうやっていつも通り草採りをしていればひょっこりいつも通り顔を出すに決まっている。



 そう思っているうちにとっくに日が暮れていた。



 草はもうカゴいっぱいだが、無心で草を集め続ける。


 月は少し近く、空に雲は無く森を明るく照らす。


 トルイの森は、夜になると魔物が出る。



 今はもう夜だ。


 だが、魔物は一匹たりとも出ない。




「いるんだろ?」




 何処とも無く呼びかける。



「……うん」


 上の方から声がした。



 上を見ても姿は見つからなかったが、イズミの声だ。


「よくわかったね」


「まぁね。夜になると魔物が出るはずなのに一匹も出ないからさ。それに……」



 言葉を止めると、イズミが催促をする。


「それに?」


「月が綺麗だ」


「ふふ、なにそれ」


 姿は見えないが、いつも通りの声でイズミは笑った。


 そうだよな、きっと何かの間違いだ。



「聞いた?」


 何の事か、イズミは言わない。


 当然、何の事かはわかるけれど。


「聞いた。嘘だよな?」



 少しの間が開いて、風が木を揺らし葉の擦れる音がする。


「ううん、本当」


「そっか」


 不思議とショックは受けなかった。


「一緒に謝りに行ってやるよ」


「ムリだよ」



「無理でもさ。何回でも、何人にでも、何年でも一緒に謝ってやるから」


「……ありがと」


「じゃあ――」


「でもダメだよ」



 声を荒げそうになるのをグッと飲み込む。


「そうだ、カカポ村行こうぜ。今から」


「魔王を倒したら、って約束でしょ?」


「あっ、魔王がイズミだとすると倒したら一緒に行けないじゃないかよ。嘘ついたのか?」


 そんな事本当はどうでもいい。


 でも、会話が途切れるとそのままイズミが居なくなってしまいそうに思えた。


「ううん、嘘なんてついてないよ?一緒に行くとは言って無いもん。『連れて行ってね』だったと思うけど」


「……なんか違うか?」


「全然違うよ。私を倒して……、髪でも、他の何かでも……一緒に連れて行ってね、って」



「っざけんなよ!」


 さすがに我慢できなかった。


「そんな事出来るわけ無いだろ!良いからとにかく降りてこいよ!」



「怒らないでよ」


「……っと、悪い。つーか、何で降りてこないんだよ。あっ、もしかして姿が醜く変わってる……とか」


「ううん、変わってないよ?醜くは……無いと思うんだけどなぁ」


 自信が無さそうにボソボソと呟くイズミ。


「じゃあ降りてくればいいだろ」


「顔を見ると……離れづらいから」


「じゃあさ、俺も連れて行ってくれよ」


 そう言うとイズミは沈黙した。



 イズミ?と聞き返すと漸く口を開く。


「ごめん、それは無理なんだ」



 俺は口を噤む。


 正直頭に来た。


 あれも無理、これも無理。


 百歩譲ってお前が魔王なのはわかったよ。


 でも、顔も見ずに信じられるか。


「シロウ?」


 今度は俺が貝になる番だ。


 何度呼びかけられても返事をしない。


 すると、木の実やらが降ってくるがそれも無視をする。


 



「もういいっ、じゃあね!」


 絶対に罠なので返事をしない。



 それから少し間を置いて、観念した様にイズミは木の上から降りてきた。


 悪戯をした後の子供の様に俺の様子を窺いバツの悪そうな表情で。



 それを見て、クスリと笑ってしまった。


「やっと来たか」


 イズミは口を尖らせて答えると、俺の左隣に座る。


「来た」


 こてんと俺の肩に頭をもたれる。


「魔王ってさ、不死なんだって」


「へぇ、すげーじゃん」


 軽い返事がお気に召さなかった様だが、気にしない。


「……他の生き物の命を吸い取って生きるんだって」


「……へぇ」


 イズミの話によると、俺ら生き物が酸素を吸って、二酸化炭素を吐くように魔王は他の生き物の命を吸って生きるそうだ。


 つまり、魔王を倒す為にはこの世界の生き物を全て殺さなければならないと言う事か?


「近い程、多いんだってさ。だから、もうシロウの近くにも来れないの」



 それでもついていく、とは言えなかった。


 ついて行って、すぐ死んで、イズミを悲しませる。そんな自己満足に何の意味があるのだろうか、と。



「シロウ、左肩に歯形あるでしょ?」


「あぁ、8年前の」


 気を失って、気が付いたら付いていた歯形。


「……ごめん、それ私なんだ」


 そう言って、イズミは恥ずかしそうに口を開けて見せる。


 それが何だか少し面白かった。


「噛むなよ」


「ふふ、ごめんね。でも、最後に……」



 イズミは俺の服の上から、肩をパクリと軽く噛む。


はいふひ(だいすき)


 肩を噛んだままそう言うと、イズミはポロポロと涙を流した。



「……迎えにいく」



 イズミは泣きながら、何度か頷いた。


「またね」



 そう言い残し、風と共にイズミは消えた――。

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ