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魔王軍に村を焼かれた俺、今日も元気に幼馴染勇者を後方支援~草をむしれば魔王が滅ぶ~  作者: 竜山三郎丸
勇者と薬売り

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舞台の幕

◇◇◇


 以前と同様に神獣ハクの作った異空間を潜るとそこはジーオの自室で、机には豪奢な紙に可愛らしい文字で書かれた手紙が置かれていた。


「お待たせ。その手紙がそう?」


 ジーオはコクリと頷いて、手紙をイズミに手渡す。


「あぁ。他の二人にも使いを出しているからじきに来ると思うよ。ざっくり話すと、一週間後に西方の交易都市シャヤルで意見交換がしたいってさ」


 国境付近にあるシャヤルまでは馬車だと6日。一応こちらの移動手段を加味しての要望のようだ。



「他の二人が来る前に、一つだけ確認しておきたい事があるんだ」



 ジーオの言葉に手紙から顔を上げる。


「どうぞ?」


「先日サラスラットの街で魔物の被害が出て、僕が討伐に出たんだけどさ」


「知ってるわ。新聞で読んだ。……50人被害が出たって」


 ジーオも悲しそうな顔で頷く。



「その時に四天王の一人、百獣姫シアンに遭遇したんだ」


 イズミは、手紙を持つ自身の手が汗ばみ、心臓の鼓動が速まるのを感じるが表情には出さないように努める。


「……だからこの手紙の書きだしは『親愛なるジーオ様』なのね」


「彼女はこう言った『本当は魔王様に来てほしかった』と。……その言葉がきっかけで一つの疑念が生まれてしまったんだ。魔物の言葉を真に受けたバカな妄言と笑ってくれたらそれでいい」



 イズミは、努めて平静を装いながら笑顔で首を傾げる。


「うん、何?」


 だが、その内心はぐちゃぐちゃだ。


 これからジーオが何を言うのか、(おおよ)その見当は付く。


 ――どうしよう、誤魔化せるのか、誤魔化していいのか。……正直に白状するべきか?


 ジーオは眉を寄せ今にも泣きそうな顔で、微笑むイズミに向けて口を開く。


「カカポ村の生き残り……」


 言葉を止めて、今さらながら言うか言うまいか逡巡した後、ジーオは声を振り絞る。


「……シロウくんは、魔王の生まれ変わりかも――」

「ジーオ」


 彼の言葉を遮り、イズミは涙目でジーオを睨む。



「シロウが魔王なはずは無い。二度と言わないで。冗談でも、本気でも」


 怒りで身体は震え、握りしめた拳からは血が滴り、鮮やかなカーペットにポタリと垂れる。


 その姿にジーオの胸は、具現化した罪悪感にギュッと爪を立てて鷲掴みにされたように痛んだ。


 魔物の言葉を信じて、勝手な推測で大切な戦友の大切な幼馴染を侮辱してしまった、と。


「……すまない」


 そして、イズミは涙目のままでまっすぐに、懇願するようにジーオに告げる。

「魔王の生まれ変わりは私。……シロウじゃない」


 イズミの言葉に耳を疑う。


「えっ……」


 ――冗談だろう?そうか、僕が意地の悪い憶測を口にしたから、きっとイズミも趣味の悪い嘘で返したのだ。


 だが、涙で濡れるイズミの目はまだ真っすぐにジーオを見据えている。


 口も、足も、身体も震えながら。それでもイズミは言葉を続ける。



「聞こえなかった?私が魔王なんだよ。カカポ村は、私のせいで滅んだの」


 イズミの大きな目からは、大粒の涙がポロポロと零れる。


「……そんなはずはない」


 嘘を言っている様には思えないが、その言葉は信じられない。


 何年も、魔王を倒す為に共に世界を旅してきた仲間だ。


「……ナシュアに聞いてみなよ。あの日の事を聞けばきっと信じるから」



 ナシュアは知っている?そうか、カカポ村に救出に赴いたのはナシュアだ。


 と、すると百獣姫シアンの言っていた『デカいのは知っている』とはナシュアの事だろう。


「……何で」


 言葉が出てこなかった。


『何で、君が魔王なんだ!?』――か?それとも、『何で、魔王が世界を救う旅をしていたんだ!?』――か?、……『何で、黙っていたんだ?』、か。何で……黙っていてくれなかったんだ?だろうか。



 イズミはジーオに深々と頭を下げる。


「お願い。シロウにだけは言わないで欲しいの。四天王と、魔王を倒して世界を救う。それは必ず成し遂げるから。……最期は、ちゃんと魔王は滅ぶから」


 もう二度と生まれ変わりもしないように、とイズミは言った。


「厚かましいお願いなんだけど、最期までシロウにだけは勇者って思われたままでいたいんだ」


 目に涙を浮かべながら申し訳なさそうに微笑むイズミに、ジーオは言葉が無かった。


 ジーオの反応を見てイズミはハッと我に返るとまた頭を下げる。


「……ごめん。勝手なお願いした。……ごめんなさい」


 

 だが、頭を下げているわけではなかった。


「シロウには、どうか戦って死んだって言って欲しい。ごめんね、お願いばかりで。でもお願いします」


 イズミはただ頭を下げて謝っていたわけでは無かった。


 首を差し出していたのだ。



 ジーオがグッと唇を噛むと、流れる血が下顎を伝う。


 剣を取るか、手を差し伸べるか。


 イズミの戦友として、国を背負う者として、ジーオは決断を迫られた。



 だがその瞬間、ゴンゴンと勢いよくドアがノックされ、その音で二人の心臓は鷲掴みにされた様に縮み上がる。


「うわっ!」

「きゃあっ!」


 一応のノックの後で無遠慮に扉が開き、ナシュアが現れる。


「おう。あー……、悪い。取り込み中か。……あの小僧泣くよなぁ」


 広い部屋の中で、不自然に近い距離に立ち、涙目のイズミと困った顔のジーオを見て何かを察して勝手に納得したナシュアをイズミは諫める。


「違う!勝手な勘違いしないでよ、バカ!」



「勘違いなんかしてねぇよ。修羅場か痴話げんかだろ?正確に把握してるっつーの」


 イズミとナシュアのやり取りを見てジーオはクスリと笑う。



「ナシュア、イズミから聞いた。僕も力になりたい」


 ナシュアはジーオを見て怪訝な顔をする。


「あ?何のひっかけだ、そりゃ。勝手に何かの力になってろ」


「違う!本当なんだ!イズミ!君も何か言ってくれよ!」


 イズミは申し訳なさそうにナシュアを見る。


「ナシュア、本当よ」


 その言葉と表情で状況を察したナシュアはガリガリと頭をかくと、呆れ笑いを浮かべる。



「なるほど。と言っても、何か変わる訳でもねぇんだけどな。今まで通りだろ。魔王を倒す為に、魔物達を倒す。最後のハッピーエンドは皆で考えようや」


 言い終えるとニカっとナシュアは笑う。


 無責任にも思えるその言葉にジーオもクスリと笑う。


「そうだね。遠いいつか、お芝居の演目になるようなハッピーエンドにして見せよう。王子と魔王の……」


「ちょっと、キャストミスよ」 


 口を尖らせて文句を言うイズミに、二人はまた笑う。


◇◇◇


 交易都市シャヤルは平等の街だ。


 身分も、国籍も、性別も、全て平らに等しい。全てに平等に価値があり、価値がない。


 この街で価値があるのはお金のみである。


「私この街好き~」


 中央広場に設営されている円卓を眺めながら、豪華なお皿に盛られたカットフルーツを食べる百獣姫シアンはニコニコと笑う。


「ワタクシも嫌いじゃありませんよ。シンプルで分かりやすい。人間の合法的調達も楽ですしね」


「魔王様、来るかな?」


「来るでしょうなぁ」


「ナギオウ、泣いちゃうかもよ」


「ウヒヒッ、それは楽しみですなぁ」



 魔王四天王筆頭、『爆心鬼(ばくしんき)ナギオウ』。


 爆心『鬼』の二つ名の通り鬼の血族であり、屈強剛健な身体と山をも砕く膂力を持つ。


 かつて魔王が封じられた事と己の力不足を誰よりも嘆き、魔王が転生し又再会できる日を誰よりも待っていた忠臣である。



「楽しみだねぇ」


 金に物を言わせて広場の中心に作られた会談用の円卓を、まるで舞台を眺めるかのようにキラキラとした瞳でシアンは見つめて笑う。


 300年ぶりの再会の時は近い。





 


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