四天王の会談
◇◇◇
――世界の最果ての辺境に位置する魔王城。
300年前までかつての居城であったこの城は、今は多重の封印で守られている。
その魔王城を眺める岩山に巨大な獅子の姿をした魔物がいた。彼こそが、魔王四天王の一人・『爆心鬼』ナギオウだ。
ナギオウの傍らの空間が急にぐにゃりとゆがむと、そのゆがみからは場に不釣り合いなかわいらしい少女の声が聞こえた。
「やっほー、ナギオウ。久しぶりっ。元気にしてた?」
声の主は同じ四天王の一人、『百獣姫』シアン。その後ろからは従者の様に『獄殺卿』ヴィクリムの姿も見える。
「おぉ、シアンか。久しぶりじゃのう」
そういってナギオウは鋭い爪と毛に覆われた巨大な手でシアンの頭を撫でる。シアンは嬉しそうに笑う。
「さて、立ち話もなんですので、お茶でも淹れましょうかね。ウヒヒヒヒッ」
触手の様に動く燕尾服の裾が岩をスライスして、即席のテーブルを作ると、どこからともなく取り出したティーセットで三人用のお茶を淹れる。
「おい、ヴィクリム。これじゃワシャ飲めんぞ」
巨大なナギオウの手にはどう考えてもティーカップは小さい。
「おや、これは失礼」
今度はナギオウサイズの巨大なビールジョッキを取り出す。
「それじゃ、とりあえず。カンパーイッ」
シアンが元気に掛け声を掛け、シアンが勢いよく二人のカップとグラスに合わせると、そのすべてが粉々に砕け散り、テーブルは汚れる。
「……シアン、アナタ馬鹿です?」
「あっ、ひどい。あんたこそもっと丈夫なの用意しなよ」
ヴィクリムは何事もなかったようにサッと一瞬でテーブルをきれいにすると、すぐに代わりのティーセットを用意する。淹れた紅茶は熱々だ。
「ガハハ、まぁまぁ。折角久しぶりに会えたんじゃ。喧嘩するな。貴様らは普段何をしとるんじゃ?」
「ん?人間と遊んでるけど。楽しいよ?」
「ワタシは最近料理に凝ってますねぇ。作りましょうか?ウヒヒ」
「ほほう。多趣味じゃのう」
「そういうナギオウは?」
「ん?ワシァ鍛錬じゃ。それ以外する理由もないしの」
シアンはパチンと手を叩く。
「それならなおさら人間と遊んだ方がいいよ!ナギオウも一緒に魔王様助けに行こうよ!」
魔王様、の名を聞いてナギオウは懐かしそうに眼を細める。
「そうか。元気にやっとるんか?」
「見たところ人間共の間で窮屈そうではありましたねェ」
「ふぅむ」
ナギオウは顎に手を当てて考える。
「皆殺しにしてワシらんところに連れて帰れば、笑ってくださるかのう?」
「あたしはそれでもいいと思ってるけど。あ、でも王子様みたいなかっこいい人はもったいないかな~」
「喜んでくれますかねぇ。狼に育てられた人間は狼になると言いますし」
「あっ、知ってるそれ。狼少年でしょ?」
「ガハッッハ、シアンは物知りじゃのう」
ヴィクリムは間違いに気が付きながら敢えて訂正はしない。自らの淹れたお茶を高い位置から口に流し込む。
「ウヒヒヒ、うまァい!」
会議に飽きたのか、シアンはナギオウに肩車をする。
「一番最悪なのはさ、あたしらがやられて、封印が解けた魔王様が一人になるパターンだよね」
「ですねぇ。よもや魔王様が負ける事はないでしょうが、……一人になるのを寂しがるお人でしたので」
「おぬしらはもうお会いしたんか?」
「ううん、あたしはまだ。ヴィクリムは会ったって」
「えぇ。多少違いはあれど、面影はありましたよ。闇夜のような黒い髪、白い肌、満月の様な瞳。ウヒヒ、懐かしいですねぇ」
それを聞いてナギオウは顎に触れながら目じりを下げる。
「そうか」
三人は三百年前を懐かしむように微笑む。
「笑っていて欲しいのう」
「だね」
――そして、シアンはジーオに宛てて会談の要請を書簡で送る。全ては、魔王様の笑顔の為に。




