君の背中を押す
◇◇◇
議会では、喧々諤々の白熱した議論が行われている。
『四極天程の力を持つ面々が今の時代に揃っている事こそ運命の証左である。魔王の封印が解けようが四天王を逐次撃破するべきだ』
『且つて伝説の勇者と言えどもその命を犠牲にしなければ封印できなかったのだ。それならば封印されているうちに魔王を倒し、四天王殲滅は後回しにするべきだ』
『ならば四天王を野放しにしている間に発生した被害は誰がどう責任を取るのか?』
『魔王を倒す。その為の四極天ではないのか?』
王族として席に座り、議論に耳を傾けているジーオにも結論は出ない。
「……面倒くせぇなぁ」
ジーオの横で席にふんぞり返って座っているナシュアが頭を掻きながらため息と共に愚痴を零す。
その姿を見てジーオはクスリと笑う。
「それにしても議会と君なんて意外な取り合わせだね」
「ん、そうか?ジジィが良く言ってたよ。人を外れた力を持つ以上人の声には耳を傾けるべきだってな。理解の外にある力は畏怖を生み、畏怖は些細なきっかけで恐怖に変わる、ってな」
「君は意外とお爺ちゃん子だよね」
それを聞いてナシュアは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「やめろや。そのくらい嫌と言うほど聞かされてきてんだよ」
喧々諤々の議論の中、正装で椅子に座る二人は小声で笑いあう。
――結局、議論の答えは出ずに対応は『保留』となった。
ネクタイを弛めて大きく肩を落とすナシュア。
「あー、無駄な時間過ごした。消極的現状維持は最も愚策だろうがよ」
そう言いながらもどこか安心した様子を見せる。
ナシュアをチラリと見ながら申し訳なさそうに微笑むジーオ。
「まだまだ僕らの信頼が足りないのかもね」
「よう、飯食ったら芝居見に行こうぜ」
「……好きだねぇ、君」
「ははは、おめーと行くといい席用意してもらえるしな」
◇◇◇
「あのさ~、三人しかいないのに四天王っておかしくない?」
王都から離れた国境付近の交易都市で、行き交う人を眺めながら百獣姫シアンは問う。
問われたのはシアンの傍らにて直立して、彼女に日傘を差す獄殺卿ヴィクリム。
「まぁ、ワタクシ達が名乗ってる訳でもありませんがね。ウヒヒッ。それはそうと、何でこのワタクシがあなたの使用人の様な真似を?」
「ん?間借りさせてもらっている恩とかはない感じかぁ」
「それを言われると苦しいですな」
傍から見る分にはどこぞの貴族令嬢と使用人と言った様子だ。
「一人足すか、呼び名を変えるか、だね」
「ワタクシの話聞いてました?個人的には3という数字はあまり好きではありませんので、一人足すのがいいんじゃあないのかなぁとは思うんですが、います?そんな人材?」
「誰でもいいんじゃない?どうせただの数合わせだし、死んだあいつだって元々ただの数合わせじゃん」
「ウヒヒヒ、それは手厳しい」
「ヴィクリム、あの飲み物おいしそう。買ってきて」
「はいはい、ただ今」
ヴィクリムが飲み物を買いに急ぎ歩く。
シアンは街行く人々を観察する。
別にヴィクリムの様に特別人間に興味がある訳では無い。
何故転生したはずの魔王が人に交り暮らしているのかが理解できないからだ。
「お待たせいたしました~、ウヒヒヒ」
恭しく両手でドリンクを持ち、不気味な笑みを浮かべながらヴィクリムが戻ってくる。
「ありがと~」
一口飲むと眉を寄せてすっとドリンクをヴィクリムに差し出す。
「まっず。あげる」
「あぁ、これはどうも」
ニコニコと受け取り、その場にドバドバと流す。
シアンは頬杖を突いて人々を眺める。
「ヴィクリムあんた人間好きでしょ?こういう街中にいると『お腹空いた~』とか、『美味そう!』ってなんの?」
シアンの質問がよほどおかしかったのか、いつもより高い笑い声をあげる。
「ウヒッ!大概の人間は豚や牛を見てもそんな事は思わないと思いますがね。動物園に行って真面目に空腹を感じるとしたらよほどの野生児か狂人ですよ」
「へ~、そういうもんか」
ヴィクリムは満足気にコクリと頷く。
「そういうもんでございますよ。ウヒヒ、人間は可愛いですよ」
「ん~、どうしようかねぇ。龍が猿の中で暮らしてても楽しくないでしょうに」
勿論シアンの言葉は例え話だ。龍は魔王、猿は人。
シアンは首を捻る。
「……どうしよっか」
シアンに日傘を差しながらヴィクリムも首を傾げる。
「ナギオウにも聞いてみません?」
「そうしよ」
シアンが軽くそう答えると、彼女の近くの空間が渦を巻くように歪み、二人の姿は消えた――。
◇◇◇
久し振りに我が家に帰り、申請書を作成する。
こう何日も家を空けると思っていなかったので、片付けもしたかったしあんまりお世話になりっぱなしの生活に慣れてしまうと後が辛いと思って帰って来た。
「そこ、字違うよ」
横に座り頬杖を突きながら誤字チェックをして下さる勇者イズミ。
俺が帰ると言ったらイズミも帰るといい屋敷を後にした。
「あ、どうも。あざっす」
「魔法の練習もしなきゃね、勇者様」
真の勇者であるイズミ様はニヤニヤしながら俺を勇者様呼ばわりするが、これは嫌味に該当する行為だと思う。
「人を勇者様呼ばわりしないでくれませんかね、勇者様」
「だって光属性じゃん」
「別に光属性が勇者って決まってるわけじゃないんだろ?前の勇者が光属性ってだけで、現に今の勇者様は風属性だろうが」
「練習するなら付き合うよ?」
と、話をしているうちにまた字を間違えた。
「あー、くそ。話しかけるからだろ。……はぁ、また書き直しだ」
訂正は3か所までと決まっているらしい。
今ので3回目。用紙をぐしゃぐしゃと丸めて屑籠に放る。
肩を落とし、大きくため息を吐く俺を見てイズミはクスクスと笑う。
「忙しいね。古代文字の勉強に、魔法の勉強に、合成魔法の申請書。後は?」
指折り数えながら俺に話を振ってくる。
少し前の俺の苦言などどこ吹く風というわけだ。風属性だけに。
話しながら書くとまた間違えるので、潔く書くのを止めてイズミに見える様に指を折り数える。
「日課の草むしりと~、商品のポーション作成と~、部屋の掃除と~、幼馴染の相手」
「お忙しだね」
「あぁ、特に最後のが中々大変でね」
「それは頑張らないとね」
他人事の様にニコニコと微笑むイズミ。
ここ数日こそ何事も無くのんびりと過ごしているが、議会の方針とやらが定まればまた忙しく飛び回る日々が始まるのだろう。
正直な話、光属性と判別されて嬉しい。
もしかすると、俺もイズミに肩を並べる何者かになれるかも、なんて思ってしまった。
だから、その為には俺も忙しく頑張らなきゃなと思う。
「イズミ。伝言。ジーオから」
と、噂をすれば遂に来た。
ノワとハクは遠く離れていても念波もようなもので会話が出来るようだ。
蛇なので眉は無いが、眉を寄せるような険しい顔でハクは言葉を続ける。
「百獣姫シアンから会談の要請だって」
イズミは俺を見てグッと両手でガッツポーズをする。
「シロウ、行ってくる」
会談の要請って……魔物が?明らかに罠だろ、と思ったがきっとそんなのはイズミだってジーオだってわかっているに違いない。
「おう。チャチャッと片づけてまた帰ってこいよ。あっ、ケガするなよな」
「うん!」
イズミは俺の差し出した手のひらをパンと叩くと、再び王都へと向かった――。




